西川正一郎
私は霊感があるわけでもなく、人の心も読めない。
超自然現象は全くあり得ないと思うし、非科学的なことは信じない。
そんな私が、今までに3回、ある物に出くわした。
G県の有名な温泉街にある老舗旅館に宿泊したとき、夜、トイレに行きたくなり、起き上がって、寝ていた部屋からトイレへ移動しようと思い白いフスマを開けた。
開けたはずなのに、真ん中ヘンになんだか白っぽい物が残っている。
一度閉めてもう一度開けたが、やっぱり真ん中ヘンが白い。
残像かなとも思い、前に進もうとすると何故か前に行けない雰囲気がする。
私は目が悪く、その時はぼんやりとしか見えていなかったので、めがねを探してフスマの方向を見ると、細長い何かが漂っていた。
オズの魔法使いのブリキの人形のような形の白い物で、厚みは感じず、一反木綿のような細長い、しかも、人間のようにアタマと胴体と手と足っぽい物があった。
その物体は、全体的に角張っていたが細長く、左右には私が通れるほどの隙間はあったので、どーもスイマセンと言いながら横を通り、トイレに向かった。
戻ってきたときには、もうその物体はなかった。
Y温泉に仕事で行ったときのこと。
バブルの終わり頃とはいえ、まだまだイケイケな時代。
仕事は2日間の日程で、割とゆったりとスケジュールが組んである。
その日は、一般のお客さんのチェックアウトが一段落する午前11時頃に現場入りした。荷物も多いので、宿泊させてもらう部屋に通してもらう。
その宿のPR用の撮影と言うこともあり、おそらく最高級に近い部屋だ。
当然広い。大人数での使用も考えてか、ふとんも沢山あり押し入れも大きかった。
まあ、もちろん、押し入れが大きいというのは開けたからわかったことなのだが。
そしてその押し入れは、大きいだけではなく奥行きもあった。布団をたたんで縦に2つ分入る奥行き、普通に考える押し入れの2倍の奥行きがあった。
部屋に入るなり、みんなでスゲー良い部屋やなーとかなんとか言いながら荷物を整理していた。
その時に、タダの偶然か、何かに呼ばれたのか、私は何の気なしに押し入れを開けてしまったのである。
いやー、いましたよ。奥側に。
押し入れの下の段の敷き布団の上にちょこんと座っていた、朱色の着物を着た女の子。
何の心構えもなく遭遇してしまったので、声も出なかった。「なんかおる」とみんなに伝え、確認してもらったが、もはや何もいなかったようだ。
この2つの体験は、「温泉宿」「フスマ」といった共通項がある。私はフスマに何か負い目があるのかもしれない。
自分の部屋で寝ていたときのこと。その夜は非常に暑く寝苦しかった。
なかなか寝付けなかったので、えいやっ、と窓という窓を全開にして寝ることにした。
すると夜中になんだか騒がしくなって目が覚めた。
何かが窓の外にひしめき合っているような気がする。
その途端、窓から、白い50cmぐらいの丸い固まりというか浮遊物というか何かがゾロゾロと一列になって部屋に入ってきた。
入場行進のように進んできて、ぐるっと私の体の周りを取り囲んだのだ。
危険な感じはしなかったが、取り囲まれて制圧されたような気分がしたので、「おまえらなんかに負けんわい!」と叫んだ。
するとその物体たちがなにやら話し合いを始めた。
何を言っているかは全くわからない。
まるでテープを早送りして聞いているような、高い声だ。
そして「せーの!」という高い声が聞こえて、全員で私の体を揺らし始めた。
これがなぜか抵抗できない。もう左右にゆっさゆさ揺すられて、もう完全に負けた感じだ。
どれくらいの時間揺らされただろうか、仕返ししてやると思う気持ちも薄れてきた頃、揺らすのをやめ一列で窓から出て行った。
これらの3つの共通項は、自分しか見ていないと言うことだ。
複数人数が同じ事を体験していれば、説得力があるのだが、いかんせん信憑性がかなり薄い。
金縛りのようなことにもなったことも2回ほどあるのだが、同時に金縛りを自分以外に体験した人はいない。しかし嘘もついていない(と思う)。
ここまで書いておきながらではあるが、もう一度言うと、私はお化けや霊、火の玉などの超自然現象は全く信じていない。
そして最後に言いたいのは、こんなダラな事を書いている私を見捨てずに今まで通りに接してほしいと言うことだ。