奥平光城
それにしても今年の夏は暑かった。
気象庁が今年度から猛暑日という定義を設定したばかりに、日本全国いたるところで猛暑日となった。
いったい真夏日はどこにいってしまったのだろう、と心配になるぐらい猛暑日が続いた。
8月16日には、岐阜県の多治見と埼玉県の熊谷で、国内最高気温である摂氏40.9度が観測され、これまでの記録であった1933年山形での摂氏40.8度を74年ぶりに更新した。
温暖化が騒がれて久しい。
気候変動枠組条約に基づく京都議定書(COP3)はまだ僕が学生だった1997年に議決されたものなのだけど、世界に目を向ければまだまだ批准への足並みが揃っていないと言わざるを得ない。
もちろん二酸化炭素の排出と地球温暖化の因果関係についてはまだまだ疑問の余地があるのかも知れないけれど、それは世界中の科学者と気象庁にあるH社製のスーパーコンピューターに任せるとして、小市民の僕たちは、未来の地球環境を想い、今出来る事からコツコツと地道な活動が求められているのだと思う。
例えば寝苦しい夜には、ロブロイに通い、アイラ島のシングルモルトを喉に流し込み、クーラー無しでも寝付けるようにする(おっと少しリップサービス?)のも、未来の地球環境に優しい活動の一つなのかも知れない。
もちろん僕らの懐には優しくない活動でもあるのだけれど。
妻が環境省のウェブサイトから、「あなたのチャレンジ宣言カード」なるものを見つけてきた。
チーム・マイナス6%のチーム員として、日常のエコ活動を宣言することで、協賛企業からの特典サービスが受けられるようになるらしい。
なるほど、このように一般家庭の主たる消費者兼財務大臣のハートをつかむこの手のキャンペーンは、今、出来る事をコツコツと、に相応しい活動なのだと思う。
冷房の設定温度からはたまた風呂の残り湯の再利用や、自動車のアイドリング削減だったり、省エネ家電への買替促進だったり、御飯は保温するよりレンジで解凍する、等環境への取り組みは多岐に及ぶ。
さすがにスコッチの度数は42度以下のものにする、なんて項目はなかったのだけど・・・。
チャレンジ宣言カードを印刷して、マクドナルドに持っていくとなんとビッグマックが半額で買えるようになるらしい。
印刷されたカードを手に満面の笑みの妻を見ていると、主婦の目敏さ、いやいや、その未来の地球を想う気持ちに心が打たれてしまう。
と、前置きが長くなってしまったが、ここからがロブロイストの日々でお伝えしたかった衝撃的な出来事が始まる。
たしかにその夜は暑かった。
おそらく夜でも室内は30度以上あったのだと思う。
だけれども、その印刷されたばかりの、まだプリンターの余熱が残るチャレンジ宣言カードを持った妻は、おもむろにクーラーのスイッチを入れ、そのまま寝ようとしているのだった。
おいおい、さっき地球環境を大切にするって宣言していたじゃない。
それってマクドナルドの半額クーポンとは違うんだよ、ともちろん口では言えずに目で訴えかけようとしていたのだけど、それより早く「私だって分かってるって。だからクーラーの設定温度は28度にしてるんだもん。それより10ヶ月の娘にこの暑さを耐えろって言うの。だからあなたは育児が分かってないのよ!」と・・・。
たしかに言っていることは一理ある。
設定温度28度であれば嘘はついていない。
2006年製の最新エアコンで消費電力は少ないはずだ。
第一、10ヶ月の娘の体調を崩してまでチャレンジするものでもない。
妻は妻なりに考えているのだ。
少なくとも今回ばかりは、(正確にはいつものことなのだけど)僕の方の旗色が悪い。
ここは素直に謝って、僕もそのクーラーのある快適な部屋で寝よう、と枕を持って行こうとしたときだった。
妻「あなたはチーム・マイナス8%だから、クーラー無しの部屋で寝てちょうだい。」
僕「“#$%&&‘!!? チーム・マイナス8%って何?」
妻「だから地球環境が大事なんでしょ?あなたには8%ぐらい削減してもらわないと未来の地球が救えないのよ。娘のためにも頑張ってちょうだい」
妻「あ、それからついでに来月からあなたの小遣いはチーム・マイナス23%だから」
こうやってロブロイストの寝苦しい暑い夜は続いていく・・・
P.S.
妻の名誉のために追記します。彼女は普段のゴミの分別から、アイドリングストップから、何から何までチャレンジ宣言どおりに活動しています。しばらく地球環境は持ちこたえられそうだと感じています。