◆ANTIQUE花小筐◆ 花がたみ |
![]() |
上 陽子 |
連載その4 番外・京都逍遥 一 |
少し時間ができたので久しぶりに京都へと出かけた。新年を迎えようとする浮き立つ喜びが感じられるころである。 いつもなら祇園近くの新門前、古門前の骨董街を歩くのだが、今回は初めて寺町通りへと足を向けた。 京都へは高速バスで向かい、三条京阪で降りた。カモメ舞う三条大橋をわたる風は幾分暖かい。 ご存知のように寺町通りは河原町通りと並んで北に上がる通り。四条から御池まではアーケード街で鳩居堂などの文具の店や古書店、ギャラリー、アジア雑貨の店などがあり、右に左にふらりふらりと彷徨い遊べる。 本能寺の前を過ぎ御池通りを渡って京都市役所横へと進むと、ここからが寺町通りでも骨董店が点在するあたり。雑誌にも紹介されることの多い大吉や京都アンティークセンターなどがあるところ。けれども見てもほとんど無駄であった。 ズブの素人だった頃であれば、喜び勇んで楽しめたのに、今の私は卑しく品定めする輩と成り果ててしまっていたことを今さら気づかされてしまった。哀しき哉。 そんな心持のなか楽しかったのは三月書房。昔むかし、亀鳴屋亭主の若かりし頃、その後輩として私も編集の仕事をしていた。その名残で本屋は骨董屋と並んで覗かずにはおられない聖域といえる。間口一間半ほどのその本屋は新刊本のほか古書も置いてあるカオス。ケルト神話の本や今は無きペヨトル工房の「夜想」のバックナンバーが揃っており、何だか他人の本箱をのぞき見している気分だ。 店の奥の番台には正ちゃん帽にロイドメガネ、口元 ![]() 大学生と思しき男性が何やらカタカナの人名をあげ、その詩集がないかと尋ねたところ「ああ、それでしたらそちらの棚のあのあたりにありませんか」と。果たして本はそこにあった。本屋の形はとっているが、ここは店主の書庫なのである。唸りました、嬉しくなりました、これでこそ本屋というもの。さすが京都、侮れません! 山本容子の「本の話 絵の話」を求め、地元のパン屋進々堂でちょっとひと休み。 ゆったりしたカフェスペースでランチセットを注文し遅い昼食をとった。カフェにいる人みんなが昼下がりのひと時を楽しんでいて、それぞれのテーブルの小さな幸せが店全体にたゆたう。町の暮らしに溶け込んだ店ならではのくつろいだ暖かい雰囲気が、わたしにも伝染しとても幸せな気分。 エネルギーを補充してまた歩き出すと、根来の朱を思わせる赤い扉が目に入った。オリエンタルアートと書かれていなければブティックと見まごうばかりの店構えである。そこはアクセル・ミヘルスさんという外国人が店主であった。店内はほの暗く奥へと続き、展示してある品は少ないのだがいずれも秀逸。枯れた味わいの平安ごろの神像や仏像が静かに座し、私を見据えていた。 店主は今しがた仕入れたばかりの屏風を広げているところであった。金箔地の上に描かれた絵図は、葦が風にたなびき、その上空に雁が描かれている帰雁の図。寥とした中に過ぎていく季節、時の移ろいを惜しむ心が偲ばれるものであった。国籍や人種など関係なく、同じものを美しく感じ取れる人間の心が嬉しかった。 外国の文化に理解と興味、そして敬意をもてば、自ずとその国の人々にも思いが寄せられ、戦争などという愚かな行為は少なくなるだろう。骨董を扱っていく上で私にも微力ながらの何かができればなとアクセルさんの店を出て思った。 どうか世界の未来が愛と平和に満ちたものになりますように・・・。 |
||
上 陽子(かみ ようこ)さんは、アンティークのお店「花小筐」(はなこばこ)のあるじ。古いものたちの持つおもむきの微妙をさとる確かな目を持った女性です。 | 連載その3へ |
|
![]() |