藤岡 寿一
ものすごく酔っ払っていた。息をするのが辛いくらいだった。
二十歳の私に、飲まなきゃならない大事件がおきていた。
赤城君と荻野君が、大荒れの私を「ロブロイ」に連れて来てくれたのだ。
至極、場違いな店なのかもしれなかった。
二十歳の私にとって、<チェイサー>は車の名前であり、
<バーボンのボトル>は沢田研二の歌の歌詞でしかなかった。
兎に角、その日の私は、キツイ酒なら何でもよかった。
名前も知らないウィスキーを何杯も麦茶のように飲んでいた。
マスターはグラスを拭きながら、
「まぁ、そんな時はあぁ、飲めるだけぇ飲みなさい。」と絶対に言った。
そんな瞬間だけを、先週のことのように感じる。
23年も経っている。
カウンターも、椅子も、音楽も、国籍不明なクリーム色と抹茶色のせんべいも、数え切れないボトルも、なにも変らない。
一歩踏み出したままのジョニーも、そのままだ。(本当に金沢には地震がない・・・!)
酔ってしまえば、マスターの顔もかわらない。性格もだ。
だから、ロブロイで飲むと、毎回が“デジャブ”なのです。
あの時の自分と飲んでいる。方向性のない情熱のほとばしりみたいな自分・・・。
紆余曲折の20代、マスターに見守られて結婚。30代は、子供と伴に育った。
40代になった今、 ロブロイで飲む「バーボンのボトル」と「チェイサー」が旨い。かえがたい。
ボトルは、FOUR ROSES FINE OLD と出会えた。
フォアローゼスより、ひときわ古く、ひときわ旨い。
私も人としてFINE OLDになりたいものだ。
10年前に息子のボトルもキープした。伴に飲むまで、あと8年。
楽しみだ。
それまで、マスターの健康を祈る。