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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

夢の中の酒

夢の中である。
カウンターしかない小さな焼鳥屋さんへ入った。
先ずは熱かん徳利とくる。
僕の場合、夢でなくてもふだん洋酒の生活しているせいか、日本酒はやっぱり熱燗徳利が好きだ。
そして盃に手酌(てしゃく)でクイッと飲る、美味い。
熱燗が喉を通り、胃へと落ちていくのが実によい。
と言いたいところだが、僕の場合「胃」は無いのでその辺りで感じるしかないが、特に不都合はないのでそれでよい。
2〜3杯も飲むとアルコールが血液に混ざり、その血が全身に廻っていくところが生々しくかつ、清々しく感じられる。
それが実によい。
こんな時ふっと頭の中で「酒を好きでよかったなあ」と思うのである。
注文したレバ刺しがきた。
シンプルにゴマ油に塩で食べる。
これが一番美味い。
夢でありながら何故か冷静に「ほんとは今食えないんだなあ」と呟いている。
二本目を注文したところで目が覚めた。

目が覚めると「あ〜もったいない」と思いつつ注文した二本目、続きを観ようと寝てみたがそう上手くいくものではない。
しかし飲兵衛のこと、夢の中でも飲めたのだから「これは得した」と思う事にした。

これは夢ではない、バーボンの話である。
もう20年も前の事になるが23年物のバーボン、エバン・ウィリアムスが日本に入荷した。
ビンテージは1969年となっている。
ひと口飲んでみてびっくりした。
「なんという華やかな酒だ」というのが第一印象である。
バーボンに華やかさなど求めないのだが、それは華やかとしか言いようがない。
ゆっくり口にもってゆく、飲む前から香りが伝わる。
23年という長期熟成感がゆったりと広がり、バーボン独特の焦げた香りが実に上品である。
度数は107プルーフ、53.5度であるが、度数を超えたまろやかさがある。
完成度の高さだろうか。
それをあるお客様、I氏が言った。
「これはバーボンでもスコッチでもない『エバン・ウィリアム』という一つの酒だ」とまあ、上手く表現したものである。
今も23年物としてあるし、価格も二万円以上するが、1960年代がより、よかったようである。
空ビンとしてあるが、中身が無い事にはただのビンであるが捨てるには忍びない。

最近はというと数か月前に入荷したものである。
スコッチは個性的な酒があり過ぎるが、ハイランドに始まり、アイランズ(島物)もまたいい。
代表はアイラ島はアイラモルト・ウィスキーとなるだろうが、アラン島はその名も「ザ・アランモルト」カスクストレンジ(樽出し)である。
樽出し、加水もしない度数54.1度となっている。
ノン・カラー、色をちょっと付けたりするがそれもなし。
それにノン・チルフィルター、ろ過もしない、ようするに何にもしない、いわば手抜きとなるがそれが実によいのである。(もちろん他にもある)
飲んでみるとモルトウィスキー独特の熟成感と、爽やかな風を感じさせるピート臭がある。
いい酒だ。
でこのアランモルトはその中に樽からくる、スエた感じとでも言うか、洞窟のなかでモヤシを育てている時の、湿った香りとでも想像してもらえばいい。
と思うがその状況を知っている人はあまりいないのでないかと思うので、実にいい加減な説明になってしまった。
が僕はそう思ったのである。

でその香りが実にいい個性となり、これまた54.1度という度数を感じさせない。
そのスエた香りと味が爽やかな飲み口となり、またまたいい酒と出会ってしまった。
これは今現在も飲める。
嬉しい限りである。

いいものはいい、美味いものはウマイ、と思わせてくれる酒、酒を好きでよかった〜、飲兵衛でよかった〜と、今日もひとりつぶやているアホーなのである。
なんせ夢の中でも飲んでいるのだから・・・。

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。