山 和史
バーロブロイのホームページのトップにはマスターの次の言葉が添えられている。
「合わない酒があっても、まずい酒は無い」
僕も各国を歩き回り色んな酒と出会い、そう思ってきた。中国でパイジョォに出会うまでは…
データそのT:パイジョォとは
- コウリャン・トウモロコシ・甘薯などを原料とし,蒸留して造ったアルコール分の多い酒。
白酒と記す。芽台(マオタイ)酒、五狼液などが、高級酒として名前が知られている。
- アルコール度数は弱いもので35度から、強いものは70度まであり、これを水などで割らずストレートで飲む。
価格は巾があり、先に述べた高級酒で一瓶(殆どの場合500ml)4,500円から一万円ほど。庶民が日常的に飲むのは、
150円から500円ほどの価格帯のものが多い。
- 中国でも上海や香港などの文明の発達した地域では、余り飲用されないが、
今でも牛や馬やロバが農耕に活躍している北部の地域に飲酒人口が多い。
- 客人をもてなす為の宴会の場でもよく用いられる。中国の宴会では、
客人がピクリとも動けなくなるまで酒を飲ませることが最良のもてなしとされており(ゲロなど吐くともっと喜ばれる)、
アルコール度数の低くかつ割高なビール等は効率が悪いので余り用いられず、専らこのパイジョォが活躍する。
飲酒時の記憶には自信があった。かなり痛飲して前後不覚となっても翌日には全てのことを覚えていた。
時には忘れてしまったほうがいいような失敗、失言も有るが、翌朝、自分を落ち込ませるほどに充分なほど全て鮮明に覚えていた。
これもパイジョォに出会うまではだけど…
データそのU:宴会での飲み方
- 宴会時のグラスの大きさに特に決まりは無いが、北部ではワイングラスを用いることが多い。
一杯に大体150mlほど入る。
- 主導権は招いた側にある。招待側の最も偉い人がツルツル一杯までパイジョォを注がれたグラスを手にして、
「今からこのグラスの酒を6回で飲みましょう、さあ1回目!」との音頭の元に、全員各々のグラスに口をつける。
パイジョォにはツーンと鼻をつく一種独特の刺激臭があり、これを嗅ぐと、これまで白酒によって
酷い目に会った事が走馬灯のように頭の中に去来し、胃や肝臓、食道までもが、不快感を表明し、飲む前から吐きそうになる。
- この後、2回目、3回目と続くのだが、飲む時は必ず全員一斉に飲み、単独行動は反則となる。
- 最終回である6回目は、その時点でグラスに残っている全ての酒を飲み干さなければならない。
これを中国では干杯(カンペィ)と称す。残すと全員より非難の視線が浴びせられ、飲み干すまで許してもらえない。
よって、それまでのペース配分が重要となる。沢山残すと最後の干杯が大変であるし、誤って5回目で飲み干すと、
6分の1の量の酒が注がれることになる。
酔いは先ず消化器系から始まる。不快感を表明していた胃や食道は、この時点では、
痺れてものが言えなくなっている。嗅覚も鈍くなり、あの刺激臭が感じられなくなっている。
血液中に入り込んだパイジョォは、その最終目的を果たす為に、静かに静かに工作を行なっている。
- 2杯目が注がれる。今後は個人戦も交えた戦いとなる。とにかくこの時点で招待側は既に標的を定めており、
誰がどのようにどの客人を酔わせて潰すかのシナリオも出来上がっている。
- 見知らぬ人が杯を片手にニコニコと笑いかけて来る。目が会うと、グラスを持つように催促される。
ここで飲む量の取り決めが成される。全部干杯、ダメ!4分の1、ダメダメ!じゃあ半分といった具合に、
ウォーミングアップに過ぎなかった1杯目とは比較に成らぬほど速いペースで酒を飲まされる。
この頃には身体の大部分はパイジョォに支配されているので、飲んでも不快感は余り無い。
ただ、この辺りから背中に自分では見えないブレーカが現れて来ているのだと思う。
データそのV:天国そしてTHE END。
- 目の前の誰かが立上がり、杯に残った酒の干杯を求めてくる。仕方なくこちらも立上がり、杯を鳴らし、勢いよく飲む。
相手は座って飲んでいる。立ったまま飲むのは反則だ!もう一杯だ!と訳の判らないローカルルールを押し付けられる。
グラスに酒が注がれる。罰ゲームとして一人干杯をやらされる。
- だんだん楽しくなってくる。周りを見たら既に動かなくなっている同僚がいる。
掛かってもいない携帯に電話が掛かってきたと慌てて部屋を飛び出して逃げる輩もいる。
- あー楽しい。今日のパイジョォは悪くないじゃないか!。酔いも大した事無いし。
エッ、もう一本開けようかって?来来(ライライ)!(来なさい!の意味)バイジョォ万歳!!宴会万歳!中国万歳!
<<<<<<<<<<<<< ガン! >>>>>>>>>>>>>
血中アルコール濃度が限度を超えた時に作動する背中のブレーカが、何の前触れも無く落ちた。
THE END。中国語では「終了」。
ベッドの上で朝を迎える。重い頭を回し、ここがどこかを確かめる。どうやってここに来たのだろうか?
案の定、昨夜の服のままだ。いつブレーカが落ちたのだろうか?何も覚えていない。
すごい二日酔いだ。右わき腹がズッシリ重い。肝臓が悲鳴を上げている。既に酔いがかなり覚めている胃と食道が、
僕の起きるのを待っていたようだ。一晩中暴れまわったパイジョォを早く体の外に出したがっている。
脳に居ついたバイジョォは未だ暫くは出て行くつもりが無いようだ。もう二度と飲むものかと心に誓う。
データそのW:被害集
- 年間何人かの日本人ビジネスマンが、パイジョォで命を落としている。死因は急性アルコール中毒もあるが、
殆どの場合、窒息死である。飲みすぎた人を介抱して寝かせる時は、仰向けは禁物。吐いた物が咽喉に詰まり窒息する。
必ず横向きに寝かせるように。新聞紙を敷くとなお良い。
- 本年、当社の営業員は2名、宴会後病院送りとなっている。
両名共に足と手がいうことを利かず顔から砂利道に転倒。顔中に小石が埋まった。
- 飲んでいる最中に目の中でコンタクトが割れた同僚がいる。
- ホテルの部屋まで自力で帰ったがそこでブレーカが落ちて、ドアの前で眠ったことがある。(本人)
- 昼の宴会後、翌日の朝まで20時間眠り続けた(パイジョォに体を占拠された)。(本人)
皆さん、飲みすぎには注意しましょう。
でも中国に行ったら必ずパイジョォを飲んでね。
日本パイジョォ普及会 会員より。