今回は塩のことをちょっと書いてみよう。
バーで塩というと真っ先に出てくるのがあの人気のカクテル、ソルティードッグではないかと思う。
通常のタンブラー(8オンス)より少し大きめの10オンス・タンブラー(コリンズ・グラス)の淵をライムで濡らし、塩の入った容器にグラスを逆さにし、軽く塩に付ける。
俗にいうスノー・スタイルと呼ばれるものである。
グラスを濡らす場合レモンでもいいが、切った断面がライムより水分が多いように思われる。
そのため塩が付きすぎてしまう場合がある。
また使う塩も冗談でも漬物に使うような並塩ではいけない。
きめの細かい塩の方が見た目も綺麗だ。
そのスノー・スタイルにしたタンブラーに適当な大きさの氷片を1〜2個入れ、ウヲッカを注ぎグレープフルーツ・ジュースで満たす。
クリアなウヲッカと少し渋みのあるグレープフルーツにその塩が絶妙なバランスをかもし出す。
ソルティ・ドッグ、素晴らしいカクテルである。
こんなもの、書くより飲んだ方がよい。
またメキシコの酒テキーラも塩は欠かせないようである。
塩を少し舐め、ライムを口に含み、少し噛み砕き(飲み込んだらいけない)テキーラのストレートをクイッと飲る。
これもまた三位一体、絶妙である。
つい先日もテキーラを現地取材した番組をNHKで放映していたが、まさしくこの飲り方で豪快に皆飲んでいた。
参考のためにこの飲み方に似た「ニコラシカ」というカクテルがある。
レモンスライスに砂糖を適量乗せ口に含む。
これもすこし噛み砕き(これまた飲み込んだらいけない)そこへブランデーのストレートを口へ掘り込む。
いわばカクテルの一気飲み、と言ったところである。
テキーラもブランデーも蒸留酒、40度もしくはそれ以上あるが、普段ストレートじゃキツ過ぎて飲めない、という人も飲めるから不思議である。
塩分と酸味が合わされた妙なのだろう。
余談だが、むかしの夏みかんなど大変に酸っぱかった。
それに塩を軽くまぶして食べるとその酸っぱさが何故か甘みを感じるくらいになる。
ほぼ同じ作用なのではなかろうか。
また日本においても枡酒(マスザケ)もそうであるが、枡の角、もしくは手の甲に塩を乗せ舌でチョロット舐めながら日本酒をクィックィッと飲る。
なかなか日本の酒の情緒、酒飲みの粋さを感じる。
酒だけだとタダの酒好き、酔っ払いになってしまう。
やはり塩は大事なのである。
さて前置きが長くなってしまったが、先日あるラジオで塩をテーマにした番組があった。
細かい内容はともかく、ちょっと興味をそそられ次の日とりあえず近所のスーパーを覗いてみるとそこそこの種類が置いてある。
塩のこと大して高くもない。
まずは何種類か買ってみることにした。
まずはオーストラリアの塩湖産であるが、あのただ広いだけの国に塩の湖があるとはびっくりした。
一部山脈もあるのでどっかその辺りにあるのだろう。
次にイタリアは地中海の海水から造ったという自然塩である。
ヨーロッパの方は味付けは日本などのように味噌や醤油などなく、ほとんど塩分は塩だけに「塩文化」があるのだろう。
さて日本であるが、全国に知らしめる能登半島は珠洲の揚げ浜塩田がある。
が残念ながらスーパーには売っていない。
しかし同じ珠洲産で科学的製塩なのだろうが天然塩として売られていた。
ちょっと高い。
通常量産される塩の値段というと一キロ百円から二百円程度であるが、さすがに珠洲産は二百グラム五百円であった。
とりあえずこの三種類を買ってみた。
さて違いはというと、オーストラリア産の塩湖はかなり塩分がきついがクリア、後味もすっきりしている。
粒子は細かい。
イタリアの地中海産はというと、最初舌で舐めてみると何か物足りない、が甘みと塩味が増し、結構尾を引く、なかなか悪くない。
粒子はなんだか丸い感じである。
珠洲産はというと、最初から舌に甘さを感じる。
あえてそうしているのか粒子はかなり粗く、口の中で溶ける前に歯でかむとガリガリと音がするから面白い。
とにかくすこし舐める限り、塩とは思えないくらい甘さを感じる。
昔の粋な“のん兵衛”は手の甲に塩を乗せ、舐めながら一杯。
“味”のある塩だっただけに酒の肴にもなった、ということなのだろう。
ところで先にも記した、揚げ浜塩田であるが今は日本で一箇所だけだそうである。
理由はというとはっきりしない。
何故か昭和34年に塩田による塩作りは廃止されたそうである。
しかし伝統保存として珠洲市が実質国であった日本専売公社に陳情、何とか今現在に至る「角花家」だけが許されたそうである。
ちょっと塩に興味を持った限りは是非その塩を、と思っているところへ数日後嫁さんが「ありましたよー」と買ってきてくれた。
なんてことはない市内の百貨店にあったらしい。
さすが手作り塩田の塩だけに三百グラム千円だったが、塩造りは大変な手間がかかるらしい事を考えると安いのかもしれない。
まず天秤棒で海水を何回も何回も汲んでは塩田(砂地)に撒く。
並みの量ではないことは察しがつく。
撒き終わるとある程度水分を蒸発させた後、砂を集め桶に入れ海水を入れ数時間炊く。
そしてまた海水を足し、再度砂地に撒く。
また同じ工程を繰り返し、そして通常の7〜8倍に濃縮された海水を取り出し、最後10時間寝ずの番しながら煮詰めるそうである。
もちろんそれで終わらない、不純物除去他等の作業が待っている。
いわゆる「手塩にかける」とはここからきているらしい。
大変に納得である。
いよいよ味である。
封を空け香りを嗅いでみる。
ほのかに潮の香りがする。
粒子は少し粗めで湿り気がある。
指でつまみ舌に乗せてみると先の珠洲産の甘さに加え、オーバーではないが昆布出しでも入れたのではないかと思わせるぐらい“味”を感じる。
通常製塩されたものは精製度90から95くらいらしいが、これは75から80くらいらしい。
精製度が低い分残りはミネラル分、イオンなどが多く残留している、それが旨みとなっているのだろう、と自分で思いながら納得、である。
久しぶりにちょっと新鮮な気分である。
まだまだ各種ありそうだし、日本にはない各国の岩塩なども楽しめそうである。
ともあれ日本酒の肴は塩で十分だ、という気にさせてくれたのは間違いない。