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(C)2003
Somekawa & vafirs

弊害

札幌のムジナ改め笠舞のムジナ
 佐津川

ロックグラスの氷が乾いた音をたてた。いつもの鶏の絵柄の付いたボトル(コック・オブ・ザウォーク)をオーダーする。 最近一番気に入っている酒だ。グラスを手でもてあそびながら、「それにしても・・・・・」思わず苦笑いが出た。 人の話を聞けない、いや聞かない連中が多くなった。一対一で向き合っていても、横に並んでいても、 グループでも例外なくほとんどの人が話を聞いていない。自らを振り返れば、その原因の一部はわたしにあると思うが、 たまに真実(嘘偽りのない)の話をしても、なかなか信じてもらえない。 身から出たサビとは言いながらも寂しさを感じるこの頃である。
 「中国では何でも料理して食べるらしいよ」
 「・・・・・・・・・・・?」
 「四つ足ならコタツ以外なんでも食べちゃうんだって?」
 「何でコタツは食べないの・・・?」
 「あれは、あたるから・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 「空を飛ぶものは飛行機以外、何でも食べちゃう!」
 「アレは落ちるから?」答えになっていない。

 「昔、南のさる国ではなんと食人の習慣があって子どもが『オッ母あー、あの上を飛んでいる光る物はなあに』と聞かれて『アー、アレはね空を飛んでいる海老みたいなものよ。殻はとても固いけど、中においしい実が沢山入っているの』」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・」相手、無反応。

 「ゾウをさあ、冷凍庫に入れる三つの条件て知ってる?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・?」
 「だからさ、ゾウを冷凍庫に・・・・」
 「なんで・・・?」
 「なんだって別に理由はない、入れるにはどうすれば良いかって話し」
 「わっかんな〜い」(少しは考えろよ)

 「じゃあ、無事冷凍庫にゾウを入れました!としよう。次はキリンを冷凍庫に入れる四つの条件は?」
 「まだ続くの?」もう考えてくれって、話しが続かないでしょう?
      ・・・答えはロブロイのカウンターで・・・

 「ドイツのハンバーグとイタリアのドーナツと中国の餃子の話し、知ってる?」
 「・・・マスターなんか甘めのカクテル、欲しいな」

 「ドイツではハンバーグはどうやって作ってると思う?ハンブルグの有名な店ではねー」
 「ねえ、ライチのリキュールの入ったのがいいな、あの香りが好きかも」

そんな会話が続いてもひと言、たったひと言でその会話は終わる。前は気にならなかった、あのひと言。
 「へえー」語尾上がり(同時に小さく、時には大きく頷きながら手でカウンターをたたく) いつの頃からかみんなが使い始めた恐るべき技。これをやられた日にゃあアナタ、もうお手上げ。何を言ってもムダ。 しゃべれば、しゃべるだけ奈落の底へはまってゆく。次に何処で「へえー」を言ってカウンターを叩こうか、 話の内容にそっちのけで構えてるんだから・・・。公の場でこの技が使われる日も、そう遠くないだろう。 いわゆる究極の否定技として。
 「へえー」の言えない気の弱いアナタ、その時そっと手を出して軽くカウンターを叩くだけでOK。 そういえば連れも、マスターの顔を見ながら右手を出して・・・。

小賢しい浅知恵を披露する輩には、これほどの決定打ないという利点もあるのだが・・・。
 「それにしても・・・・・」今度はため息まじりでコック・オブ・ザウォークをオーダーする。 これからはちゃんとした話の出来る大人になろう。もういい年だし。決定打をくらわないうちに・・・・・。

追記 題名の弊害は今回に限り「へえーがい」と読んでくだされば幸いです。
  「へえー」と同じく何とかなりませんか、アレ、
  「ありえな〜い」ってやつ、とほほ・・・。

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