架空の庭 [2003.01.19]
先週の3連休中に、●●県N島に出かけた時のことである。ちなみにN島へ行ったのは、そこにある水族館のためである。
その帰り道は異様に渋滞していた。多分、N島大橋が無料になったのと、夏休みに入ったのと、3連休の中日だったのとが重なったせいだろう。
おかげで、普段は通りすぎてしまうため、見ることもないN島の海岸付近を、ゆっくりと眺めることができた。といっても、他の北陸の海岸となんら変わることはないんだけど。
ところで、わたしには以前から不思議なことがあった。北陸の海岸線、例えば福井の越前海岸沿いの道路脇には、突然やしの木が生えているのである。やしの木だけでなく、なんとなくトロピカルな植物が突然生えているわけである。
そのやしの木は、わざわざ、やしの木を植えた、という感じではなくてその辺の雑木に埋もれて、いきなりやしの木が生えてるわけである。その様子はなんだかとても変だよなあと前から思ってたわけである。
が、最近読んだ本の中に、これの理由が書いてあったのだ。こういったやしの木などの南国の植物は、黒潮(だっけ??)に乗って流れ着いたものであるらしい。そうやって漂着したものが生えていたのだ。
だから、絶対、昔から南国とこの辺て、文化交流があると思うんだけど。神話が似ていたりするからね。まーそんな話はおいといて。
そんなわけで、海岸線を見ていたら、本で読んだこの話を思い出したので、運転していたわが夫にそれを話したのである。
すると、である。夫は、突然真顔で
♪「なーもーしーらーーぬーー」
と歌い出したのだ。わたしは非常に驚いて、彼がどうかしてしまったのじゃないかとちょっと恐怖を感じてしまったくらいだ。
この歌は、小学校か中学校の音楽の教科書に載っていた「椰子の実」という唱歌らしい。歌の内容は、今の話のように海流に乗って日本の海岸に流れ着いた椰子の実の歌であるらしい。それで、彼はこの歌を思いついたというわけだ。でも、わたしは全然知らなかったのだ。
これをお読みの方でご存知の方っています?っていっても、夫はわたし以外の人間はみな知ってるわい、と主張している。
で、この話を、会社で友人のC子にしたわけである。
すると、である。流れ着いたやしの実の話をした途端、彼女までが、神妙な顔で
♪「なーもーしーらーーぬーー」
と歌い出したのだ。
このときのわたしの恐怖。まるで、のっぺらぼうの話をした途端、「こんな顔かい?」と今まで安心しきっていた相手がのっぺらぼうになってしまったかのような恐怖。これこそ、日常の恐怖かもしれない。
ところが、である。そんなわたしの恐怖をよそに、その場に居合わせた人間はみなその歌を知っていた。C子は2題目まで知っていた。
ああああどーせ、わたしは一般常識に欠けていますとも。ああそうですとも。
[1998.07.22 Yoshimoto]
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