奥村有里子
(※文中の名前は仮名です)
バーボンのおいしさを教えてくれたロブロイのマスターからエッセイ書いてみない?と話をもらって、
引き受けたはいいけれどさーて、何を書こうか??
先月までのロブロイストを飾ってきた先輩達みたいには書けないなと思いながら、あれこれ考えた結果、
やっぱりこれにしようと決めた。
今年の4月に住みなれた金沢から静岡県掛川市に引越しをしたのをきっかけに20年ぶりに正社員として社会復帰をした。
それと同時に生活環境もがらっと変わった。
就いた仕事は派遣会社の労務管理。
メンバーの勤怠チェックやお世話をする仕事で、人と関わる事が好きな私には向いているかなぁと思ったのに・・・。
なんと相手はほとんど日系ブラジル人だったのだ。
なぜ、メンバーのほとんどがブラジル人なのかというと1990年に入管法が改正されて
日系2世,3世に定住者の資格が与えられ、単純労働につくことができるようになり、
経済不況である母国ブラジルよりもよい労働条件を求めて日本に移り住むようになったという。
現在静岡県は日本で2番目に日系ブラジル人が多い県になっている。
さて、そんな遠い所からやってきた彼らと出会い、挨拶をしようにも名前を呼ぶのも一苦労。
ずらずらと連なっている名前は一体どれが名字でどこが名前なの?「ちゃん」や「さん」をつけて呼んだ方がいいのかな。
そんなことから悩みは始まって、「言葉の壁」と「文化の違い」というものに振り回されている毎日を送っている。
私の担当人数は87人。日本人もブラジル人も変わりなく時間にルーズな子、シャイな子、おしゃれな子、色々だ。
でもこれだけいれば当然問題児もいるのだ。
この仕事に就いて最初に困らせてくれた子が「ジャソミエール」。
普段はとてもおとなしい子なのに、一つ気に入らない事があると家に引きこもる。
携帯は留守電になっているし、アパートへ行っても出て来ようとしない。
何度も足を運んで、買い物に出るときを捕まえてそのまま仕事先に送っていく。
このジャソミエールの引きこもりもかれこれ5回を数えるなぁ…。
スピード違反を重ねて点数がなくなり免停になった「スコンセレス・マルコ」。
飲酒運転でつかまってやはり免停になった「エドワルド・リー」と「ゴンザレス」。
罰金20万を払って一体何のために働きにきているの??
とはいえ、ちゃんと向き合えば友だちとして各家庭でするバーベキューに誘ってくれたり、
ギターを弾いてくれたりと、ラテン系のノリで迎えてくれる。
彼らにとって音楽はなくてはならないものらしく、どこの家に行ってもかかっている・・・
いつかサンバの踊り方でも教えてもらおうか。
巨人の選手ペタジーニに似た「エバンドロンチョ」
会えば必ずコーラを買ってくれる「ナタリーノ・マルセロ」
納豆大好き「アンドレ・パサレーノ」
いつもブラジル帰りたーいと言っている「宮崎フラビオーレ」
悩ませてくれるメンバーだけどもうしばらく付き合ってみますか?
明日も朝早くから、彼らに「ボンジーア」(おはよう)と声をかけながら、私の一日は始まるのでしょう。
そしていつか雪を見たことがない彼らに金沢の雪を見せてあげたい。