いつもと変わらない平和なある熱い夏の日の事です。
九時近くになり、いきおいよくドアが開くと
「オバンでがす〜」
別にオバハンが来たわけではない、35〜6の威勢のいい男である。
「イヤ〜金沢もあちぃでげすなぁ、まんずビールぉばケサイ」
と、始まった男は岩手の農業試験場から金沢へ視察に来たとの事。
昼は芋掘り藤五郎とあがめたてられ、夜はべちょこ荒らしの金太と、若い女性から恐れられているらしい。
「兄んさべちょこ好きがへ」
と言いながら、ボトル棚から目ざとくラム酒の25年ものを見つけると、
「イヤ〜こりゃあまた珍しいっす、まんずあのラム酒ぉばケサイな」
「コッ、これはウメエッす」
と、やっているところへこれまた30代であろう男がやって来た。
「イヤ〜熱かごとねえ、鹿児んまも金沢もいっちゃんと変わらんとじゃなかねえ、ほんにまあ」
と言いつつ、オールド・ジョーストレートで、とくる。10年物の腰のあるいいバーボンだ。
そしてクイッ、クイッと飲りながら始まった。
昼は薩摩のぼっけもん(頼りがいのあるいい男)夜は風の又三郎と、呼ばれているらしい。
なぜ風かと言うと、擦れちがいざまに目にも止まらぬ速さで服を脱がし事を終え、服を元通りに着せる。
そして風のように去っていくのだそうである。
脱がして服を着せるまで、とにかく目にも止まらぬ早さゆえ、相手はもちろん、本人もまったく感触、自覚がないらしい。
結果的にいまだ童貞だと自慢している。
バーテンと岩手の芋掘り籐五郎は実に、バカバカしイ事を聞いてしまったという風。と言ってもニヤニヤしながらではあるが。
それから、岩手んひとでゴワスか、ケゴスマのストでげすか、
まあ飲むべえ、飲むもはんか、とやっているところへこれまた30代の男。
「イヤ〜金沢あつうおまんなあ、汗でビショビショでんがなあ、先にヨウ〜冷えたビールもらいまひょか。
イヤハヤほんまどないでっか、皆はん忙しおまっか、あきまへんか、まあぼちぼちいきまひょ、さあ飲みまひょ、やりまひょアヘホヘ」
と言いながらまだつづく、
「ヘエ〜色んな酒がありますのやなあ、わてさっき焼肉屋さんでカクテキ食べてきましたさかい、カクテルにしまひょかなあ・・・?」
とまあ彼が注文したのは・・・別にオチはない、ピンクジンである。
ネーミングの割にはかなり辛口のカクテルだ。そして例によってまた始まる。
「わては浪花のあきんどだス〜」
に始まり、大阪では後家殺しの玉三郎と恐れられ、若い子には早撃ちのジョー。またの名をコルサのジョー(これは単にトヨタ・コルサに乗っているからとの事)
という事で、岩手の芋掘り籐五郎、薩摩は風の又三郎、浪花は後家殺しの玉三郎、とまあツワモノぞろい・・・?
かくして三人の大宴会は始まった。さあのん兵衛ずら、ジャンジャン飲んもんそ、やんもんそ、
今日は徹底的にいきまひょかあほないきまっせえ〜、
ひとつ出たホイのヨサホイのホイホイ・・・
ひとりムスメと・・・・・これは全国共通らしい。
平和な酒場の時は、今日も流れていく。