前回に引き続き、今回も酒の失敗談である。
最近、店のドア鍵の調子が悪い。
鍵そのものが悪いのか、鍵穴が悪いのか分からないが、差し込むと何かに引っかかりすんなり奥まで入ってくれない。
左右にガチャガチャとやりながら何とか開けると、抜く時もやっぱりガチャガチャとやらねば抜けない。
毎日の事だけに厄介と思いながら、いっそ鍵を変えてもらえばすっきりすると思うが、開けられないわけではないのでずるずるとそのままになっている。
実はこの場所へ移転する前の店でも同じような事があった。
やっぱり毎日ガチャガチャやっていると、ある日店を閉め外から鍵を閉めようと何とか鍵を差込みガチャンと回した途端、バキンと根元から折れてしまった。
折れた残りが鍵穴へ埋まったままである。
これではどうしようもないし、まずこれでは泥棒にも開けられないだろう、と思いながら夜中の事でもあるしそのままにして帰った。
次の日当然キー・バンクに連絡する。
一時間後くらいで来てくれるとのことだが、なんせ鍵穴は埋まったままである。
もちろん取り付け用のネジ一本出ているわけでもない。
いかにプロとはいえ開けるのに苦労するだろう、と思いながら待っているとやがて来てくれた。
名刺を僕に渡すと鍵穴に向かい、僕に背を向けほんの一分も経ったろうか、振り返ったときには鍵の本体ごと取り出されていた。
あえて作業を僕に見せないようにしたようにも感じられるが、とにかく鮮やかなものである。
そして新しい鍵を取り替えるまで10分もあればよかった。
僕はお礼を言いながら一万いくばくかを払った。
鍵は新しくなり、軽やかに開け閉めできるようになったが、それにしてもあの、鮮やかさにはびっくりしたと同時に、もし空き巣、泥棒が同じ技術を持っていたとしたらどんな鍵も何の役にも立たない。
と思わざるを得ないわけだが、頂いた名刺をみると警察の防犯課か何かに登録してあるようであった。
鍵の技術を持った彼らが将来空き巣に入らないとも限らない。
そのための登録制度なのであろう。
あくまでもその名刺が本物であったらの話だが。
忘れていたが本題に入ろう。十数年前の冬の事になる。
看板となり最後に残った常連のA氏が久しぶりに“焼き鳥横丁”でも行こうか、と言った。
焼き鳥横丁といってももちろん焼き鳥屋さんだけではない。
冬の事でもあるし一軒のおでん屋の暖簾をくぐると、屋台風の小さい店はおでんの湯気でむんむんしている。
久しぶりに芋焼酎が美味そうだ。
A氏の「俺のおごりだ」の声もあり、おでんよりも焼酎の杯がすすんだ、美味かった。
A氏もかなり呑んだようだ。
さあ帰ろう、と店を出てそれぞれタクシーを拾った。
さあ、それからである。
家のドアの前に立ち、鍵を取り出し鍵穴へ差し込もうとするがなかなか入ってくれない。
オットットットーと言いながらよく鍵を見ると店の鍵で開けようとしている。
「なんだ、開かないはずだ〜」と独り言を言いながら「今度は大丈夫だ〜」そしてまたオットットーと言いながら、ガチャガチャやるがなかなか鍵穴へ入らない。
ようするに酔っているのである。
夜中というより朝方に近いが、ドアを叩くか呼び鈴を押せば嫁さんが起きてくれるかもしれないが「酔っぱらって嫁さんを起こすなんぞ死んだ時ぐらいだ、ん」とまたわけの分からない独り言をいいながら相変わらずフラフラ〜、オットット〜とやっていると、ドアの前に角のある柱が1本ある。
フラフラ〜と後へよろけた途端、その柱の角へ思いっきり後頭部を打ち付けてしまった。
「アイタタタ〜」と言いながらやっぱり鍵と格闘していると、やっと開いた。
家の中へ入るとそのまま二階の僕一人の寝室へ入り、なんとかパジャマに着替え布団に入って寝た。
昼前になり、嫁さんが起こしに来た。
途端「キャー、どうしたのその頭」僕は最初何の事か分からなかったが、気が付いた。
枕と頭がべっとりと血だらけである。
とにかく病院へ行かねばならない。
べっとりと血の付いたままではいけないので、アイタターと言いながらも半分乾いているためなかなか落ちなかったが、そ〜と嫁さんに洗ってもらい病院に行くと「時間が経ちすぎ、傷口が開いたままで固まっている、もう縫えない」といわれた。
それから頭に白い包帯をまいたまま、お客様にちょっとの同情とクスクス笑われながらの一週間となった。
僕はただニヤニヤしているだけである。
調子のわるくなった鍵は素直に取り替えた方がいいし、酒はほどほどにしなければいけない。