科学の話題
こちらは普通の方でも気軽に見られる小路です。
何かの現象・発見や、或いは架空・未来を題材にした作品など取り上げて、何か話しましょうということです。
できるだけ、何かの取っ掛かりがあるようにしますが、それがメジャーなものであるかは保障できません。
私が気が付いた中から、選ばせていただこうと思います。
ネタを振っていただいたら、知力が及べばお応えしようと思います。
レイアウトがよろしくありませんが、そこはご容赦ください。
目次
2003/2/2:スペースシャトルの事故について
2003/3/9:ナトリウムとは?
2003/3/23:2003年版天文年鑑より
2004/1/13:宇宙開発の話
2004/4/29:エクセルギー
2004/5/16:2004年版天文年鑑より
2004/5/16:2004年版天文年鑑より
今更ですが、今年の天文イベントをさらっとご紹介します。
すでに広く知られていますが、彗星の当たり年です。
昨年の段階(つまり年鑑に紹介されている)でもニート・リニアーの両彗星が接近することが知られていました。
いずれの彗星も太陽から離れた地点から接近が観測されており、大彗星であることが知られていました。
それに加えて今年ブラッドフィールド(有名なアマチュア天文家)が発見した彗星が明るくなることが判明し、4、5、6月辺りに何度か観察のチャンスがあります。ちなみに、ニート・リニアーは個人名ではなく、それらは機械的な全天走査で発見されたものです。
実際の観望の情報は、こちら辺りを見るとよいでしょう。両彗星とも5月後半から夕方の西の空に出現します。
あとは地味なところを攻めますが、有名な流星群である「ペルセウス座流星群」(8月中旬に極大)が非常に条件がよい年です。
流れ星を見たい・見せたいなら、ここが狙い目です。1時間粘る気があるなら、数個は見ることができるでしょう。極大日は8/12になっていますが、前後も上記程度の出現があります。
12月には「ふたご座流星群」が活動し、これは数はやや劣るものの空の高い位置から降り注ぐ動きになるため、見ていていかにも流れ星と感じられる流星群です。これも今年は好条件です。12/14が極大となっています。
主なところは以上ですが(マニアには色々見所はありますが)、その他の話題に「冥王星の外に巨大な小惑星」と「土星に探査機カッシーニが接近」があります。
前者は既報ですが、冥王星には及ばないものの、かなり近い大きさがあるようです。これを惑星に・・・とはならないようですが、どちらかというと冥王星が惑星であることの方が違和感があるというところです。これはエッジワース・カイパーベルト(太陽系の外縁部)天体という、他の惑星とは違った成り立ちのものが海王星の外に無数にあり、冥王星もそのひとつであると考えるのが自然だからです(それゆえに軌道が他の惑星と大きく異なります)。ただ歴史的に予測された惑星として発見されているので、今回の小惑星と意義は違います。その点から考えると、今後外部に冥王星より大きい小惑星が発見される可能性があると言えるでしょう。
後者は7月に到達予定です。カッシーニは「カッシーニの隙間」という土星の輪の隙間を観察した人物の名を冠した探査機です。7年で土星に到達するということで、遠いような、意外と近いような・・・。
おそらくこれまでにない映像が見られることは確実で、衛星の発見もあるでしょう。輪の数もいくつも増えそうですね(一般的には、A〜Gと分けられています)。
2004/4/29:エクセルギー
「エクセルギー」という言葉になじみがある人は少ないと思います。これは純正科学者であっても同様だろうと思います。
エクセルギー(exergy)はエネルギー工学において「エネルギーから取り出すことのできる最大有用仕事量」を表すもの(状態関数)です。
これは合成語で、exは放出、ergは仕事を意味します。エネルギー(energy)と似たような形成ですね。
今回はお隣の「めっきの話題」で取り上げている「表面技術」という雑誌から、このエクセルギーに関する内容を触れようと思います。
こちらで書くのは、実用的とはいえ純正科学的な内容によって構成されているからです。
エクセルギーは絶対量であるエネルギーとは異なり、地球環境における通常状態を基準とする相対値によって表されます。
もちろんこれが実用性を重んじたことを所以としているのは言うまでもありません。
一般に科学的な状態の変化の前後を比較する場合には、両者の絶対値を算出して比較を行う必要があります。通常の感覚だとこうした絶対値の計算は、机上の文字による計算以外ではあまり実用的ではありません。
どちらかの状態をゼロとする、或いは近い準位にゼロ点を置くのが通常です。この「近い準位」を通常の地球環境としたものこそが「エクセルギー」なわけです。
例えば海水は、膨大なエネルギーを内部に持ちます。
質量からくるもの、その温度によるもの、重力によるポテンシャル、主なものを挙げるだけで莫大なものになります。
しかしながら、通常これらのエネルギーは人類が有効に利用することが難しいものです。
質量のエネルギーを使うためには「核反応」が必要です。
温度によるエネルギーを取り出すには、より高い(低い)温度の系に海水を移す必要があります。
重力の位置エネルギーなら、海水をどこかへ落とさなくてはなりません。
これはエクセルギーとして見た場合、海水はゼロの状態にあると言う事ができます。
地球環境がゼロであるということは、そのままでは地球環境に対して仕事ができないものはエクセルギーが「0」であると決めることができるからです。
海水は、そのままでは地球環境に対して「仕事」ができないので、通常エクセルギーはゼロであると考えられます。
単純な例を考えると、地球環境より温度が高いもの・低いものはともに仕事をすることができ、エクセルギーを持ちます。
また大気圧より高圧・低圧の気体もともに仕事をすることができるので、エクセルギーを持ちます。
本文中では、もう少し科学的な例も挙げています。
1気圧の酸素は、酸素分圧0.21の通常大気と比較すると、大気から純酸素を取り出す分に相当するエクセルギーを持っています。
金属鉄は、地球環境中で安定な酸化鉄へ変化するので、酸化反応に対応するエクセルギーを持ちます。
論文中では、エクセルギーは不可逆過程の親和力と同様であると説明しています。つまり酸素の場合は混合親和力、鉄の場合は酸化反応の親和力に相当するだけエクセルギーが高い状態にあると言えます。
こうなってくると、地球環境で放っておいても起こる現象は「エクセルギーを減少」する方向へしか進みません。
熱力学の第二法則「不可逆過程の親和力減少則」が適用されているためで、エクセルギー減少則と言い換えることができるでしょう。
エントロピーとの絡みで言うなら、「孤立系で不可逆過程が進行すると、系のエントロピーは増大する。開放系で不可逆過程が進行すると、系のエクセルギーは減少する」と表現できます。
エントロピーって何?という辺りは、Google検索でいくらも引っ掛けることができるので、そちらで調べてください。
エクセルギーは特定されたものに対して定義されていないため、現象に応じて考える必要があります。以下、少し例をとります。
「熱のエクセルギー」
一般的なエネルギーとして捕らえやすい熱ですが、熱が仕事を行う場合は熱エネルギーの仕事への変換効率が100%とはならないことが特殊な点になります。他のエクセルギーを考える際には、原理的に100%の効率と考えることができます。
理想可逆熱機関で考えると、絶対温度Tの熱源から熱量Qを受け取り、絶対温度T0の地球環境へ熱量Q0を放出することで得られる最大仕事Wmaxは
Q−Q0=Q(T−T0)/T
で与えられます。熱のエクセルギーはその熱量から取り出すことができる最大仕事量で定義されるので、温度がTで高温熱源熱量Qである熱源が持つエクセルギーは
E=Wmax=Q(T−T0)/T
となります。ちなみに、利用できない熱エネルギー”Q0=Q(T0/T)”はアネルギー(anergy)といいます。
「圧力のエクセルギー」
圧力がpで体積Vの理想気体が一定温度の環境T0で膨張して体積V0となったときに外界と平衡状態になった場合、この気体が行う可逆仕事量はp>>p0とした場合に近似によって
Wrev=∫(p0→p)pdV
で与えられます。この記事中では書式の関係で”∫(p0→p)”はp0(上)からp(下)までを積分するという意味で使います(わかりますよね?)。
理想気体としているので、その状態方程式pV=nRT0を用いて、
E=Wrev=−nRT0∫(p0→p)dp/p=nRT0lnp/p0=−T0(S−S0)
と表せます。ここでのSとS0は、圧力pとp0における理想気体のエントロピーです。
「物質の高温・低温エクセルギー」
絶対温度がTである物質のエンタルピーHと、絶対温度T0の物質のエンタルピーH0の間には、物質の相変態がないとするとH−H0=∫(T→T0)CpdTの関係が導かれます。
ここでCpは物質の熱容量で、dTだけ温度が下がった時に放出される熱量はdQ=dH=CpdTなので、この冷却過程でのエクセルギーEは
E=∫(T→T0)(T−T0)dQ/T=∫(T→T0)CpdT−T0∫(T→T0)dQ/T=(H−H0)−T0(S−S0)
であり、SとS0は温度TとT0におけるエントロピーです。
この式は物質が環境温度よりも低い場合においても成立し、低温の物質も正のエクセルギーを持つことになります。
つまり上の式は各値をモル当たりにとることで、温度変化に関するエクセルギーを表す一般式になります。
よく見るとわかりますが、エンタルピーの変化量が全てエクセルギーになるわけではなく、有効に利用できるエネルギーはより少なくなります。
以下に示す式はこの有効利用の割合を示す尺度のエネルギー有効比(the availability ratio of energy)λを与えるものです。
λ=E/(H−H0)
「物質の混合エクセルギー」
いくつもの理想気体がそれぞれniモルの割合で混合した時の混合エントロピーSmは全体のモル数をNとしてSm=−(i)niRln(ni/N)で与えられます((i)はiまでの総和という意味)。
混合気体1モル当たりとすると、混合でのモルエクセルギーEmは、モル分率xi=ni/Nを用いて、以下のようになります。
Em=−T0Sm=(i)RT0xilnxi
混合気体の成分iの組成(モル分率はxi)が地球環境(温度T0)の大気の組成(モル分率xi,0)と異なる場合、混合気体1モルのエクセルギーは
E=(i)RT0xiln(xi/xi,0)
で与えられます。
「物質の化学エクセルギー」
温度Tの物質が化学反応によって温度T0(環境)と平衡状態にある生成物へ変化する過程のエクセルギーを考えてみます。
複雑なので、これを3つの過程として捉えます。
1:反応物質が標準状態(T0、p0)へ移行する温度と濃度の変化
2:単位反応物質から生成物が生じる化学変化
3:生成物が環境と平衡状態に移行する濃度変化
1と3は物理エクセルギー(Ep)が生じる過程で、2は化学エクセルギー(Ec)が生じる過程です。反応物質のエクセルギーは両者の和になります。
Epは温度変化・濃度変化で生じるので、Ep=H−H0−T0(S−S0)です。Ecは反応の標準親和力A0と同じですから
E=H−H0−T0(S−S0)+A0
これがエクセルギーとなるわけです。この式を利用すると、反応物質のエクセルギーを計算することが可能になります。モル当たりのそれを標準モル化学エクセルギーと称します。
簡単に言ってしまうと、対象物質と環境状態のエンタルピー・エントロピー、環境状態の温度がわかれば、エクセルギーは計算できることになります。
E=H−H0−T0(S−S0)
これが物質のエクセルギーを示す一般式になります。
よく読んでみるとエネルギーに関する理論的な部分とよく似ていると思われる方もいるでしょう。それは実に当然であり、エクセルギーの定義がそれを明確に示します。
このエクセルギーの利点は、エネルギーで考えると話が大きくなりがちな系の反応を、実用的な範囲で取り扱う手法です。
例えば化学プラントでのエネルギーの有効利用を考える時、エネルギーを基準とすると何が損失であるかが明確になりませんが、エクセルギーは損失があって減少することを明示してくれるので、有効性があります。
「エクセルギー線図」
エクセルギーを実用上で考える上で、その系の状態を理解する手助けをするものです。横軸に凾g、縦軸に凾dをとったもので、原点からある過程の結果としてどこへ変化したかを示すものになります。
凾d
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1 | 2
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――――十――――凾g
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3 | 4
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|
各エリアの意味ですが、
(1)はエクセルギーが増大していくので、非自発過程を示します。また、エンタルピーが減少するので発熱過程です。
(2)はエクセルギーが増大していくので、非自発過程を示します。また、エンタルピーが増大するので吸熱過程です。
(3)はエクセルギーが減少していくので、自発過程になります。また、エンタルピーが減少するので発熱過程です。
(4)はエクセルギーが減少していくので、自発過程になります。また、エンタルピーが増大するので吸熱過程です。
ということなので、例えば一般的な自発反応は発熱するので(3)になります。
この図にエントロピー変化の要素を追加すると、より理解が深まります。
エネルギー有効度λを使うと
λ=凾d/凾g=1−(T0凾r/凾g)
であるので、例えばλ=1ならエクセルギー線図では傾き1の直線が描かれます。このときは凾r=0であり、反応のエネルギー(エンタルピー)はすべて利用可能なエクセルギーであるということです。
また式から、必ずλの関係はエクセルギー線図上で原点を通る比例直線として現れます。
そこでλの値と意味ですが、0<λ<1の範囲では、エントロピー変化凾rとエンタルピー変化凾gは同符号、すなわち全体の反応と同じ方向に現れます。この場合の反応は(A)自発的に進む発熱反応、(B)自発的に進まない吸熱反応のいずれかを示します。一般に理解しやすい反応を示していると言えます。
λ>1という状態では、式から凾rと凾gは異符号です。この状態でエンタルピーが増加すると、エントロピーが減少します。これは物質を分離するような反応が該当します。逆にエンタルピーが減少してエントロピーが増大するのは、物質を混合する反応が該当します。
λ<0という状態は、凾rと凾gは同符号で、両者が増大してエクセルギー変化凾dが減少するのは、負の熱量を放出する過程(冷放出過程)を表します。上の(4)に当たります。同様に凾rと凾gが減少して凾dが増大する過程は、負の熱量(冷気)を吸収して仕事をする過程(冷吸収過程)を示します。
化学プラントのような物質の精製を行う場合には、エクセルギーの高いものを使用してエネルギーを供給しなくてはなりません。エクセルギーをどのように供給することが有効であるかを検討する場合、エクセルギー線図の上でベクトルを描くとわかりやすく把握することができます。
このエクセルギーという考え方は、反応過程の設計において大きな役割を果たすものです。本来反応系に関わるすべてのエンタルピー・エントロピーを考えるところを、比較のみで計算可能にしているところがエクセルギーの長所になります。
この系統の分野にしては、理解が及びやすいレベルにあると思います。工程設計に関わりがある方には、触れておかれることをお奨めして以上とします。
2004/1/13:宇宙開発の話
相当に間が開きましたが(めっきに注力していましたから)、不甲斐なく映る日本のロケット打ち上げについて触れようかと思います。「科学」というより「技術」の話であり、「思うこと」で取り上げるべきかもしれませんが。
そして他国、特にアメリカの宇宙開発についても、肯定・否定を交えて書いてみます。
人間が製造するいろいろなものには、「規格」が存在します。ある基準に対して守るべき範囲があると言う話です。
このサイトに合わせて「めっき」で言うなら、例えば金属皮膜の厚さが5〜8μmであること、という感じです。
一般に製造工程では、この規格に対して正規分布的な変動を伴う結果が付いてくるので、その範囲を規格内に収める工夫が求められます。その際に守るべき基準に「平均値から標準偏差のX倍の範囲をとっても規格内であること」というのが大抵あります。
標準偏差の話を始めてもよいのですが、それだけで本一冊になります。それはここを読んでおられる各位にお任せして本旨を進めますと、めっきでは大体3σ(標準偏差の3倍)を基準に考えることが多いように思います。この辺りは仕様書などで決められていることがあるでしょう。
ただ、分布のばらつきは確率的であり、3σが規格範囲であっても外れてしまう製品が発生することは確率的にありますし、実際にも発生します。確率的に3σを守っていると、3/1000という確率で規格を外れます。ただし事象が正しく分布を形成するわけではないため、先の3σの管理で十分であるとされてくることになります。
これでは心許ないという高品質の製品はありますから、そういう場合には6σを満たす管理手法もあります。これだと100万個単位でようやく規格外れが見受けられるレベルです。「ppm」の管理ですね。
ここまでは製造の管理部門なら常識の範囲です。なぜここでこの話かというと、ロケットに当てはまるべき管理はどうかという話にしたいわけです。
ロケットで使用される部品の総数は、とても100万個単位では済まされません。そうなると6σという厳しい管理も及ばないことになります。
これを回避するためには、製品(ここでは部品)の全てを測定できればよいわけです。不良品を使わなければ問題ありません。
しかし、非破壊で状態を変化させずに全ての事象を測定することは不可能です。ここに宇宙開発の難しさが現れてきます。
コストを無視してもよいなら、製品を格段に高い品質にすることは不可能ではないでしょう。しかしながら、日本のロケットは国際的に見て「値段が高い」ものです。コストの切り詰めは最優先と言えます。
外国はどのようにしているのでしょうか。NASA(アメリカ)は予算が多いので参考にしにくいですが、欧州辺りは商業的に打ち上げを行うことができています。技術も十分に安定しています。にもかかわらずコストでも日本に勝ります。
製品を作り上げる上で大切なのは、すべてをコントロールする設計です。
設計側は「製品に要求される性能」と「生産技術」、「かけてもよいコスト」の3者のバランスをとっていくことになります。ロケット技術に限らず、こうしたことが日本人の不得手な分野であるように思います。
日本の個々の生産技術は大変優れていると思います。また規模が小さな製品(巨視的な設計が不要なもの・・・身近には家電やパソコン)でも優れた製品を生み出すことができています。例えば中国もこうした点ではまだまだです。
ところがその規模が増大すると、日本人はうまく纏め上げることができなくなります。中国は先ごろ有人宇宙飛行を成し遂げましたが、これは大きなプロジェクトを動かす力と組織で日本より優れている(政治体制etc.もあるでしょうが)ことを示しています。
つまり、(何事でも当てはまっているように感じますが)大局を見通していく力が欠けているわけです。この辺りはすでに指摘があるところだったと思いますから、これからの改善が望まれます。
(ちょっと余談ですが)
日本という国は、いくら技術が優れていても有人宇宙飛行ができない国だと感じます。世論は賛成しない(失敗したときのことばかり話題になり、前へは踏み出せない)だろうという予想は考えすぎでしょうか?
さてNASAですが、先の「火星探査」競争ではその地力を見せつけ、「NASAは(コロンビアの衝撃から)復活した」というセリフが出るほどでした。なるほど、それは当たっているかもしれません。
欧州にしろ日本にしろ、太陽系の遠方へ探査機を送り込むことはアメリカに遅れること大差です。
ピンと来ない人に説明しますと、火星くらいの距離になると、光でも分単位の時間がかかります。探査機からの映像は「今現在」ではなく「過去の映像」になります。従って映像を見てから何かすることは不可能です。冗長性がある計画を立て、不測の事態を膨大なシミュレーションなどでなくし、なおかつ超遠隔操作。褒め過ぎているかもしれませんが、現状ではアメリカのみができることでしょう。太陽系の外へ物体を旅立たせているのもアメリカのみです。
けれども、アメリカは少なくない犠牲を払っています。ばく大な予算、尊い人命。その果てにある信じられない神業。アメリカのような国でこそ可能な事業でしょう。
火星探査がこの時期に集中したのは、火星が接近しているからなのは想像していただけるでしょう。その結果として力の差が歴然としたわけです。アメリカは宇宙へのアプローチ方法を改良(スペースシャトルから着陸船方式に)して、月や火星へ人を送ることを考えているようです。これは多分に中国を意識し、意識させることでしょう。
(この辺は私の主観が入っています。21世紀は「中国の世紀」になる可能性が高いと考えているからです)
一市民としては、その競争の果てで確かな進歩と躍進があるなら、それはありかと思うわけです。
まとまりないですが、今はまずアメリカの探査に注視するときでしょう。恐らく「水の証拠」はあって、「生物の証拠」は見つかったとはいえないというオチになりそうですが。何か発見などなどあれば、また取り上げようかと思います。
2003/3/23:2003年版天文年鑑より
遅れてしまいましたが、「天文年鑑」を取り上げます。
「天文年鑑」は誠文堂新光社が発行している本です。この会社は天文関係の書籍を多数出版しています。この天文年鑑は一年間の天文現象の予測や前年の記録などを掲載した情報誌的な存在です。夜空を眺めてみたいと思う方なら、漠然として楽しめなかったという経験をしないようにこの本を読んでみるのをお勧めします。やや専門的ですが・・・。
この本を読んでいただくと解るのですが、小惑星や彗星といった太陽系内の小天体の発見に多くの日本人の方が貢献しています。これまでにも「池谷・関彗星」とか「百武彗星」といった日本人名を冠した彗星を耳にされたことがあるかもしれませんが、実際日本人のアマチュア天文家の活躍はめざましいです。小惑星にはいくつも「日本語名」のついたものが登録されています。逆に恒星の世界では、日本人の名前はほとんど見ることができません。天文の歴史を振り返れば、それは無理からぬことだとわかっていただけるでしょう。
最近では太陽系内の調査が進み、いわゆる木星型惑星(ガス惑星)が多数の衛星を引き連れていることや小惑星も衛星を連れているものがあることもわかってきました。また、第10番目の惑星ということも無理でもない最外部の小惑星も見つかったり(基本的に「冥王星」までで惑星は打ち切りのようです)、さらにその外部の構造の研究も進んでいます。
私が子供のころの理解とはかなり違うことが多くなってきています。この分野は一目に科学の進展を感じさせてくれると言えるでしょう。
さて、折角なので今年(2003年)の天文現象について、一般人の視野に近いところから見てみましょう。少し遅れてしまっていますが・・・。
今年の天体ショーとしては、火星があります。今回は夏に大接近し、非常に大きく見えます。火星の模様があることが簡単にわかるでしょう。この規模の接近は短く見ても79年に一度なのだそうで、ある試算では5万7千年振りの接近になるといいます。次回の大接近は2018年ですが、今回には及ばないそうです。今回を超える接近は2287年になるそうで、そんなものは見れません。
最接近は8月27日です。衝(太陽の反対側に火星がくる。夜中見ることができる)が8月31日であり、月齢も小さく、この付近は絶好の観察期になります。双眼鏡程度でも十分に楽しめるのではないでしょうか。実質的に夏休みは全て観察の好機なので、お子様がおられる方は見せてあげるのもよいのでは?
夏といえばペルセウス座流星群が活動して、10分ほども空を見ていれば確実に流れ星が見られる(だいたい8月15日前後)のですが、今年は月がジャマになり、明るい流星しか見ることができないでしょう(それでも、流れ星探しはできると思いますが)。近年はしし座流星群の話題で、流星と言えばこちらが出てくるでしょうが、安定度と年毎の差が少ない(出現が期待できる)点はペルセウス群は他の追従を許しません。夜の観測もしやすい時期ですしね。
あと、土星がきれいに見える時期に当たっています。冬の空にあり、輪を大きく開いていて「写真に良い」土星が美しく撮れます。
もうひとつ、気が早いのですが、来年に期待される彗星が発見されています。発見時点では土星の近くという遠さで、大型の彗星です。ヘール・ボップ彗星より若干光度で劣りますが、観測しやすさが大きく勝るそうで、よりきれいに見ることができそうです。近日点通過は2004年5月の予定で、このころ話題に上るでしょう。
興味を持った方は、天文関係のガイドなど読んでみられては?
2003/3/9:ナトリウムとは?
「天文年鑑」はもう一回分遅らせます。
これを取り上げるのは、少し前に「もんじゅ」の判決が出されたためです。
私の専門に近い「原子力」ですが、核分裂炉(ひいては高速増殖炉)の理屈や意味については今後の楽しみとして、事故に繋がった「ナトリウム」を取り上げたいと思います。
ナトリウムは普遍的に存在する物質で、地殻における存在比はクラーク数2.63で上位(6位)にあります。
私たちの生活にも深く関わっている成分で、とりあえず「塩(塩化ナトリウム)」が挙がってきますが、この他にもナトリウム塩は多数存在します。ナトリウム(正しくはナトリウムイオン)が多すぎるのは体によくありませんが、欠乏は生命の危機を招く大事なものでもあります。
さて、「もんじゅ」のナトリウムは、ここに挙げたナトリウム塩とは趣を異にします。
元素は、それのみで存在する場合もありますが(気体の水素、液体の水銀、固体の炭素や銅など)、電子をやりとりしたイオンの状態をとることが多くなります。この他、化合物としても存在しますが、電子をやりとりしていることを考えるなら元素のみ(この状態を「単体」といいます)ではなくイオンの一種と考えなければなりません。
この基準で考えるなら、身近なナトリウムは全てイオンに当たります。
ところが、「もんじゅ」のナトリウムは「単体」なのです。
ナトリウムの単体(すなわち元素)としての性質は、普段のイオンからは想像もできないものです。
ナトリウムは軽金属に当たります。通称「アルカリ金属」のひとつです。
元素状態が保たれていると、金属ということで電気も通します。この「元素状態が保たれていると」が曲者です。
金属状態のナトリウムは、石油中で保存されます。おかしなことをするものですが、これはやむを得ない理由があります。
水と空気に曝せないのです。
空気(正しくは酸素)と触れ合うと、激しく反応して酸化物を生じます。
4Na + O2 → 2Na2O (一般的な反応式)
言葉で「激しく」と書くと解りませんが、かなりの燃焼を伴います。
水と触れ合うと、爆発的に反応して水酸化ナトリウムを生成します。
2Na + 2H2O → 2NaOH + H2↑
この反応は気体生成を伴うこともあり、条件によって爆発的に進行します。冗談ではなく爆発させることも可能です。
また、生成物が危険でもあります。水酸化ナトリウムの高濃度溶液は、化学の知識がないと取り扱えません。水素は常に爆発の危険を伴います。
(詳しい情報はこちらをご覧になるといいと思います)
そろそろ賢明な諸氏は(化学の知識がなくとも)理解されていることと思いますが、ナトリウムが漏れるということは、湿った空気(つまり水と酸素が豊富な雰囲気)に曝されるということです。下が鉄板であろうとなかろうと、危険なものには変わりありません。
無論、考えもなしにナトリウムが使用されているわけではなく、液体ナトリウムという熱担体の優位性が大きいことは忘れてはいけません。
ここからは、偉い人たちの判断になります。
何かを犠牲にしなくてはいけません。
お金をかけて防止策を充実するか。
熱効率に目を瞑るか。
プルトニウムをこの用途に使うのを諦めるか。
ナトリウムの話からプルトニウムへいくのはなんか違うので詳しいことは言いませんが、プルトニウム239(原発でできるもの)は核エネルギーはよいのですが、他の用途には使えそうもないものです(核兵器という答えはなしで・・・)。
そこで出てきたのが混合燃料にする方法で、普通の燃料棒に混ぜてしまいます。これは普通の原発で使用できます。
さてここで、未来のことも考えます。未来のエネルギーって何でしょうか?
夢物語の反物質から、技術は今でも存在する太陽電池まで、候補は多数にあります。
一般生活のレベル以外のことを考えると(それなら太陽電池でも将来実用に耐えるでしょう)、エネルギー密度の大きいエネルギーは限られます。前回の話ではないですが、宇宙を見据えるなら尚更です。
そうなると、原子核のエネルギーを用いるものが優勢になります。核分裂、核融合、反粒子による対消滅の順にエネルギーは増大します。科学は少しずつ、そうした技術を目指しています。
けれども、これらを地上でやってもいいのでしょうか?
私の恩師は、「原発はないに越したことはない。しかしながら現在はやむを得ず使っている」と言いました。これが専門家の意見だと考えていいでしょう。逆に言えば「止めるに値する状況にもない」と受け取れます。
私個人は、火力で代替するくらいならば、この方がまだましかと思います。この意味で、代替エネルギーの開発は急務なのだと感じます。
ちょっと逸れますが、自然利用の代替エネルギーは、本当にいいのでしょうか。
大きなエネルギーを例えば風力から取り出すようになったら、大気循環のエネルギーを無視できないほども奪ってしまわないのだろうかと思えます。現在、人類は膨大なエネルギーを使っているのですから。万一1%も奪ってしまったら、大変なことになるかも知れません。
これは太陽電池でも同様かと思います。
戻りますが、私は高速増殖炉の技術というものが「未来にありそうなことをいち早く体現しようとしたもの」と捉えています。
未来にあるべき技術力でならば、今の日本の原発程度(或いはそれ以上)に安全であるでしょう。
恐らくそのときには、金属ナトリウムは使われないか、地上ではない空間での稼動が行われるかすると考えられます。
危険な金属ナトリウムの使用は、未来の技術を現在に手繰り寄せようとした結果、理論上可能であることが実現できると信じて行われたのでしょう。
科学に興味があるものは、先へ進むことを評価してしまいます。
でも、裏付けがないとしたら・・・それは単なる実験です。「もんじゅ」は実験ですが、命に関わることをするならば、裏付けぐらいのものは必要だったのではないかと思います。
追記
私は、「もんじゅ」は立ち直らないと思います。形を変えて進むことはあるでしょうし、その可能性は少なくないです。
でも、高速増殖よりも安全で、見劣りしないエネルギー供給法が発見できるなら、未来に(一般人が使用するエネルギーとしての)原子力は不要となるのですから。
(散々けなしてしまいましたが、どこかで原子力のいいところも触れたいです)
2003/2/2:スペースシャトルの事故について
最初は「天文年鑑」という書物から話題を取り出すつもりでしたが、大事件が起こっていますので、急遽そちらを少し触れようかと思います。
それはコロンビアの空中分解です。
詳しいプロセスなどは現在わかっていませんし、これについてきちんとした言及ができる人はいないでしょう。
しかし、この時点でも予想はできるほどの情報があります。
私的に解釈すると、打ち上げ時の損傷が大き過ぎたため、再突入に耐えられなかったということに思えます。
打ち上げてしまった以上、降りてこなくてはならないわけで、修復が可能であったかは判断しかねるとして、その選択は現実には取れなかったでしょう。
では、どこで防止するべきだったかと言えば、打ち上げ時の損傷を防止する対策を十分にとることで防止するのが正しい思考法でしょう。
一般の品質管理などでも、原因を追究してそれを消し去るのは、是正処置の基礎です。
ISO規格の要求に沿って言うなら、今回は予想された(関係者は以前から承知している問題点だった)氷の付着という打ち上げ時の現象に対して、予防処置が執られていないことがこの事故を招いているということでしょう。
個人的には「防げる」事故と思われてなりません。
宇宙開発はわくわくする分野です。
多くの人の夢や希望を乗せるだけのものを秘めています。
これから人類が本気で宇宙に出ようと考えるなら、これに万倍する犠牲は避けられないように思えます。
それで、人類はどうするでしょうか・・・。
私は、それでも進むと思います。
でも、それなら・・・人類はそうした挑戦者たるにふさわしい世界にいなくてはならないでしょう。
今の当事者はアメリカです。
でもこの国は、他にしなければならない余計なこと(国家の維持には直接関係のないこと・・・戦争など)を抱えています。
挑戦者たるには、精神的に(もちろん、かつ技術的に)もっと成熟した社会を持たなければならないと、事故後の報道を見ると感じます。
個人的なことを言いますと、宇宙を舞台にしたSFなどはとても面白がって読めるのですが、今の人類にこうした作品群の世界を生きるのはまだ早いと思わずにはいられません。
私が生きている間(一応50年後くらいまで)に、人類は宇宙をその手にすることができるでしょうか?
これはなかなか、答えが出ない命題ではないかと思うのです。
参考用リンク:NASA日本語公式サイト