端野優子
私は金沢で生まれ育ち、今もずっと金沢に住み続けています。
毎日の生活で話すのは当然、金沢弁です。
大阪や京都など、西日本ではそのまま金沢弁で普通に話すのですが東京へ行くと「語尾を伸ばす北陸なまり」が少し恥ずかしいので人前では仕事中のような言葉になります。
こんな私ですが、実は10歳ぐらいまで自分の話してる言葉は東京の人と同じだと思ってました。
テレビドラマや「サザエさん」と同じだと信じ込んでいました。
その頃たまたま家で、のんびり北陸放送のラジオを聴いていたら、
「私も東京に出てきて、もうすぐ一年が経つのですが、まだまだ金沢弁が抜けなくて困っています」
というエピソードが紹介されていて
(えっ??・・・・金沢弁!?なんやそれ・・・・金沢弁ってあるがぁん??)
もうこの「あるがぁん?」がすでになまっていたのですが、その頃の私にとって方言とは「関西弁」や「東北弁」であり
「巨人の星」に登場する左門豊作が話す「ばってん・・・」「ですたい!」の「九州弁」であるはずで、
そこまで特徴のある言葉でない自分の話す言葉にまさか「弁」がつくとは・・・・・
幼い私にとっては、正に青天の霹靂でした。
次の日、さっそく担任の先生に尋ねました。
「先生。。。金沢弁って私らが話す言葉なん?東京の人とどう違ごぅがぁん?」
「金沢弁も方言の一種や。能登行ったら言葉違ごぅやろ?これも方言や」
「私、東京と同じやと思っとってぇ〜ん」
「東京の人は{ほやほや!}って言わんと{そうだね!}っていうぞ」
「ほうやね・・・・ほやほや!ってテレビで言うとらんわ」
「それから、かたがっとるとか・・・・かやすって言わんがや。」
「ほんなら何ていうがん?」
「傾いてる、ひっくり返るって言うんや」
「ふーん・・・なんか変やね」
私は先生が訳した「傾いてる」「ひっくり返る」に違和感が止まらず自分が話す言葉は東京の言葉と本当に違うんだ・・・・とようやく理解できました。
それから私は登下校や学校の中で「テレビでは聴かない言葉」を探しまくりました。
まず気づいたのは「ぅうぇ〜♪」というご機嫌なときに使うフレーズです。
「あのぉね〜、私ぃ〜ね、明日ぁ〜お母さんとデパート行くぅうぇ〜♪」これは「行くんだぁ〜♪」「行くんだもん〜♪」といったところでしょうか。
だけど「ぅうぇ〜」はあくまで「ぅうぇ〜」ですね。
うまく変換できません。
「お前、いじっかし〜げんて!」「お前こそ!いっさで〜げんて!」
「いじっかしい」(鬱陶しい、ウザい、面倒くさい)
「いっさで〜」(生意気な、強情な)といった意味でしょうか。
子供心に、この二つは荒っぽく、自分もよく使うけどなんだか変な言葉だなぁと感じました。
「うちの子ぁ〜どんならん!(どうしようもない)」
「アンタ!ダイバラやぞいね〜!(一大事だわ)」
「ダラブチ!なんしとれん!!(馬鹿野郎!何やってんだよ)」客観的に聴いてると、大人たちの言葉も強烈でした。
自分が田舎者だと初めて実感した、私にとっての密かな「事件」でした。
月日は流れて、方言ブームの時に「シマシマにしまっしま〜!」が面白がられてびっくりしました。
同類の「ネジ、ねぇ〜じ?」にも愛着があります。
お昼のドラマ「花嫁のれん」で金沢の老舗旅館の女将扮する野際陽子が言い放つ「この!えんじょもん(遠所者)の嫁が〜!」や
「あ〜ら!いじくらしい!」といった金沢弁が全国に放送されてすごく嬉しいのに、なんだか恥ずかしくなったり・・・・。
男言葉と女言葉がハッキリ分かれてないので、ベタベタの金沢弁で話してるとどんな綺麗な人でも、なんだか魅力が半減してしまう方言なんですが
お年寄りがいう「あんやと〜う」(ありがとう)はすごく温かい言葉で、私は大好きです。
消えつつある「あんやと〜う」は海の幸、山の幸と共に沢山の方に味わってほしい金沢弁です。
<ロブロイストの日々> 毎・月始め更新いたします。