理由は分からないが、鳩摩羅什訳は法華経の「嘱累品」を移動している。妙法蓮華経の「嘱累品」が途中にあるのは、鳩摩羅什が「嘱累品」を移動したからであり、この事は、601年の法華経の校正、中国西安、大興善寺所蔵法華経原本からの校正、いわゆる添品妙法華経、において、嘱累品を移動したのは鳩摩羅什である事が、『序文』にも書かれており、確定している。鳩摩羅什訳以外の梵文、漢文は全て嘱累品が最後にある。また、羅什が嘱累品を移動した結果、普賢菩薩勧発品が最終章になるため、羅什は普賢菩薩勧発品のラストに、「実際には経文に無い結文」を入れている。しかし添品妙法蓮華経校正時(601年)、羅什の移動した「嘱累品」が元の場所(最後)に戻され、普賢菩薩勧発品ラストの追加文も同時に削除された。ところがまたしても日本版妙法蓮華経では、羅什が移動した嘱累品は、経文の途中ににあり、普賢菩薩勧発品ラストの追加文も残ったままとなっている。
この他にも様々な改変箇所があり、仏教学者の苅谷定彦は、鳩摩羅什は法華経を般若経の傘下に引きずり込み、般若経思想を支持する経典の一つにしようとしたのではないかとしている。
●竺法護訳 「佛説是樂普賢品時。如*江河沙億百千姟諸菩薩衆。皆逮總持」 江河(ガンジス川)沙(砂)億百千姟(十億)諸菩薩衆。皆逮(とらえる)總持(陀羅尼) ●添品妙法蓮華経 「説是普賢勸發品時。恒河沙等無量無邊菩薩。得百千億旋陀羅尼。三千大千世界微塵等諸菩薩。具普賢道 」 普賢品が説き終わると。ガンジス川の砂の数ほどの菩薩。回転する陀羅尼を得。三千世界の諸菩薩。普賢道をそなえる。 ※添品妙法蓮華経の校正時、鳩摩羅什の追加した書き込みは削除されている。 ●ケルン・南条本(サンスクリット:植木雅俊訳:日本語訳のみ) ガンジス川の砂の数に等しい偉大な人である菩薩たちにとって幾百・千・コーティー回も回転する陀羅尼(百千万億旋陀羅尼)の獲得があった。 ●鳩摩羅什訳 ●赤色が追加部分。 「皆大歓喜」という終わらせ方は嘱累品から取ったものだ。「作礼而去」も経文の終わりの定番である。 (翻訳は角川ソフィア文庫・大角修訳) 「説是普賢。勧発品時。恒河沙等。無量無辺菩薩。得百千万億。旋陀羅尼。三千大千世界。微塵等。諸菩薩。具普賢道。 仏説是経時。普賢等。諸菩薩。舎利弗等 諸声聞。及諸天龍。人非人等。一切大会。皆大歓喜。受持仏語。作礼而去。」 世尊がこの普賢勧発品を説かれた時、ガンジス川の砂の数ほどのおびただしい菩薩。三千大千世界の微塵の数に等しい菩薩たちが、普賢のみちにおいて、全き者となりました。 世尊がこの妙法蓮華経を説かれた時、普賢らの諸菩薩、舎利弗ら、声聞の修行者及び諸天・龍・人・非人らの一切の者が皆、大いに歓喜して仏の言葉を受持し、礼拝して霊鷲山の集会から去っていったのでございます。 |