さて今回はのん兵衛の話しである。
“のん兵衛”と言う響きにあまり良い意味は感じ取れない。とりあえず手元の辞書を引いてみる。
<飲兵衛>=大酒飲み、飲んだくれ、呑み助、とまあ何ともつめたい答えである。
それと飲兵衛にしろ、呑み助にしろ男の名前のようである。
とすると女性の飲兵衛は居ないのか、となるとそんなことはない当然いる。
だからせめて<呑み助>の次くらい<飲ん娘>(ノンコ)も入れて欲しいもんである(なかなか可愛い響きだと思うが)。
それに今の時代、ウィスキー、ブランデーをストレートやオン・ザ・ロックでグイグイ飲る若い女性はいくらでもいる。
ある日、ある“飲ん娘”はやって来た。
髪の長い年の頃なら27〜8だろうか。黒のライダー・スーツにライダー・ブーツ。わざとらしいくらい決まっている。
「ヘ〜ッ、なかなかいい店じゃない」と言いながらカウンターに掛けると「喉が渇いたから先にビールを頂こうかな・・・」
僕はよく冷えた小瓶をジョッキに注いで差し出すとゴクーッ、ゴクーッと、しかし一気に流し込む・・・。
そして飲み終えたジョッキをカウンターにトンと置くと「フー美味しいー」とひと言。
久しぶりに見ていて気持ちのいい飲み方だ。すると今度は。
「バーボン、ボトルで頂戴」僕は大きめの氷を一個入れ、ダブルで差し出す。
「マスターも付き合って」と、なんとも嬉しい言葉で始まった訳だが、こちらも飲み方がさりげなく決まっている。
別に急ぐわけでもなく、チビチビでもない。一杯を3回くらいでクイ、クイと空ける。
僕は内心(へーかっこよく飲む子もいるもんだなぁ・・・)と思いつつ僕の方はチビチビと飲る。
それから彼女との会話で分かった事なのだが、横浜からバイクで単独ツーリングでの途中との事。
そして九州まで行くらしい。それと横浜へ帰ったら結婚が決まっているのだと言う。
仕事はと言うと雑誌社の編集をやっているらしい。これまたわざとらしいくらい決まっている。
話しながらも相変らず同じペースでクイッ、クイッと飲っている。また酔うふうでもない。やがてボトルも少なくなってきた。
すると「マスター、残りこれに詰めてくれない」と言ってウエスト・バックからポケットビンをトンとカウンターに置く。
三分の一くらい残っていただろう、僕は移し変えて差し出すと「今日はいい酒だったわ、今度きっと二人で来る」と言って、
来た時とほとんど変わらないしっかりした足取りで階段を降りていった。
僕は彼女のグラスを片付けながらフッと笑みがこぼれ「最後までよくもまあ、決めてくれたなあ」と、
呟きながら何となく嬉しくなった。
やっぱり酒は“呑み助”であれ“飲ん娘”であれ粋に、スマートに飲りたいものである。
僕ものん兵衛を自称しているが、粋にスマートに飲っているか、と問われると、う〜ん、いまだ修行中である。