以前、飲ん娘(のんこ)のタイトルで女性の“飲ん兵衛”の話を書いたことがあるが、今回は正真正銘“飲ん娘”の話である。
(暇な方は<主のひとり言>の過去を覗いてみて下さい)
つい先日の事であるが、実に気持ちのいい“飲ん娘”が来てくれた。
仮にY女史としておこう。
以前からたまに来てくれている知人から我がロブロイの話を聞いていたとの事。
またそれから当HP、当ページもたまに覗いていたとの事。
で、「ヨシッ、行ってやろう」という気になり、ある男性を引き連れ?来てくれた。
なぜか“引き連れ”という表現がピッタリくるような飲ん娘である。(特に意味はない)
年の頃なら二十歳代の後半?か。(間違っていたらごめん)とにかく明るく元気、かつ健康そうなY女史である。
こんにちワーッ、といってY女史と男性は入ってきた。
さてご注文は、に始まり、連れの男性はソルティー・ドッグ。
ご存知の方も多いと思うが、ロンググラスの縁にソルト(塩)をまぶし氷を入れウオッカを入れる、そしてグレープフルーツ・ジュースで満たす、比較的女性に好まれるやさしいカクテルである。
Y女史はというとブルックリン・カクテル。
バーボンをベースにベルモットを使いシェークする。
結構ハードなショート・カクテルである。
普通ショート・カクテルは冷たいうちに、理想は三口で飲み干す、とまあ昔から言われるがこの際そんなことはどうでもよい。
というよりY女史には必要も無い。
なぜなら三口どころか二口もあれば十分だからである。
クイ、クイッと飲み干すのをみて連れの男性が優しい目で「相変わらずいい呑み方だなあ」そして僕を見ながら「このひと飲めますから勧めてやってください」という。
と言われるまでもなくY女史は「バラライカ、くださーい」。
ウオッカをベースにしたこれもハードなショート・カクテルである。
これもクイ、クイッと飲み干し、しばらく考えるフリをしていたが「久しぶりにニコラシカにしようかナッ」。
これはブランデーをリキュールグラスに入れ、レモンスライスした上に砂糖を載せ、それを口に含み、先のストレートのブランデーを一気に飲み干すという、結構乱暴な飲み方になるカクテルである。
僕が差し出し、ちょっと他のお客様のほうを向き、また向き直ると当然Y女史のグラスはカラッポになっている。
連れの男性はというと、二杯目はウイスキー・サワー。
その名の通り爽やかなカクテルであるが、それを半分も飲んだだろうか、カウンターに伏してしまった。
Y女史はますます元気である。
次のカクテルも飲み干し、それから「もう一回ニコラシカーッ」となり、僕が瞬間よそ見した途端、もう無くなっていた。
先にも記したようにニコラシカは一気に飲むものであるが、それにしても早い。
もう少しもったいぶって飲んでほしいものである。
何やら僕も作った気がしない。
参考のためにこの店へ来る前はビール三杯ほど飲んだだけだという。
その程度なら彼女にするとちょっと咽を湿らした程度であろう。
ともかくまったく酔ったそぶりなどないまま、七杯のハード・カクテルを飲んだところで、2〜3個イスを空けて飲んでいた他の男性客が帰っていった。
そして「アレは何ですかー」とまあ、その男性客が飲んでいた酒4本の(モルト・ウィスキー)が気になったらしい。
その4本というのはちょうど今最新情報でも紹介している、全て樽だし原酒のまま瓶詰めしているどれも度数60%はあるレア物のモルト・ウィスキーである。
ぼくは彼女の前に4本並べ「いいものですよ。どれかお飲みになりますか?」というと一番右端を指差し“これ”ではなく「じゃあ、これから」ときた。
ようするに全部飲む気らしい。
ストレートグラスに注ぎ差し出すと「いい香り、美味しい〜」と言いながらクイッと飲み干し「次おねがいしまーす」とまあ、実に軽やかに4杯のウィスキーを飲み干した。
60度というと一概には言えないが、一般的なウィスキーは40から43度が多い。その計算でいくとこの場合ほぼ6杯に相当する。
4杯目を飲み干すと、さすがにというより、先ほどからカウンターに伏したまんまの連れの男性が心配になったのか、明るくかつ優しく「もう帰ろうか?・・・」と声をかけると男性は「うん」と言いながら、にこやかな顔でうなずき「お勘定してください」となった。
そしてY女史は来た時と変わらない足どり、そして合間に聞いた事だが、バイオリンをやっており、来月からしばらくアメリカで過ごすとのこと。
帰ってきたらすぐ飲みにくる、と言い残し、階段を下りていった。
何やらカッコよすぎる気もするが、とにかく久しぶりに、本当に気持ちのいい飲ん兵衛に出会った。
いい飲ん娘だ。