今回は、痴呆について、まじめに振り返ってみましょう。
痴呆。。。そう、「ぼけ」は、つい、経験だけで判断したりして
いませんか?でも、その前に、ちょっとだけ、冷静に病気と
して、見つめ直してみましょう。何かが、見えてくるかも知れません。
高齢者こころの辞典より(日本老年行動科学学会)
16.痴呆とは、何か
一般的には、獲得された知能が、後天的に生じた脳障害の結果、不可逆的
に障害されること。
ここで、質問。
○痴呆の原因
脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆があり、この2つのいずれかまたは
両方の合併で全体の9割程度を占める。
それでは、ここで質問。
○痴呆の治療
痴呆に対する薬物は、精神安定剤や脳代謝賦活剤、脳循環改善剤
などがあります。精神安定剤は、痴呆そのものより、妄想や睡眠障害
を改善し症状安定。後の2つは、効果はちょっと疑わしい。。。。
ただ、副作用(ねむけやパーキン等)もきついので、やはり安定した介護
とセットです。
さて、筋弛緩作用のある薬物を使用した高齢者は、ふらつきがあります。
それでは、質問。
○痴呆の症状
痴呆と言えば、「物忘れ」でしょうか。特に、記銘力障害が目立ち
ます。簡単に説明すると、新しく覚えることが難しいのです。
例えば、ビデオデッキを想像して下さい。良い例えでないかも知れませんが、
録画機能が壊れ、再生機能は、なんとか大丈夫。ただ、中に入っている
テープも古くなっているという状況でしょうか。だからタイムマシン現象
と言われる昔のことが現在の様に感じたり、空想と現実の区別が
困難になります。新しく覚えられないが、昔の録画が残っており、
再生は昔のものを頻繁に再生している状態といえるかもしれません。
さて、ここで質問です。
物忘れの激しい高齢者がお金がなくなったと混乱しているとき
あなたなら、どうしますか?
@なんとか想い出してもらおうと一生懸命工夫する。
Aどうせ忘れるんだから、話題を変えてしまう。
○痴呆老人への対応
それでは、痴呆性老人にどのように対応していけばいいのでしょう。
これが、一言でまとめるのが難しい。というのは、多くの疾病のように
一つに括れないのです。多彩な症状があるからです。見当識障害・
人物認識の低下などの認知機能障害だけでなく、意欲低下・感情の激変
社会参加能力の低下等がそれぞれ多くのパターンと絡み合って出現し、
これに俗に言う「問題行動」としての異食(通常食べない物食べちゃう、
石鹸をぽりぽり囓っていたのを見たときマジで美味そうだった。)や徘徊を
加えるともうとんでもない数の対応方法が存在することになる。だから、
対応技術ってのは、説明しづらいのですが、敢えて挑戦したいと思います。
受け入れること、つまり受容です。例えば、施設内でいきなりゴミ箱に
立ちションをするおじいちゃんを見つけたとき
はい、問題です。
どのようにあなたは対応しますか?下の選択肢を良い対応から、悪い対応
の順に並べ替えて下さい。
@○○さん、施設のゴミ箱でおしっこしたら、駄目じゃないですか。
もうしないでくださいね。(笑顔で)
Aこら!何してんねん。ここは、便所じゃないやろが!どあほ!(嫌な顔で)
Bはっはっはっ。しょうがないなぁ。○○さん。こりゃ一本取られたわ。
しかし、勢いあるション便や。(上機嫌で)
○幻覚・妄想
痴呆の場合、幻覚や妄想ってのがよくみられるのです。もちろんこれは、
精神分裂病等でも、みなさんはご存じでしょう。
ちなみに幻覚と妄想って、同じものと解釈している方が多いのですが、これは
違うものなので注意が必要です。ああそうそう、せん妄も間違えやすいですが、
ここでは、述べません。だって、混乱しちゃうかもしれませんしね。
では、初っぱなから、皆さんの知識を試してみましょう。
はい、問題
@「夫に女ができた」
A「見知らぬ男が、覗いてる」
B「金を盗られた」
C「天井に虫がはっている」
D「死んだ姉が、私をさそう声が聞こえる」
どうでした、ばっちりでしたか?それでは、まず幻覚について簡単に
説明します。幻覚は「対象そのものが存在しないのにそれを知覚してしまうこと」
から、起こりうるのです。「その布団からは、くさった動物の死体の臭いがして
絶対寝れなくなるから、捨てて下さい」なんてのは、幻臭ですね。こういう症状は
一過性であったり、ずっと続くものまで様々です。われわれから、みると、「買った
ばかりの布団にケチつけやがる」そう思うかも知れませんが、臭っている本人は
大変だと思います。
妄想は、「不合理で訂正が困難な確信」と言えます。「腹の中に寄生虫がいる」
などの寄生虫妄想なんてのは、いくら腹の中を覗く検査しても効果ないですね。
まあ、一貫性がなく、空想的・作話的なものが多いです。
これらの原因は、心理的な条件、つまり、ひがみっぽい性格であったり、
自己主張が強かったりすることや、障害(聴力や視覚等)、知的低下(判断
能力や認知能力)も絡み合います。
これらは痴呆の初期〜重度でどの段階でも出現する可能性があり、幻覚のみ、
妄想のみ、そして幻覚+妄想というのもあります。日常的なものや超自然的
なものまで、バラエティに富んでます。
じゃあ、どうやってこれら幻覚・妄想につきあっていけばいいの?
ポイントは1つです。
痴呆は知的機能が低下し、記憶が障害されるものですが、
感情まで障害されているわけでない。
どうです?
隣のじいさんに金を盗られたと主張する痴呆の方に対して、あなたは、
@きちんと盗られた事実の無いことを証明し、本人を安心させるため、
否定してあげる。
A嘘だと思うけど、取り敢えず聞く
○徘 徊
痴呆性老人の行動の中で最も有名なのは「徘徊」じゃないでしょうか。
徘徊は、目的のある場合と無い場合があるように思えます。また、一定のパターン
に沿って、徘徊していると思えるときもあります。しかし、全くわけのわからない時も
あり、明確な定義自体が無いため、多様な様相を呈するということが言えるのでは
ないでしょうか。
よく、笑い話の中に、徘徊行動のある高齢者は、足腰が丈夫である。つまり、
すごい距離を歩くからだと言われます。多い方に万歩計をつけて、観察してみ
ると一日に18q歩く方もいらっしゃいました。これなら、足腰は、私なんか
より、強いですねぇ。
まあ、徘徊がなぜ起こるかは、置いといて、徘徊する老人は、まっすぐに、そして、
結構速いスピードで歩くものですから、放っておくと、屋外なら、つまずく・転倒する
車にひかれる・川に落ちる等、大変です。どうしたら、徘徊を止められるのか?
正直に申し上げて、私は、止められないだろうと思っています。
ここで、これまで、考え出された徘徊の制止方法を書いてみます。
さて、問題です。実際に行われているものを答えて下さい。
@とにかく、動き回り、危険なので、座敷牢に閉じこめてみる。
A大きな名札をぶら下げ、迷子にならないようにする。
B監視システムで玄関から高齢者が出たら、ブザーが鳴る。
C歌や音楽を使って、落ち着かせる。
はい、選べましたか?答えは
徘徊って、目的が理解できたとしても対応は難しいものです。
毎日、昔住んでた家に向かって徘徊する方がいました。まだ、痴呆が
軽いとき(?)は、本当にその家に行ってました。もちろん、その住宅は、
全く違う家族が住んでいます。それでも、その徘徊する高齢者は、
自分の家だと思うので、早く出て行けと罵声をその家族に浴びせるわけ
です。思いあまった家族は、施設に援助を求め、施設入所となりました。
施設でも、その高齢者は、昔の家に戻ろうとします。いつまで、歩いても
着けません。徘徊の目的には、存在していないものへの目的も含まれます。
どんなに求めても、どんなに歩いても目的地に着けない。。。。。
そこまでして、求める意味は、本人の記憶の中にしかないのでしょうね。
私たちに、その叫びは聞こえない。辛いことですし、いじらしい。