端野優子
西暦「1999」から「2000」になる頃にヤツは突然やって来た。ヤツが来た日から夫はヤツに夢中になった。
どんなに疲れて帰ってきても、夫はヤツとばかり向き合う。ヤツを眺め、時には笑いながらヤツと見詰め合ってる。
(・・・・・なんだコイツ・・・・)
ヤツよりもむしろ私をほったらかす夫に腹が立った。
(なにがそんなに面白いんだ・・・・)
夫が嬉々として眺めている画面を私ものぞいてみた。
一番上に青いスカンクが書いてあるさっぱり判らない文章が書かれた掲示板。
まったく見たことのない、だけどクセのありそうなミュージシャン達のライブの写真。
画面の左端に<お気に入り>という欄があった。よく見てみると、ブルースのホームページばっかりだ・・・。
(そりゃあ楽しいわな・・・、面白いわな・・・)
まぁ、いいか・・・とそれからパソコンにばかりがじりついている夫をあまりいじめないことにした。
そして、インターネットなんて私には無縁の世界だ、と思っていた。
ヤツことパソコンが我が家にやってきて、半年がたった2000・6月の朝。新聞を読んでいたら
写真週刊誌の広告に「三沢光晴、全日本プロレス電撃退団!」という見出しがあった。
突然のスター選手の退団にただただ混乱して、とにかくコンビニへ走った。
そして件の記事を立ち読みしたけど、一体何が起こったか把握できず、即、家に戻って思いきって
パソコンのスイッチを入れてみた。とにかくクリックしまくった。
それから月日は流れて、今では私の方が長時間、画面に向いニヤニヤ、クスクスしている。
プロレスや音楽のHPを通してネット仲間ができ、メールやチャット、掲示板でのやりとりを楽しんでいる。
共通の趣味で、かつ気が合う人でしか分かり合えないバカ話は最高だ。深夜にイイ大人が爆笑も交えつつ、
一人チャットで盛り上がってる様は我ながらかなりオタクっぽい。
私がネットにはまったキッカケは「三沢光晴」だった。三沢選手が今も全日本プロレスにいたならば、どうなっていたことか。