僕の店はビルの二階にある。
ビルといっても2階は我がロブロイだけの小さいビルである。
当然エレベーターもなく、一階から直接階段を上がればよい。チョッと狭い、チョッと急な階段ではあるが。
階段をトントンと上がってくる音がする。ドアが開く。「いらっしゃい」そして椅子に掛ける。
たったこれだけの流れなのだが、これがなかなか色々なパターンがあって実に面白い。今回はそのうちのひとつ。
先日階段の下で「キャーッ」と言う悲鳴がしたと思うと「アイタターッ」と言う声がする。
どうやら一段目を踏み外したらしい。続いてドター、バター、オットットー、フンガーとまあ騒がしく上がってくる。
そして両手でドアをドーンと押し開き、僕の顔を見ると「もういらん、もう飲まんどー」と言いながら(と言うより叫びながら)
カウンターの椅子に向かってドドドーッ、ドスン。
と、こう書くとなにやら野生のイノシシ、はたまた暴れ牛のようだが実は30過ぎの独身、今風の細身の美人である。
ともあれ「もういらん」と言いながら酒場にくる客も珍しい。
飲めないなら来るな、まして急な階段で痛い思いしながら、と言いたいところだがしょせん男は女性には弱いものである。
僕は冷たい水を出しながら「大丈夫?」と聞いてみると、突然元気な声で「バーボンで乾杯しよう」となる。
彼女のお気に入りのバーボンはコック・オブ・ザ・ウォーク12年である。
オンザ・ロックで何杯(回)かの「カンパーイ、ガチャン」が続き、
最後の一口をグイと飲み干し「フ〜ッ、オイラ酔っ払ったぞう〜、ウチへ帰る」と言って椅子から立ち上がり、
ドアの方へ向かおうとした途端、ドテーッ。何とか立ち上がり、ドアを引き今度は慎重に。
しかしまたオットットー、ドタン、バタンとやりながら階段を降りてゆく。
僕は階段の上から「気をつけてー」と声をかけると「アタイこの階段キライ〜」と振り向いた途端、最後の一段を・・・・・あぁぁ。
う〜ん、やっぱり女性はすごい、強い、元気だ。りっぱな“飲ん娘”である。