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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

ロブロイの階段

今回は現在進行形でもあるが、酒の失敗談である。 多少掲示板の書き込みと重複するところがあるがご了承願いたい。

酒の失敗と言っても、思い出しても以外と少ないような気がする。 飲みすぎ、道路わきの溝にゲーくらいは何回かあったかもしれないが、冗談でも酔っ払った勢いで喧嘩などした事もない。 もともと小心者の上に腕力もないときているから喧嘩などするはずがない。

ともかく先日は失敗した。
その日は金曜日、脳外科医のS氏と、もう一人ある大手の生保の所長F氏とお客はその二人である。 お二方ともバーボンのオンザ・ロックをグイグイと飲るタイプである。 僕も進められるままにグイグイと飲っていた。 数時間経ち、そろそろ看板である。
S氏が先に帰り、残ったF氏が「代行だけど、送ろうか?」と言ってくれた。 じゃあお言葉に甘えて、という事になり片付けを済まし、私服に着替えた。 F氏が「下で待っている」僕は「分った」と言いながら全てのライトを消し、いつも上がり降りしている急で細い階段を降り始めた。
ちょっと酔っているなあ、とは思ったがまあ慎重に降りたつもりである。 が、最後の数段を残し階段の縁に足を引っ掛けてしまった。 帰りだから階段の電気を消したせいもあるがまあ言い訳はすまい。 とにかく下の道路めがけてダイビングしてしまった。

利き手である右手を先に付き、頭、右肩の順に一回転した。 ビックリしたのは道路で待っていたF氏である。 階段から僕がゆっくり降りてくるはずが、頭から飛んできたのである。 一瞬なんのギャグだ!と思ったらしいが、吉本でもこんな危険なギャグはすまい。
さあ僕は「アイテテー」と言いながら起き上がったが、その時点で腕が痛い。 しかしあの細い階段から道路へ飛び込んだ割には幸いにして、頭に少し痛みがあるが顔に擦り傷もないし、また他もさほど痛いところはない。 F氏曰く、「実にきれいな飛び方だった。柔道の受身のようだった」と変にほめられた。 たぶんクルリと一回転したのがよかったらしい。 そのまま家まで送ってもらった。

夜中の三時半頃である。 嫁さんを起こし事情を話すと、あきれた顔をしながらもシップ薬を張ってくれた。
その日の10時ごろに起きるとまずはやっぱり行かねばならない、病院へ。 近くの整形外科へ行くと一目で「変形している」と言いながらレントゲンを撮ってみると、縦に何本かひびが入り、一部剥離、という事であった。
まずは二週間はギプスでその後「添え木」に変えましょう。 という事であった。 が、気持ちとしてはそんなにゆっくりもしていられない。 とりあえずあのごついギプスをはめたままでは、いくらなんでも仕事は出来ない。 氷を割るどころかグラスも持てない。 とりあえず次の週の木曜日までは休む事にした。

さて休んでるのはいいが、腕もギプスで固定している限り、不自由なだけで痛いわけでもない。 あまり休み慣れていないせいか2〜3日もすると、何やらずる休みをしているような、後ろめたい気持ちがしてくる。 それを察してか?掲示板の常連V氏の書き込みにあった。
 「プロ中のプロのバーテンダーは手の一本や二本使えなくても慌てない。おもむろにカウンターに上り、頭を支点に逆立ちし、両足の『土踏まず』でシェーカーを挟み、回転しながら足を上下させてシャカシャカシャカとシェークする」との事。
また「回転中でもお客様との会話を忘れない」ついでにあの『中国雑技団』もシーズンオフにはこの大技を見に来るらしい。

とまあ、大きな洒落を書き込んでくれた。
さて金曜日より仕事をするつもりである。 と言っても嫁さんの手を借りながらであるが、いずれにしろ無理やりでもギプスを外してもらわねばならない。 二週間のところを一週間足らずで外してもらえるとは思えないので、別な病院でちょっと日にちをごまかし、外してもらい「添え木」に変えてもらった。 が、それもちょっとやっぱりごつい。
ある人の助言もあり、添え木の代用品を探してきた。 調理用の大き目のスプーンである。 これを右腕に貼り付け包帯でしっかり縛る。 なかなか具合がいい「酔い良い」なってほんとは喜んでいられないのである。 お客様に「だいじょうぶ?・・フフン・」と半分笑われながら、僕は恥ずかしさでニヤニヤするしかない。

まだ満足に氷も割れない。 がいずれ添え木も取れ、あと少しで以前の腕に戻ることは間違いない。 三週間経ち今のところ、お客様にすまない気持ちと、後悔の念を胸に秘めながらただいま仕事中である。

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。