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(C)2003
Somekawa & vafirs

『縁』

水本日女子

5月に初めてロブロイを訪れました。
それも地元の人とではなくて、他県の方のご紹介です。
こんな大人なお店には入ったこともなく、初体験です。
マスターと知人のお話を耳にしながら、音楽とお酒を静かに楽しめるこんな空間。
数年前に旅立った友のことがふと思い出されました。

マスターから、HPの中に文章を書いてみませんか?というお誘いをいただき、まだお店初心者の私が書かせていただいてもいいのかしら、と少々戸惑いながらも嬉しく思いました。

私の中でまだ生き続ける自分の生涯の大切な友人のことを綴ってみようかな、と思いました。

今から2年前、彼女は旅立ちました。
身体にたくさんの障害を抱えて暮らした晩年、彼女の身体に抱えていた多くの不自由さの中のうち、たった一つでも私に襲い掛かったとしたら乗り越えるまでにどれほどの時間がかかることでしょう。

はじめて一緒に町を歩いた時に彼女が言ったことが今でも忘れられません。
障害を持っているという先入観から、必要以上に気遣おうとする私に一言、 「必要なときは言うからね」

その時の雰囲気をどう文章で表現すればよいのでしょうか。
彼女には私の気遣いは必要ではありませんでした。

障害がある=助けてあげなくてはいけない。
間違っているとはいいませんが、すべてに当てはまることではないことに気づかせてくれました。
特別なことではない!そう言いたかったのかしら。。。
そんな彼女の言葉のひとつひとつが大切な思い出として心の中に残っています。

当時引っ込み思案な私でした。
何よりも苦手は、知らない人と話すこと。。。
そんな私に彼女は、とある仲間の首謀者になれと言いました。

「あんたならできるよ」
そんな言葉に脅されて(笑)踊らされていつしか私は、とても楽しい素敵な仲間とたくさんの輪を作っていました。
素敵な仲間の流れから、自分では到底及びもつかないイベントを主催することになりました。
怖気づいている私にやっぱり、 「大丈夫だよ!あんたが楽しんでいればいいんだから」

仕事や、プライベートでも苦しい時期もあって両親を失った時も、弟を見送った時も彼女は言いました。
「泣いてもいいけど、泣いてかわいいのは若い娘だよ」
私が追いつめられていた時や疑心暗鬼になったときは、 「あんたが悪いわけじゃないよ、あんたの味方はたくさんいるよ 目を開けてごらん」

多くの時間を共に過ごしていたわけではない。
それでもなにかを互いに感じるのか分岐点に差し掛かるときには必ず彼女がいたように思う。
親しくなって数年が過ぎる頃には彼女の体調も無理をできない状態に変化していて、いつしか病気の話題が多くなっていた。
何度も入退院を繰り返し、それでも活動的に動けていたのが奇跡、としかいいようがない。
めったに弱音を吐かない人だったけれども時折、ごめんね、と言いながら胸の内を明かす時もあった。

最後の入院の時に夜電話がかかってきた。
話していたら落ち着いたよと言って電話の最後に、 「また明日電話するよ」
翌朝彼女は天に召された。

覚悟はしていたけれども、動揺した。
彼女をきっかけにつながった縁は、今私の周りにたくさんあります。
この、ロブロイを紹介して連れてきてくださった方、この方とご縁ができるきっかけを作ったのはやっぱり彼女でした。

そういえば数年前、金沢に彼女がやってきたときにとある酒場で格好よく、ロックのお酒を飲んでいた。
飲んでごらん、と渡されて恐る恐る口をつけたそのお酒はとても美味しく、今でも忘れられないけれどもなんというお酒だったのかはわからない。。。
お酒に詳しい彼女だから、このお店に連れてきたならきっと大喜びだったろうなぁ

この友とはもっと一緒にいたかった。
もっとたくさん話したかった。
そしてなによりも、もっと一緒に、おいしいお酒を飲みたかったなぁ。
いつか彼女とまた出会えたら、あの時のお酒は何だったのか絶対に教えてもらおう。

いいお店を見つけると大切な友とまた足を運びたくなる。
そんなお店に出会えたことが嬉しい、と感じる自分が幸せだなと思います。
一つの出会いは、こうしてさまざまなシーンへとつながっていく。
「縁」
素敵な日本語だと思う。

<ロブロイストの日々>  毎・月始め更新いたします。