近藤 嗣紀
私は転勤により、現在は会社の九州支店に所属していますが、それまでは本社の営業部署に所属し、
お客様が全国組織であることを好都合?に一週間に一度は出張をしていました。
出張先での唯一の楽しみは、もちろん土地の食べ物と酒。
しかし、よく出かけるところならまだしも、知らない土地で居酒屋やバー・スナックに入るには、
事前のリサーチでもしていない限りちょっと不安なものです。居酒屋なら赤提灯やもれ伝わる香りや音でなんとなくわかります。
しかし、バー・スナックは「高いんじゃないか?」「暴力?バーじゃないか?」など、かなり敏感になってしまいます。
そんな不安を解消する為の簡単にできるリサーチを、当時の上司からおそわりましたのでご紹介します。
島根県松江市。日中、客先での打ち合わせを終えて、駅前のホテルへチェックインした私と上司は早速、駅に程近い居酒屋へ。
これが、大当たり。山陰の地魚を刺身だけではなく、焼き物・煮物あらゆる調理法を駆使して食べさせてくれ、
「お勘定!」
と発すると、カウンター内のおかみが、
「シジミ汁飲んでいきな」
そう宍道湖のシジミの味噌汁。飲んだあとの胃にぴったり。満足。
山陰の味も堪能し店を出て、ホテルへ帰ろうかと思っていた矢先、
「歌でも歌いにいくか」
この上司は社内でも有名なカラオケ好きでありました。
彼は、夜の松江を肩で風切ってさっそうと歩きます。そのあとをちょっと不安げについていく私。
ネオンが何軒かある雑居ビルに入りました。・・・さすが出張の多い人だけあって、
こんなところにまで知っている店があるのか・・・そして、2階のとあるドアをあけて入りました。
中にはカウンターがあり、その向こうにはさっきの居酒屋のおかみさんが厚化粧したようなママらしき人がひとり。
「いらっしゃいませ」(にやっ・・)
「あれ〜?ヤツ、いねーなー。ごめん、おれ、店間違えたかな?じゃあ!」
二人ともすぐドアのそとへ。
「ここじゃないんですか、いつもくるところは?」
「ハハハ・・・あんなばあさん相手じゃな」
「ええ。(苦笑)」
「ん、?」
そして次の店に。
「いらっしゃいませ」
「おい、こんどう、ヤツいねーぞ、店違うだろ?」
・・・!瞬時に判断できる私も凄かった。このテで上司は、よさそうな店を探しているだけだった。
「すいません。確かこの店だと思ったんですが。」
「ママ、ごめんね。こいつ間違ったみたいで」
「・・・・・・・」
また、ドアの外へ。このパターンで私と上司は気に入る店がみつかるまで、ヤツを探し続けました。
・・・ひとしきり捜索が終わり、夜の道端で、
「さっきの四件目でどうだ?」
「いいですよね。雰囲気・・・」
「よし、歌いに行くぞ。」
そして、四件目の店へ。
「いらっしゃいませ、あら、お友達みつかったんですか?」
「いやあ、ヤツ来れないって電話入ったんだ。だから、うちらだけで飲もうと思ってね」
「あら残念、でも、大歓迎です」
そのあと私達は上司の立案により、点数付カラオケの得点当てゲームを店内で企画し、
ママや店の従業員に勝利して一晩で約2万円ほどの収入を得るに至った。
楽しい松江の夜だった。しかし、ヤツは来なかった。