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(C)2003
Somekawa & vafirs

2006年シングル・モルトとの遭遇

森下明広

雪も降らぬ12月末日、思いもかけぬ臨時収入を手にした私は11年ぶりにスーツを買う事にした。
 「見た目より、おありなんですねえ。(ウエストが・・)」
 「82〜85センチくらいでしょうかねえ〜」私にウエストを測った店員さんは、何故か申し訳なさそうに言った。
85センチ・・・。覚悟していたとは言え、他人の口から直にその数値を聞いた瞬間は固まった。 今話題のメタボリックシンドロームの入り口に突入か・・・。 30代半ばで生活習慣病の影におびえるのか???・・・まあ無理もない。
2006年は私のヘタレ人生でアルコール摂取量は過去最高。 飲んだ喰ったで、体脂肪率も危険水準をかるく突破の28%を記録した年だったのだ。

ロブロイに始めて入ったのが、2年半くらい前だったと思う。 初めて注文したのがジャック・ダニエルのストレート。 私の敬愛するキース・リチャーズが愛飲しているジャック・ダニエルを頼んだ、それだけの話だ。
この店は「ブルースが流れる大人の隠れ家」としてインターネットで知っていた。 ブルース=アメリカ=バーボン、と単純な連想で注文しただけだ。 本当のところ、IW・ハーパーとジャック・ダニエルの味の違いも分らぬ味オンチだったのである。 ちなみにジャックは正式なバーボンではなく、テネシー・ウィスキーという事もこの頃は知らなかった。 酒の知識はこの程度、ブルースを聴くことがメインで、酒は二の次だった。

通っているうちにバーボンばかりじゃつまらないので、マスターお薦めの酒を飲み始めるようになった。 「薬品のような味だな」「塩味がする」「何かコゲ臭い」飲んだ当初は旨いとも、不味いとも思わなかった。 が、個性の強いウィスキー達に私はだんだん惹かれていくことになった。 それらがシングル・モルトと呼ばれるものだと知ったのは2006年に入ってからだった。
私にとってシングル・モルトの魅力は味の個性の強さは勿論、酔いの感覚が今まで飲んできた酒とは違うことにもある。
私流に解説すると、例えば焼酎。 何杯も飲むと胃に吸収されてだんだん熱くなり、逆流してアルコールが後頭部に入り込み頭をガンガン叩く。 これが従来の蒸留酒の酔いのイメージ。 シングル・モルトの場合は胃に入った後、良質なアルコールが気化されて口、あるいは頭頂骨から湯気のようにホワホワ出て夢心地のような感覚。 自分でも書いていて、ホンマかいな?ってな表現だが、酔うと事実そう感じるから仕方がない。
別に焼酎よりシングル・モルトの方が上と言ってる訳ではない、今までにない感覚を発見したのが驚きだった。

シングル・モルトの世界をもっと知りたくなった私は、6月頃から大型酒専門店で十数名柄も買い、自宅で飲み比べ味わった。 ロブロイ以外のバーでもシングル・モルトを飲みまくった。
ここ数年来の焼酎、ワインブームを冷ややかな目で見、マスコミがやたら騒ぐのを苦々しく思い「お前ら高い金出してホントに味分るのか?」「焼酎にレアモノもくそもないだろう!」と心の中で叫んでいた私だが、シングル・モルトには大枚をはたいてしまい、逆に内臓脂肪をしっかり溜め込む事になってしまった。

すっかりシングル・モルトの世界にハマッた私だが、現在はロブロイで「アロマが〜〜」「スモーキーでフィニッシュが〜〜」と、解説調で味の感想を言う事はない。 本当は人前でカッコよく酒通のフリをしたいのだが言語、文章能力がなく、言いたくても言葉で表現できないだけである、トホホホホ・・・・・。

マスターがグラスに注ぐ、そして飲む、「う〜ん、旨い」、「俺には会わないかな?」この2パターンしか私にはない。
ただ「2007年は未知のモルトをもっと飲みたい」と口ではなく、本心からそう言える。 もっとも今年は懐具合と腹回りを気にしながらだが・・・・・。

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