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(C)2003
Somekawa & vafirs

『“寝酒の怪”の巻』

ヤミヨのカラス

【オフダ】
“いつまでオイル持たして走らしてくれるんじゃ!”
エンジンの穴開きで、死にかけてから1年が経ったが、オイル漏れは何度修理してもらっても治らず、“赤い男爵”の店長に、噛みついてしまった。
店長は考えた挙句、違うモトクロッサーをタダで交換してくれると言う。(言って、みるもんである。)
年式は少し新しい。全体に赤が基調で、好みではないが、無論、選り好みはできない。
手続きが整い、走り出したとたんにスピードメーターが動かず、即修理。
前回のこともあるので、そのまま白山比盗_社に直行しお祓いをしてもらうこととした。
ピカピカの新車たちと並んで、“こんな汚いバイクにお祓い?”と、怪訝な顔の神主より、お祓いを受け、“交通安全“のオフダはフロントライト裏側のフレームに張り付けられたのである。


【某市某所】
お祓いを受けた数週間後の土曜日、久しぶりの秋晴れなので、福井県の山間部にツーリングにでた。 九頭竜川を遡り途中で見つけた風情のある蕎麦屋で腹を満たした後、林道へ入る。
トンビが上空で輪を描き、ススキが風に揺れるのを眺めながら単車を転がす。 とても気持ちがいい。

あてどもなく砂利道の林道を2時間ほど走り、そろそろ山里か、と思ったところで三叉路に差し掛かった。
どちらに向かえば良いか?単車を止め周りを見渡す。
幹が太く背の高い杉が何本も生え、日光を遮っている。 その杉の並木が続く先に、何やら小さな石の地蔵らしきものが見える。
寺のようだ。

ちょっと覗いて見ようと思い、徐行しながらクの字に曲がった坂を登る。
上りきった所に駐車場が見えた。
そこまで行こうとしたところ、 、我が単車は、小さな石ころを乗り越えられなかったのか”ストッ”とエンジンは止まった。
“変やなぁ?”と思うものの、お寺なので騒音を出すとまずいので、その場でスタンドを立て、歩くこととする。

しばらく行くと、手洗い場があり、その壁には子供の像が彫りこんである。 横を向くと遠くに本堂があり、そこには、中年の夫婦と思われる男女2人が焼香をしていた。
“水子寺か。。。。”
周りを見渡すと道の両端には、子供の形をしたお地蔵さんが佇んでいた。 観光の寺でもなく、まして独身の小生には関係は無い。そう思うと、なんか薄気味悪く背筋が寒くなった。
なんか肩も重くなったような気がする。 “帰ろ。”

バイクの向きを変え坂道を自然落下に任せて加速させ寺から離れたところでクラッチを繋ぐとエンジンは一発で始動。 空腹とビールの欲求に耐え切れず、我が愛すべき独身寮のアパートへ一目散に駆け出した。


【寝酒の怪】
それは夢から始まった。 その晩はスーパーで刺身を買い、ビールでツーリングの疲れを一気に流し込み、そこから福井の銘酒“一本義”の冷酒をやりながら“幕末”もののレンタルビデオを鑑賞。 ほろ酔い心地でベッドに潜り込み眠りに就いた。 ツーリングの疲れもありグッスリ眠っていたところに、

”僕はここだよ!” と、子供の声が聞こえてきたのである。
目が覚めたと思った瞬間、小生の体(魂?)は一気に鷲掴みにされ上空へ引っ張りあげられていた。

引っ張り上げられた空は、黒い雲に覆われており風が強く、時たま月の光が見え隠れしている。 上空に引っ張りあげられてから、水平方向に雲をかき分けながら移動するのが分かる。
そのうち地表に下ろされた。

その場所は海に降り注ぐ川の河口手前の土手であった。 土手は砂利道で川の右側にあり、川は左に湾曲し、遠くには鉄橋のようなものが見えた。 風は強い。

”僕はここだよ!ここにいるんだ!” 姿は見えないが、男の子の声が頭に直接届いてくる。

小生は、何が何だか訳がわからないまま、 固い地面を手で撫でまわしていた。

その数秒後、別の力が、また漆黒の闇の空に向かって引っ張りあげ、横っ跳びに移動し、今度は山の裾野の中腹に下ろされた。
ススキが強風でナビイテいる。
周りは山だということ以外は何も分からない。

今度は女の子の声。 ”私は、ここ!ここにいるの!ここ!”

茫然と立ち尽くしている小生は、その声を聞いて我に返り、叫んでいた。 ”なんで連れ回すんや?!俺に、どうしろって言うんじゃぁ〜〜〜!!!!!”と、叫んだところで、夢から覚めた。
汗びっしょりだった。
月の明かりがカーテン越しに見える。

今度は金縛りにあっていた。 窓側に向かって横向きになったまま体が動かない。 その時、背後に人気を感じ、ヒソヒソ声が聞こえてきた。
どうも夢の中で小生を引っ張り回した男の子と女の子の声のようだ。
金縛りで振り返ることもできず、恐怖は最高潮。目も開けられずにいた。 そのヒソヒソ声はまだ続いていた。 が、そのうち男の子が “帰ろうか?”と囁き、 “うん、帰ろ。。。。。” 女の子が答えた。。。。。

その瞬間、閉じた瞼の奥で、顔形の黒い影が横にクルクルと回転しながら小さくなっていく。 それを見ているうちに、急に体が軽くなり、そのまま、意識が遠のいていった。


【思うところ】
どうも昨日の立ち寄った水子寺から2体ほど、ついて来たらしい。
寂しくて話を聞いて欲しかったのであろうか? が、タダの凡人である小生では、どうすることもできる話ではない。

それにしても、 白山比盗_社のオフダは。。。。。。

交通安全だけには効き目が、あったようである。。。。

合掌。

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