相変らずヒマな店である。
ビルの2階にある。とは言っても2階は僕の店だけの小さなビルである。
カウンター12席だけの小さな店だが、その12席もめったに埋まる事はない。
ちょうど今頃(9月〜10月)は冷房も暖房もいらない、ある平和な日の出来事である。
夕方店に入り、一通りの準備をすませる。入り口のドアを開けっ放しておくと、一回から階段を通して良い風が入ってくる。
そこへ一人の男がやってきた。
「相変らずこの店はヒマじゃのう・・・」
と、言いつついつものイスにかける。そして一時間経ち、二時間経ち、三時間もすると男二人で話することもなくなる。
どちらからともなく
「閑古鳥(カンコ鳥)が泣きそうじゃのう・・・」
「んん、いま泣き声が聞こえたような気がしたなあ〜んん・・・」
と、二人で顔を見るでもなく
「んん、ふむふむ」
とやっていると、いきなり開けてあったドアから、バサバサバサーッとほんとにカンコ鳥がやって来た。
「なんの冗談じゃこりゃあ〜」
と言いつつ捕まえようという事になり、それから二人でドタンバタンとやりだしたが、
せまい店だが、カウンターが邪魔してなかなか捕まらない。
「そっちそっち、イヤーあっちあっち、イヤこっち来た」
とまあ、やっている処へまた一人の男が、
「何やっとんじゃ、お前らー・・」
「何でもいいから捕まえてくれー」
今度は三人で、ドタンバタン・ガシャー・キキー・グエーッ・アイッタター・フンガー・オオットットー、誰かが
「アミないかー」
「そんな物バーにあるかー」
いくらヒマでも店にセミ取りに来ているわけじゃない。
しょうがないのでそれぞれ手短な物を手に持つ。
一人はたまたま帽子をかぶっていた。もう一人は店にあった女物の忘れ傘。ぼくは
キッチン用のザルを持った。それからまた
「そっちそっち、バカーお前のほうじゃー、ちがうちがうお前じゃ〜、カサカサ、ほれボウシ、ザル〜」
とまあ、大の男が3人せまい店の中でドタンバタンとやった結果・・・。
いとも簡単に逃げられてしまった。入り口のドアを閉め忘れていたのである・・・・・。
あたりを見回すと、3人が大奮闘した様子がありありと見える。
グラスは割れ、灰は飛び散り、花瓶は割れ、壁掛けは落ちている。掃除する元気もない・・・。
「喉が渇いた、ビール」
「ところでカンコー鳥ってどんな鳥だ・・・?」
「しらねえなあ『カッコーの巣の上で』という映画なら観たことがあるなぁー」
「ガンドーの刺身なら昨日食べたでー」
「オレの兄貴が戦時中の生まれで名前を勝彦といってなあ、カンコーカンコーと呼ばれていたなー」
とまあ、実にバカバカしいくだらない事を言っている。
とりあえず近くを犀川がある事と、茶色っぽい色からカワガラスだろう、という事で落ち着いた。そして、
「飲み屋にはアミも置いとかなくちゃいけねえなあー」
「んん、そうだそうだ、特にこういうヒマな店には絶対必要だ・・・・・ん、ん」