僕には息子と娘が一人ずついる。
ちょうどその頃地元誌にエッセーらしきものを毎月書いていた時期であり、当然生まれた時のことも書かれており、久しぶりに引っ張り出し読んでみる。
といってもそのページを切り取り、ファイルして一冊にまとめてある。
6〜7年分になる。
それはともかく生まれた日の喜んだ様子が素直に書いてある。
夕方病院へ送り、明けて夜中の1時に、店に看護師さんより「もうすぐ生まれる」との電話が鳴る。
急いで店を閉め病院へ駆けつけたこと、今しがた生まれたとのこと、そして病院の自動販売機で買ったジュースで、なんせ夜中のこと、小さな声で嫁さんと乾杯したこと、等々である。
まだある。
ひと眠りした後、いそいそと楽器屋へ行き、記念のギターを買う。
そしてもうひとつ、バーを営っている身としてはこれは欠かせられない、酒である。
さて、何にしたかというと、ちょうどその頃限定発売されたのがワイルド・ターキーの12年である。(確か当時1本2万円だったはず)
それまで8年物しか知らなかった日本、丁寧かつ大事に造られた12年物の奥深さと同時に、華やかな香りと味にはビックリしたものである。
限定ゆえ三本しか入らなかった。
そのうちの一本を記念として残すことにしたのである。
最後に書いてある。
・・・息子が生まれたその日に買った記念のバーボンとギター、いつか二人でブルースを演りながらバーボンを飲る時を楽しみに、ゆっくり育てていこう。
・・・とある。
ギターは当時おもちゃ代わりに与え、馴染みながら好きになってくれればいいと思っていたが、ほんとにおもちゃになり、ある日、思いっきり倒してしまい、ネックが根元からぽっきりと折れてしまった。
当然楽器としては使い物にならない。
処分するしかない。
結果、ギターと一緒に撮った写真だけが残った。
記念のターキーの方はというと、店のバック・バーに色々な酒と並び、静かに“その時”を待っている。
そして“その時”がもうすぐやってくる。
来月でその息子が二十歳になるのである。
今は専門学校に通いながらバイトの生活、結構楽しくやっているようである。
今までイジメなど、また大きな病気、怪我もなかったことにもホントに感謝している。
来月その酒を空ける時が来た。
32年前にアメリカで生まれた酒である。
12年間樽でゆっくり熟成され、その後日本へ渡り、我が店で20年間静かに時を刻んだ酒である。
店へ息子と、もちろん生んでくれた嫁さんも呼ばなくてはいけない、その酒で二十歳を静かに祝いたい。