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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

酔いたい酒、酔えない酒

相変わらずというか、飲み屋をやってそろそろ30年になろうとしているが、いつまでたっても喋るのは苦手ときている。 当然話題にすぐつまる。 そんな時どうするかというと、くだらない話題だとは思いつつ、よく酒豪の話になる。

まず、平均的?に酒を飲める事としよう。 そしてそれなりの健康体であったとすると、明らかに体重の多い人の方が飲めるらしい。 それも体重に比例するどころか、僕は体重50キロそこそこだが、倍の100キロの人は二倍ではなく、何故か三倍になるらしい。 体重プラス血液の量に関係するらしい。
僕でもどうかするとウィスキーのボトル一本は飲めたりするが、僕の一本と100キロの人の三本と同じ、という事になる。 肝機能など含めその人がかなり飲める体質だったとすると、当然もっと本数は増えることになる。

実際プロレスラーや、相撲取りなど考えられない酒豪がいる。 ちょっと何がしで聞いた話でも、レスラーの藤波選手など日本酒四升くらいはかるく飲むらしいし、むかしアンドレザ・ジャイアントなどほんの昼食時でも水代わりにビールの大瓶20本くらいはしょっちゅうとの事。 いつかビール会社を訪ねたときなど、大ジョッキ100杯飲んだというからすごい。
これでビックリしてはいけない。 サモア出身の南海龍という相撲取りがいたが、大瓶150杯飲んでケロッとしているというから、まあ凄まじい話である。

しかし、今度はごく普通というより僕と同じ50キロそこそこ、ようするに小柄なある40代の男の話である。
ある日の8時にその男はやってきた。 「今日は酔いたい」と言いながら、バーボンのオンザロックをグイグイ飲りだした。 二時間経ち、三時間経ち、やがて閉店時間になる頃にはボトルも二本目に入っている。
しかしまだ飲み足りない様子、続きを僕の部屋で飲むことになった。 朝六時ごろになり「もう寝よう」と言ったのだが「もう少し飲る」という。 しょうがないので隣の部屋で先に寝る事にした、いつまでもカラカラと氷がグラスに当たる音がしているのを聞きながら、僕は寝た。
ふと目が覚めると昼の12時を回ろうとしている。 彼はやっぱりカラカラとやっている。 さすがにビックリした顔で見ると「まだ飲ってるよ」とひと言。 それに酔った様子もない。 とりあえずコーヒーをいれようか?というと、
 「チェイサー代わりにコーヒーも悪くねえなあ」と言いつつオンザロック片手にコーヒーを飲んでいる。
夕方になり、そのまま店に付いてくる。
結局その日の10時まで飲み続け「ちょっと酔ってきた、帰って寝るわ」と言って出て行った・・・。 昨日の8時から時間にして26時間、ボトル三本ちかくと他にビールを何本か飲んでいたが、それより一番驚いたのは、最後まで酔ったようには見えなかったことだ。 もともとだらしなく酔うタイプではないが。

酒は時間でも量でもないが、僕も今までいろいろな酒を飲んできたような気がする。 酔いたい酒、また酔えない酒、それと何と言っても冷めるのがコワイ時(酒)がある。
その時の彼は、冷めるのがコワイ時だったのかもしれない。 (それにしてもアッパレな男だ)

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。