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Somekawa & vafirs

『二ヶ月の禁酒』

船尾仁司

2008年4月15日、ショッキングなニュースが飛び込んできた。
敬愛するロックバンド「LOUDNESS」のドラム、樋口宗孝氏に肝細胞癌が発見され治療に専念するため、一時活動休止と・・。
1週間後に家内と二人でライブに行く予定で、もちろんチケットも買ってあった。
慌てて公式HPを見てみると、急遽菅沼孝三氏がサポートしてくれることとなりツアーは決行するとのことで一安心したが、 家内は大の樋口っつぁんファンだったためその落胆ぶりたるや、見てて気の毒なくらいの落ち込み様だった。

その時を前後して、僕は自分の体調異変に気づいていた、何がどうということではなく食欲がなく大好きな酒も旨く感じない、 そのうち慢性的な倦怠感と時々歩行中に感じる足の付け根のいやな痛み、めまいなどを感じるようになり、最大血圧は90を切っていた。

当時の僕の酒量は、毎日500mlの缶ビールを2本飲み、次に焼酎へ移り眠くなるまで延々と。
休日は昼めし時からビールを飲み始め、夕方までに4本空けていた、焼酎は取っ手のついた4リットルのペットボトルを1週間で空にしていたのである。

これはいよいよ肝臓をやられたかと鏡を覗いてみるが、黄疸が出てるわけでもない。
ライブの前に医者にみせ、入院なんてことになると困るので、ライブのあとで病院へ行こうと決心した。

4月22日、楽しみにしていたライブを堪能した帰り道、普段車ばかり乗ってあまり歩かないのもあるが足の付け根に例のあのいやな痛みを強く感じ、 しばらく歩行不能となってしまった。
これはさすがにヤバいと感じつつも、受診したのはGW明けだった。

5月9日、検尿から胸部レントゲン撮影、腹部エコー、心電図、採血と、一通りの検査をしてもらいその場では結論は出ず、特に薬を処方されることもなく帰ってきた。
翌日仕事中に医師から電話が入り、血液検査にかなりの異常値が出ているのでもう一度確認のため採血をさせてくれと言う、次回受診時まで酒は飲むなと付け加えられた。

その夜のことである、体中の筋肉が硬直し(全身こむら返りのような)激しい痛みを感じ同じ姿勢から動けなくなってしまった、 脱水状態の症状に似ていたためスポーツドリンクを水で倍に薄めたものをひたすら飲みまくり、 数時間もがき苦しみ救急車を呼ぼうかと思ったほど辛かったがなんとか症状は治まった。
そして次の休日5月13日、ちゃんと言いつけを守り3日間禁酒して、朝イチで病院へすっ飛んでいったがそこで驚愕の前回の検査結果を目にしたのであった。

諸兄もよく目にされるであろう代表的な項目をここに挙げてみる、( )内は基準値です。
GOT237(10〜40) GPT108(5〜45) γGTP876(80以下) 総コレステロール736(120〜219) 中性脂肪5133(30〜149) CPK1772(60〜270)
このCPKに関してはあまりご存知ではない諸兄もおられると思うのでhttp://ketueki.syanari.com/CPK.htmlをご参照いただきたい。

普段運動らしい運動をしない僕にとって、このCPKは極端な異常値でありアスリートでもここまで高くはならないのである。
そう、あの全身痙攣のような苦しみの原因がこれだったのだ、納得。
僕と医師の共通の感想・・よく生きてたな、よくぞ脳も心臓も無事だったな、背中に冷たい汗が流れた。

医師曰く、採血した血液が常温まで下がったとき、採血管が白と赤の上下二層になっていたとのこと。
ラーメンのスープの残りを冷えるまで放置しておくと、どんぶりの表面に白い脂の膜ができるが僕の血液はまさにその状態であり、 ラーメンスープみたいな脂肪まみれの血液が身体中を廻っていたのだ。

この検査結果の原因は火を見るより明らかで、普段の過剰な飲酒にほかならない。
医師に言われるまでもなく、僕はその日から禁酒を決意した。
酒を本格的に飲み始めてからは人生初の長期禁酒に臨んだ。
毎週通院して血液検査をしてもらい、仕事終わりの一杯はアルコールフリーのビール代用品で我慢した。
とてもつらい日々だったが、どうしても今すぐ死ぬわけにはいかない(当時小学6年の下の子が成人するまで)ので堪えに堪えた。
その甲斐あって毎回検査値は良くなって行き、ついに7月4日、ここ30年来見たこともない全項目正常値という検査結果をゲットしたのである!。
もちろんほどほどの量であればとの条件付きだが、医師から解禁宣言を受けたときは、なんとも言えない達成感に包まれた。

その日から数日後が誕生日だったのでそこを解禁日にと、誕生日までは禁酒を続けることにした。
禁酒期間もちょうど2ヶ月になるし。
そして2008年7月12日、無事46才の誕生日を迎え缶ビール350mlを2本だけ買ってきて、一人祝杯を上げたのである。
そのときの味は一生忘れないだろな〜、とてつもなく旨かった♪
それからは仕事帰りに缶ビールを2本だけ買うという生活がしばらく続いた。
もうあんな思いは二度としたくない、いい加減大人の飲み方も覚えなきゃと決意を固めたのであった。

あれから今年で4年が過ぎようとしているが、気にはしつつも今では酒量が増えてしまった。
もちろん自分なりにあの頃よりはセーブしているつもりではあるが、たまーに翌日残ることもある。

極めつけは先月、久し振りにロブロイを訪ねたとき2本目のボトルを入れるほど飲んでしまった。
この店で飲むと酒の味が違うように思えてしまう、もちろんそれは気のせいなのは分かってる。
僕がロブロイに通い始めて今年で30年、その間何も変わらない店のたたずまいと、マスターとの会話が次の一杯を飲ませてしまうのかな。

いつになったら大人の飲み方が出来るんだろう。
今年で50才になることだし、ここは真剣に考えなきゃ、少なくともあと5年は生きねばならないので。

冒頭に書いた2008年11月30日、享年49才で亡くなってしまった。
2009年2月より新メンバーとして元SABER TIGERの鈴木”アンパン”政行氏が加入しとてもパワフルなドラマーとしてファンにも受け入れられているようだ。

家内も樋口っつぁん逝去のショックから立ち直り、今は僕同様ギターの高崎晃氏に注目し相変わらず僕たち夫婦はLOUDNESSのライブを楽しみに待ちながらの生活を続けているのである。

これを読んで少しでもLOUDNESSに興味が湧いた諸兄がおられたら一度試聴でもしてやっていただきたい、 50を超えてもまだまだ精力的に活動する彼等を同年代のヒーローとして、僕はこれからも敬愛し続けていくと思う。

<ロブロイストの日々>  毎・月始め更新いたします。