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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

僕の初体験?・・・

今年初めの事です。
店の電話が鳴る「情報ビジネス専門学校のSですが」とかかってきた。
Sとはその学校の講師をされているS女史のことであるが、それよりその学校は我が息子が在籍している学校なのである。
(そろそろ卒業)出来のいい我が息子のこと
「何かしでかしたか?」もしくは「卒業に何か問題でも?」
と、瞬間頭をよぎったのであるが、 内容は全く違っていた。

卒業生にはホテル関係に進む学生もおり、またちょうど社会人になったところ、酒を飲む機会も増える。 酒への向かい方、また酒場でのエピソードなど喋っていただけないか?という事であった。
一時限50分ということだそう。

う〜ん、困ってしまった。

確かに喋る仕事には間違いないが、あくまでもカウンターというある種防波堤?のような、 また時にはつなぎの役目、もしてくれる。
またカウンターにちょっと指先でもふれているだけでも何故か安心する。
それと決定的な違いはお客との会話であって、講義でも講演でもない。
それともうひとつ、基本的に人前での喋りは得意ではない。
繰り返すがカウンターという程よい距離があって、かつ「酒」という潤滑油があって僕の場合い成り立っているのである。
なんとか・・・。


昔四国にいる頃電力会社主催の料理教室を月に一度だけだが、しばらく一応講師としてやっていた。
これはあくまでも料理を作りながらであり、そんなに難しいことではない。
が、教えるということの難しさを知った。
「こうやって、こう味付けしたら美味しく出来上がります」ではだめなのだ。 これは出来るもの同士のことであり、こうやったら、こう凄い失敗をすることになります。 という、要するに中には想像を超える失敗(人)がいる、という事も分かっていないと教えられない。

落語のネタにあるような「はい、ここで落とし蓋をします」というとほんとに豚を床に落とす人がいるのである。 フタをわざわざ高く持ち上げ鍋にボチャン、などまだ愛嬌があるほうなのだ。
砂糖と塩の間違いなど可愛らしいものである。 


さてS女史の「ご紹介したりしますから、実質40分くらいです」という言葉に乗せられ、実に不安ながら引き受けてしまった。 一応テーマとして「何でも知った方がいい・何でも出来た方がいい・酒も飲めた方がいい」と、 あくまでも先に「出来たら」を付ける。

ゆる〜くいこうと決めた。

そして酒場のこと、まずは洋酒にまつわるほんのうわべだけでも覚えてもらおう。 次は気楽に世間話しといこう。
そして酒場でのお客様とのエピソードをいくつか話しているうちに時間も進むだろう。

残りはハーモニカでも吹き、軽いマジックでも覚えてもらおう、とまあ講義、講演には程遠い進行らしきものを考えた。
S女史にそれらしき事を伝えたところそれでも良いとのこと。

やれやれだ。


二月に入りその日がやってきた。
一方的に壇上から喋る。
初体験だ。緊張しないことを自分に祈るばかりである。

学校に向かいながら圧倒的に女子学生が多いことも聞いていたので、 今時の若い女の子の集団の中で喋れるのだろうか、反応があるのだろうか。

実に不安で頼りないことこの上ない。

学校へ付き職員室へ入るとS女史が待っていてくれた。
紹介してからお呼びしますとのこと、教室の前で待っていると呼ばれた。

さて進行らしきことを書いたメモと自分で用意した水筒を前に置き、 さあ酒の説明が始まったが案の定緊張で汗も出てくる。

ハンカチも見当たらない。

職員室へ置いてきた上着の中にある。
しょうがない袖で汗を拭く。
余裕無く淡々と酒の説明をしているだけだ、面白いはずが無い。
とうぜん反応も良くない。

次、予定通り世間話だ。
なぜか我が家の猫の話になり、ついでに犬との違いになる。 その頃になりやっと学生達も少し打ちとけだし、ついでに僕もふーと気が楽になる。
これまた予定の酒場なりのエピソードの話になると僕自身もちょっと楽しくなり、 質問も含め、店での会話のような空気になった。
ふと後でやさしい目で見守っておられたS女史に時間をお聞きすると

「後8分くらいです」

と、意外と時間は過ぎており、覚えて帰ってもらおうと思っていたマジックも少ししか出来ず、 結果何とか持ち時間を消化出来た。

お世辞とは言え、S女史に「ばっちりでした」といわれ、ちょっと本気にしながら気持ちよく学校を後に出来たのだった。


次の日S女史とその教室の担任のN女史と店に来ていただき、改めてお礼を言われたが、 素直に、滅多に無い良い機会を与えてくださった「S女史」と「N女史」に感謝している。

ともかく、やれやれであった。

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。