湯口 哲也
この秋、能登・金沢を訪ねた。
名古屋に住む自分が北陸に向かうには理由がある。
前回はロブロイに行くため。
金沢市内の観光も楽しんだけど、ロブロイストの日々に載せていただいた「いつかロブロイ」での約束を果たす事が目的だった。
今回ももちろんロブロイに立ち寄ってマスターお勧めのウィスキーを味わう事は欠かせなかったが、愛車を駆って能登までロングドライブした目的は曹洞宗総持寺祖院に向かうためだ。
明治の火災で本山の機能が横浜に移るまでは、永平寺と並ぶ曹洞宗の総本山だった古刹。
地元の方はご存じのお寺と思うが、自分が行くきっかけになったのは、お世話になっている愛知県海部郡(名古屋の西隣)のお寺の副住職が総持寺祖院で修行したと聞いた事。
曹洞宗の僧になるための修行の場として永平寺は有名であるが、総持寺祖院はお寺が小規模な分、修行の中でお寺の運営全般を学ぶ事ができるため、永平寺で修行した住職は敢えてご子息を能登の地に送ったと話されていた。
先の能登半島地震の震源地に近かったため、現在も修復工事がされていたが、本堂の中は荘厳な雰囲気があり、縁あるお寺ゆかりの聖地を巡る事で煩悩だらけの自分も少しは浄化された気分になった。
その日の夜は、輪島市のホテル高州園で一泊。
絵に描いたようなThe観光ホテル。
人生の先輩方が団体バスでやってきて、宴会で出来上がり、コンパニオン引き連れ大騒ぎ。
のんびり旅の僕ら夫婦にはちょっと迷惑な感じ。
そんな先輩方とホテル内にあるお祭り広場のイベント御陣乗太鼓のショーで鉢合わせして、彼らの世界の中で我慢の時間。
でも、太鼓の実演が始まるとその鬼気迫る迫力と太鼓の力強いビートに彼らも静かに。
男幽霊、女幽霊、海幽霊の仮面をかぶった日本三大太鼓の聖地を守る太鼓打ちに○っぱらい先輩も煩悩を浄化されたに違いない。
翌朝、能登に来たからには当然朝市めぐり。
新鮮な香箱ガニを買い、露店めぐりをしていたら永井豪記念館を発見。
昭和生まれの昭和育ち。
少年漫画とテレビアニメで育った以上、入らずにはいられない。
マジンガーZの巨大模型が繰り出すロケットパンチに興奮して感激。
二十世紀少年の聖地を見つけてしまった。
永井豪記念館の先には、NHK朝ドラ「まれ」のロケセットが残っている輪島ドラマ記念館も出現。
「まれ」を見つけたからには、ドラマゆかりの白米千枚田、揚浜塩田へも足を伸ばしてドライブ。
昨今、流行った映画、ドラマ、アニメの場面の舞台を巡る事を「聖地めぐり」と言うらしい。
本来なら、信仰・宗教の重要な場所を指す言葉として使う言葉が「聖地」だが、日本人は軽く別の用途に流用してしまう。
韓国ドラマの流行あたりから始まった傾向に思う。(冬ソナのロケ地とか)
その事に対して違和感を持って眺めていた自分だが、今回、本来の目的の聖地「総持寺祖院」の後、一観光客として見つけた色々な聖地にわくわく感を覚えてしまった。
実のところ、最近流行ったアニメ映画「君の名は」の聖地、飛騨高山市の図書館に行った事を会社で自慢げに話したりもしている。
気恥ずかしい事ながら、聖地の乱用を憂いながら、率先して乱用に加担している有様なのだ。
宗旨替えを安易にしてしまった自分を弁護するわけではないが、「聖地」乱用の理由を分析すると、その場所に足を運んだ事を証明、自慢するには、持って来いの言葉だ。
「あのね、先週、金沢にあるバーボン・スコッチバー、ロブロイに行ったんだ。
君、片町で飲んだことある?
マスターがね、美味しいウィスキーを教えてくれるよ。
もう何回も行ってるんだ。(本当は2回)
これ、お店のカウンターで撮った写真。
雰囲気いいだろ。
ブルースが流れていいバーなんだ。
俺のようなお酒好きには金沢の聖地さ」
名古屋で会社の部下にこんな話をする男を、ロブロイストの皆さんはどう思うだろうか。
次回、金沢に行く時も、ロブロイに寄るので、聖地安売り男と化した自分をロブロイストとして迎えてほしい。
<ロブロイストの日々> 毎・月始め更新いたします。