ヤミヨのカラス
1.ミッション
昨年中国で立ち上げた工場の運営がうまくなく“何とかしてこんかい!”と言う指令がでた。
関空からキャセイパシフィック航空で香港へ飛び、バスに乗り換え深せん市という街に2時間かけて入る。近代的な大都会ではあるが歴史的な史跡など何もない無味乾燥な街。
2度目の訪問。
先月10月の話である。
2.帰国
1週間の出張予定が工場側との連携がうまく行かず土曜帰国を水曜日に延ばした。
キャセイパシフィック航空CX564便13:00現地時間発台湾経由のフライトだ。
直行便では関空まで4時間弱で着くが、そこは喫煙者。
4時間タバコが吸えないのは少しつらいものがある。
そこで台北経由であれば5時間以上と延びるものの給油地で約1時間半待合室で待機しタバコも吸える。
話はそれるが5年ほど前ロサンゼルスへ出張した折14時間ほどかかる機内で喫煙欲求が沸いたことがある。
もちろん禁煙フライトでありトイレで吸おうものなら1,000ドルの罰金と張り紙がされている。
そこで頭が一杯になったこと。
それは。。。
機内の喫煙者に呼びかけ1,000ドル集めスッチーの頬を札束で張り倒しトイレを喫煙者用に開放するグッドアイデアであった。
200人集まれば1人単価5ドルで格安!
しかし乗客の前にしゃしゃり出てどうやってアジ演説をやろうか考えているうちに寝込んでしまい、この計画は今だ実行できていない。
のん兵衛同様、スモーカーとは、そういうもんである。
中国本土から香港空港までの移動は出入国も含め順調で出発2時間前には国際ターミナルの中でお土産を買いフライトまで待つ。
搭乗までは暇を見つけてニコチンを体内に温存するためにひっきりなしに喫煙所へ向かう。
もうこれで良いであろうと搭乗時間ぎりぎりにゲートへ向かうが搭乗口が変更になっていた。
どうも何らかのトラブルで駐機場がやりくりされたようで、しかもフライト時間が40分後ろ倒しになっている。
もう一度喫煙所へ戻ろうと思ったが往復20分ほど掛かるし台北でも吸えるからと我慢することにした。
ところが。。。
遅れて出発した満席のCX564便は台湾上空で、とんでもないアホなアナウンスをし始めたのである。
“当機は出発時間が遅れました。時間短縮のため関空まで行かれる方は当機内で待機ください。機長命令ですので、降りられません。” ぬわぁにぃ〜!!!???
3.トランジット
CX564便は横揺れする下手糞なランディングで台北空港に到着する。
機内のアナウンスに関わらず乗客はベルトを外し手荷物を取り出し始める。
見渡すとほぼ全員がその作業を行っている。
先ほど聞いたのは聞き間違いだったのだろうか?ドアが開き移動が始まると小生もつられたように動き出し途中で挨拶を繰り返しているスッチーに確認してみる。
“関空まで行くんだけど降りていい?全員降りてるみたいだけど。”
“ここで降りる人は殆どが中国人で、あとは入れ替えになります。遅れを取り戻すため,1時間以内に搭乗を始めますので降りられません。席にお戻りください。” “でも、ちょっとだけ。” “駄目です!” “どうしても?” “ノォ〜〜!!”。。。。。。そのやり取りを後ろで見ていた別のスッチーが
“なに!なに!なに!どうしたの?”と興味深々の笑顔で駆け寄ってくる。背が高くかなりの中国美人。
“10分で良いんで降りたいんだ。” “は、はぁーん。タバコすいたいのね。分かった。外に居るグラウンド マネージャーに聞いてみるわ。”
最初のスッチーより格上らしい美人の彼女は受話器を持ち上げ中国語で交渉してくれた。
“OK!荷物を持って私に付いてきて!すぐよ!”
駆け足で機内から出るとそこにはグラウンドマネージャーが立っておりシート番号確認後トランジットの札を渡し喫煙所が階段を上がった上にあると教えてくれる。
手元を覗くと香港から関空への搭乗者リストはわずか10名足らずであった。
“シェシェ!すぐ戻るから!”。。。。スモーカーとは我がままである。
4.喫煙所はどこ?
トランジットのセーフティゲートにある金属探知機を通る際、トランジット札を見せ戻れるか確認する。
しかしそのイカツイ検査官は以外にも駄目と言い切る。
“なんでだよ!グラウンドマネージャーがOKって札くれたんだぜ!”
“グ、グ、グランド マザァー?”
“だれがお祖母ちゃんの了解で、この札だす空港あんだよ!グラウンドマネージャーだって。航空会社の!” “ああ、航空会社のスタッフね!OK!”連携の取れてない空港である。
第一関門は通過し、通路に到着するが喫煙所へ行ける2Fの階段が中々見つからない。
そばにお掃除おばちゃんが居たので尋ねてみる。
“シャオジェ(おねえさん)! 喫煙所どこ?”ところが英語が通じない。
指を2本立唇にあてタバコを吸うジェスチャーをしたが向こうは変なオッサンが投げキッスをしていると勘違いしたようで怪訝な顔で睨み付けラチがあかない。
そばで見かねた中国人のオッサンが道を教えてくれるまで空虚なボディランゲージは続いたのである。。。。
スモーカーとは、変態に間違えられても吸いたいもんである。
5.しっぺ返し
ようやく喫煙所にたどり着き、紫煙をくゆらせることで落ち着きを取り戻す。
搭乗アナウンスが、まだないことを良いことに3本吸う。
そうなればこっちのもんである。
ゲートに戻るまに台北の写真をとりセーフティの検査官に笑顔で挨拶し元の入り口に戻ってみると、機内に戻るそのドアは無常にも施錠されていた。
ドアをたたいてみるがガラス越しには誰も居ない。
よって3回目のセーフティゲートを通過することになるが、その顔見知りの検査官は“それ見たことか。もどれんかったやろ!”と言う顔をし再度金属探知機をくぐれと意地悪をしだす。
ますます連携のない空港だ。
何とか謝って道順を聞き、待合室にたどり着き一人だけの乗り継ぎ者として機内に戻る。
皆さんに迷惑をかける。
それがスモーカーである。
6.楽しんだ?
機内に戻り、その後で台北から関空への搭乗者が続々と入ってくる。
結構満席に近い。
搭乗者がほぼ全員席に付きかけた頃、先ほどの美人スッチーが小生と目が合い2本指を唇にあてタバコを吸うジェスチャーで
“楽しんだ?”と声をかけてくれる。
“シェシェ、3回も!”と笑顔で言った所で周りの雰囲気が、どうも変だ。
周りは初めて乗ってきた人ばかり。
小生とその美人スッチーの先ほどの経緯は知らない。
横からスッチーの顔を覗き込む人さえ出る始末。
周りから見れば美人スッチーに投げキッスされ、“3回もやったゼェ!”と元気良く答えたオッサン。
彼女は顔を赤らめ目をそらすとそのまま居なくなった。
彼女の固まった笑顔にある広がった瞳孔が“タバコ3本吸ったとか、もっと具体的に言って!”と物語っていたのに気付くのは、ずっと後であった。
それ以降、機内食を配る時も通路ですれ違う時も小生を見てくれず気まずいフライト。。。。
11月も出張予定で帰国はもちろん台湾経由。
スモーカーなんて!。。。。
タバコ発明した奴なんて!!インディアンに抗議してやる!!!などと責任転嫁するのもスモーカーの悪い癖。
のん兵衛と一緒かぁ!