突然だが、寅さんのセリフである。
「酒の匂いが腹の芯にじぃっと染み通ったころ、おもむろに一口飲む。
さぁ、お酒が入っていきますよ、ということを五臓六腑に知らせてやるんだ」
第42作・「男はつらいよ ぼくの伯父さん より」
飲む前に「今から飲みますよ〜と我が体に、香りで知らせてやる」とまあ、我ら飲兵衛にとっては実に粋で心憎いセリフである。
ちょっと違うが以前読んだある飲兵衛の落語家(誰だったか忘れてしまった)が何かに書いていた。
「今から飲みに行く前に空きっ腹は体に悪い、といってうどんか何か腹に入れていく奴が居る。
実にもったいない。
空きっ腹に酒を入れてやる。
するとじんわりと五臓六腑に沁み渡る。
これがいいんだ」
これまたいい〜。
飲兵衛でないと書けないセリフである。
という事で今回は酒の事を書いてみよう。
プエルトリコ産のラム酒で「ロンリコ151」という酒がある。
151というのはプルーフの事で証明とか根源とかの意味らしいが、酒の場合アルコール分の濃度の事をいう。
かといって151度という事ではなくアメリカン・プルーフといって50度を100としているので、単純に2で割ればいいわけだが、
151プルーフを2で割っても75、5度という強烈な酒になる。
日本に輸入されてもう30年は経つだろうか。
とにかくびっくりしたものである。
せっかく度数の高いものだから、何かで割って飲むなどもったいない。
高いものは高いなりに味わってみなければ意味がない。
リキュールグラスになみなみと注ぎグイッと一息でやってみる。
フングググー、カーと来るというより、声が出ない。
明らかに喉、食道を遣られるようである。
酒として到底味わえるものではない。
あまり調子に乗らない方がよさそうである。
(もっともそれだけではないが僕の場合、やがて食道がんの手術を受ける事になる。実にシャレにならない話だが)
その後151プルーフというとやっぱりラム酒であるがバカルディーまた、レモン・ハートの151も出てきた。
ところで強烈な酒というと日本にも昔からある。
沖縄は与那国島の「どなん60」という泡盛がある。
この場合の60は度数の事ゆえそのまま60度、という事になる。
泡盛独特のキレというか強烈な香りも重なり、ロンリコにけっして劣らない飲みごたえである。
余談だが、与那国島の事をどなん、漢字で書くと「渡難」になるが、竹富島と与那国の間に激しい海流があり、渡るのに難儀する、という事から渡難と呼ばれるようになったらしい。
強烈な酒というと、中国を代表する白酒(パイチュウ)・マオタイ酒も通常65度あるし、別な銘柄で70度の酒もある。
(当店にもありますので一度ご賞味を)
またバーボンでも、またスコッチのカスク(樽出し)になると65度前後はそう珍しくない。
さて強烈な酒をいくつか書いてきたが、ロンリコが出てきてから何年か後、
「そんなものは生ぬるい」と言ったかどうかは分からないが、なんとポーランドより「スピリタス」という96度のウォッカが出てきた。
いい加減にせいや、という感じであるが、まあ話題性を狙ったとしか思えない。
事実結構知られている。
実に挑戦的な酒だけに「よしっ、受けてやろう」という事でまたリキュールグラスに並々と入れ、また一息でグイッとやってみる。
フングググー、これは!、くぐもった声も出ない。
それにストレートに喉がイタイ。
喉壁を削り取られた様な気がしたものである。
これは素直に「参りました」と言っておこう。
で、面白いものである。
なんと96度を知ってからロンリコの75度を飲んでみるとこれが意外にも柔らかく感じ、酒として味わえるのである。
人間慣れとは怖いものである。
とはいえ60度も75度も間違いなくきつい酒である。
酒と格闘するものではない。
酒はやっぱり美味しく飲むもの。
皆様も体に優しい飲兵衛として、酒ライフを楽しんで頂きたいものです。
でないと僕のように、食道を半分切り取る事になります。