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(C)2003
Somekawa & vafirs

『オージーの風(その2)』

ヤミヨのカラス

【オーマイ ガッ!】

“ウェーク アーップ!”
ユースホステルの相部屋、2段ベッドの上。
歌うように部屋に入ってきた女性スタッフが窓を開け、我々を叩き起こす。
一瞬、どこなのか分からなかったが、“おー!シドニーやんかぁ!”と飛び起きる。
今日はシドニー市内を軽く見て回ることにする。
何事にも事前確認は必要だ。
したがって身軽に動けるようギターと荷物はユースに預けることにした。

全世界のユースホステル共通のルールであるベッドルームの片づけ、部屋の掃除を始めると、その部屋にはもう一人日本人がいた。
彼は宮本と名乗り警視庁に入庁予定で今晩帰国する。
そしてもう一人は、ティムという白人男性だが、出身はアフリカのタンザニア。
どこか内気なしゃべり方をする。
その2人とオペラハウス近くのハイドパーク公園まで歩いた。
公園中央にあるステージには、スピーカーなどが設けられコンサートが開かれようとしている。
そしてそこには大勢の家族連れが集まっており公園内の芝生はカラフルなシートで埋め尽くされていた。
夕方ここに集合する約束をして別れ、腰を下ろしコンサートが始まるのを待つ。
煙草に火をつけ煙を吸い込みながら見上げると、透き通るような青い空にゆっくりと雲が流れ、ユーカリの独特の甘い風がゆるりと吹き抜ける。
オーストラリアで感じる初めての、のんびりした時間だ。
紫煙を燻らせていると口髭を蓄えたTシャツにゴッツイおっさんが声をかけてくる。
“サンドイッチあるけど食べる?”
“????”
“オレンジジュースもあるけど飲む?”
“????”
なんとフレンドリーで親切極まりないおっさんなんだろう。
撃沈寸前だった昨日とは真逆だけれど、なーんか違和感を感じる。
すると、次にそのおっさんの口髭から出た言葉。。。
“チミの肌。。。。きれいだね。。。”
ハルクホーガン並みのムクツケキ毛むくじゃらのそのおっさん。。。。。
そいつはゲイであった。
オカマちゃんのようにオンナオンナしていない。
無視を決め込んでいたところステージ上では、おもむろにバレー舞踏が始まる。
バレーでは興味もないしゲイのおっさんも、しつこいので、とっととその場を去ることにした。
もし、あのサンドイッチを食べてしまったら、どうなっていたのであろうか。。。

【夢の入り口においでやす!】

公園を後にして岬の先にあるオペラハウスに向かうと空にはカモメが舞いだしていた。
オペラハウスまでの途中に港と広場があり、観光船のチケット売り場、バーガーショップ、レストランなどがひしめいている。
なにやら生演奏の音が聞こえるので向かっていくと、そこには大勢のミュージシャン達がいた。
彼らはギターケースを前に置いて演奏し、聴衆が気に入ればそのケースに小銭を投げ入れてくれる。
まさに、世界平和の入り口が、その場所にあった。
“俺も弾きたい!なんでギターがないんじゃ!!!!!! グッソォォ!!!!!!”
しかし、指を咥えて彼らの演奏を聴いている場合じゃない。
何とかせねば。。。。
と、ある白人のミュージシャンに目が留まった。
アコースティックギターを弾いている。
ロックでも、フォークでもなくユルーイ音楽だ。
オープンチューニングなので指一本で演奏できる。
すかさず、なけなしの5ドル札を目に留まるようにヒラヒラさせながらケースに放り込み、隣に座り込んで手拍子を打つ。
奴もめったに入らない5ドル札に気付き笑顔でアイコンタクトしてくる。
雰囲気は悪くない。
演奏が終わると知っている限りの英語を駆使し褒めちぎった。
そしておもむろに“俺にもひかせてくれ!”とお願いすると、あっさりOK!

勝手にチューニングを直して演奏を始める。
自作の曲で日本語だから意味は分からないだろうが、気合だけは通じたようで目の前のギターケースにバッラバラと小銭が放り込まれた。
周りを見回せる余裕はなかったが、ギターケースの向こう側に集まってくる沢山の脚が見える。
もう、止められなくない。やるしかない。
寄ってらっしゃい。見てらっしゃいである。
立て続けに4曲ほど無我夢中でやった。
4曲目に聴衆の中から白人のおっさんが後ろ手に回り、手拍子で合わせてくれる。
ナイスなタイミング。
演奏を終えると、手拍子を打ってくれていたおっさんは、なんやら早口でまくしたて笑顔で握手し去っていった。
そして目の前には大量のコイン。
ギターの持ち主は、お前が稼いだんだから全部もっていけと言う。
“ギターを弾かせてもらったんだから受け取れない。”と言うと彼は袋から青いリンゴを取り出してくれた。
30度を超える炎天下で、かじったリンゴはとても温かったが自分にとっては最高の報酬だ。
彼はニュージーランド出身。シドニーで稼いでいるという。
名前はJamie。住所を交換。
日本の片田舎の小さな街しかしらず、まして小さなステージでしか歌ったことのない青二才にすれば、衝撃の十数分であった。
“このままシドニーに住み着いてギター一本で食っていけるんちゃう!?”
完全に舞い上がっている。

その数時間後の夕暮れ迫るハイドパーク公園。
落ち合う場所にティムは来たが宮本は来ない。
待つ間に今日の素晴らしき出来事をティムに聞いてもらおうとしたが、如何せん当時の英語力でそれは伝わらなかった。
そして会話もなく芝生の上で寝っ転がって宮本を待つ。
そして幻想的に燃えるような真っ赤な空を見上げながら、どこからか響いてくる野太いバリトーンの声を、タンザニア人と日本人は耳を澄ませて聞いていた。

【次の場所】

夕焼けのショーは終わり、初めて見るサザンクロス(南十字星)が空に輝きだしていた。
結局宮本は来なく、無事を祈ってユースに帰る。
ティムとは簡単な会話しかできなかったが何故か馬が合った。
昨晩と同じ安くて草鞋のように硬いオージービーフを腹に詰め込み、近くのバーにティムと向かう。
ビールを飲みながら、こちらで得た情報や経験談を話している流れで差別の話になった。
こちらはアジア人なので白人主義のオージーでは少なからずとも差別を受けるが以外にも白人のティムも受けているという。
彼はイギリス系タンザニア人で白人にしては背が低かったが、外見は地元の人とは区別がつかない。
しかし差別の理由は簡単。
彼にはミドルネームがなかった。
詳しくは分からないが、オージーの白人達は元々英国からの移民で構成されており、白人であればほとんどキリスト教である。
その社会でキリスト教の洗礼を受けていない白人はアジア人同様、差別されるのであろう。
それはユースホステルのチェックイン時にパスポートでやられるという。
内気になるのもわかる気がした。

そんな話をしている時に突然、3人組の女性に声をかけられる。
聞けば偶然にも港の演奏を聞いてくれていたオーストラリアの女性達で同じユースに泊まっているという。
話題一転、音楽の話で場が盛り上がりユースに戻りもう一度演奏し、更に仲良くなる。
そして、その3人組よりオージー北部にある海辺のリゾート、グレートケッペル島に、現地で落ち合わないか?とのお誘いを受ける。
当初の計画では、オージーの西側中部にある地球のヘソと呼ばれる“エアーズロック”に向かい原住民のアボジリニ族に会おうと思っていたのである。。。
が、ハエがワンサカいる炎天下の平原でアボリジニの原住民さん達に会うよりも、キラキラ光る海辺でビキニのおねーちゃんとチャプチャプ、キャーキャー!に勝るものはない。
速攻で計画変更だ!

“音楽の神様は世界平和に向けて動いたご褒美に、メイクラブも与えてくださったのか!?どの子にしよっかなぁ!”
どうやらオージーでは、ゲイだけでなくギャルからもモテルようであった。
続く。

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