札幌のムジナ改め笠舞のムジナ
佐津川
ロックグラスの氷が乾いた音をたてた。いつもの鶏の絵柄の付いたボトル(コック・オブ・ザウォーク)をオーダーする。
最近一番気に入っている酒だ。グラスを手でもてあそびながら、「それにしても・・・・・」思わず苦笑いが出た。
人の話を聞けない、いや聞かない連中が多くなった。一対一で向き合っていても、横に並んでいても、
グループでも例外なくほとんどの人が話を聞いていない。自らを振り返れば、その原因の一部はわたしにあると思うが、
たまに真実(嘘偽りのない)の話をしても、なかなか信じてもらえない。
身から出たサビとは言いながらも寂しさを感じるこの頃である。
「中国では何でも料理して食べるらしいよ」
「・・・・・・・・・・・?」
「四つ足ならコタツ以外なんでも食べちゃうんだって?」
「何でコタツは食べないの・・・?」
「あれは、あたるから・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「空を飛ぶものは飛行機以外、何でも食べちゃう!」
「アレは落ちるから?」答えになっていない。
「昔、南のさる国ではなんと食人の習慣があって子どもが『オッ母あー、あの上を飛んでいる光る物はなあに』と聞かれて『アー、アレはね空を飛んでいる海老みたいなものよ。殻はとても固いけど、中においしい実が沢山入っているの』」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」相手、無反応。
「ゾウをさあ、冷凍庫に入れる三つの条件て知ってる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・?」
「だからさ、ゾウを冷凍庫に・・・・」
「なんで・・・?」
「なんだって別に理由はない、入れるにはどうすれば良いかって話し」
「わっかんな〜い」(少しは考えろよ)
「じゃあ、無事冷凍庫にゾウを入れました!としよう。次はキリンを冷凍庫に入れる四つの条件は?」
「まだ続くの?」もう考えてくれって、話しが続かないでしょう?
・・・答えはロブロイのカウンターで・・・
「ドイツのハンバーグとイタリアのドーナツと中国の餃子の話し、知ってる?」
「・・・マスターなんか甘めのカクテル、欲しいな」
「ドイツではハンバーグはどうやって作ってると思う?ハンブルグの有名な店ではねー」
「ねえ、ライチのリキュールの入ったのがいいな、あの香りが好きかも」
そんな会話が続いてもひと言、たったひと言でその会話は終わる。前は気にならなかった、あのひと言。
「へえー」語尾上がり(同時に小さく、時には大きく頷きながら手でカウンターをたたく)
いつの頃からかみんなが使い始めた恐るべき技。これをやられた日にゃあアナタ、もうお手上げ。何を言ってもムダ。
しゃべれば、しゃべるだけ奈落の底へはまってゆく。次に何処で「へえー」を言ってカウンターを叩こうか、
話の内容にそっちのけで構えてるんだから・・・。公の場でこの技が使われる日も、そう遠くないだろう。
いわゆる究極の否定技として。
「へえー」の言えない気の弱いアナタ、その時そっと手を出して軽くカウンターを叩くだけでOK。
そういえば連れも、マスターの顔を見ながら右手を出して・・・。
小賢しい浅知恵を披露する輩には、これほどの決定打ないという利点もあるのだが・・・。
「それにしても・・・・・」今度はため息まじりでコック・オブ・ザウォークをオーダーする。
これからはちゃんとした話の出来る大人になろう。もういい年だし。決定打をくらわないうちに・・・・・。
追記 題名の弊害は今回に限り「へえーがい」と読んでくだされば幸いです。
「へえー」と同じく何とかなりませんか、アレ、
「ありえな〜い」ってやつ、とほほ・・・。