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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

カワガラス、ん?

相変らずヒマな店である。 ビルの2階にある。とは言っても2階は僕の店だけの小さなビルである。 カウンター12席だけの小さな店だが、その12席もめったに埋まる事はない。

ちょうど今頃(9月〜10月)は冷房も暖房もいらない、ある平和な日の出来事である。 夕方店に入り、一通りの準備をすませる。入り口のドアを開けっ放しておくと、一回から階段を通して良い風が入ってくる。 そこへ一人の男がやってきた。
 「相変らずこの店はヒマじゃのう・・・」
と、言いつついつものイスにかける。そして一時間経ち、二時間経ち、三時間もすると男二人で話することもなくなる。 どちらからともなく
 「閑古鳥(カンコ鳥)が泣きそうじゃのう・・・」
 「んん、いま泣き声が聞こえたような気がしたなあ〜んん・・・」
と、二人で顔を見るでもなく
「んん、ふむふむ」
とやっていると、いきなり開けてあったドアから、バサバサバサーッとほんとにカンコ鳥がやって来た。
 「なんの冗談じゃこりゃあ〜」
と言いつつ捕まえようという事になり、それから二人でドタンバタンとやりだしたが、 せまい店だが、カウンターが邪魔してなかなか捕まらない。
 「そっちそっち、イヤーあっちあっち、イヤこっち来た」
とまあ、やっている処へまた一人の男が、
 「何やっとんじゃ、お前らー・・」
 「何でもいいから捕まえてくれー」
今度は三人で、ドタンバタン・ガシャー・キキー・グエーッ・アイッタター・フンガー・オオットットー、誰かが
「アミないかー」
「そんな物バーにあるかー」
いくらヒマでも店にセミ取りに来ているわけじゃない。 しょうがないのでそれぞれ手短な物を手に持つ。

一人はたまたま帽子をかぶっていた。もう一人は店にあった女物の忘れ傘。ぼくは キッチン用のザルを持った。それからまた
 「そっちそっち、バカーお前のほうじゃー、ちがうちがうお前じゃ〜、カサカサ、ほれボウシ、ザル〜」
とまあ、大の男が3人せまい店の中でドタンバタンとやった結果・・・。 いとも簡単に逃げられてしまった。入り口のドアを閉め忘れていたのである・・・・・。

あたりを見回すと、3人が大奮闘した様子がありありと見える。 グラスは割れ、灰は飛び散り、花瓶は割れ、壁掛けは落ちている。掃除する元気もない・・・。
 「喉が渇いた、ビール」
 「ところでカンコー鳥ってどんな鳥だ・・・?」
 「しらねえなあ『カッコーの巣の上で』という映画なら観たことがあるなぁー」
 「ガンドーの刺身なら昨日食べたでー」
 「オレの兄貴が戦時中の生まれで名前を勝彦といってなあ、カンコーカンコーと呼ばれていたなー」
とまあ、実にバカバカしいくだらない事を言っている。

とりあえず近くを犀川がある事と、茶色っぽい色からカワガラスだろう、という事で落ち着いた。そして、
 「飲み屋にはアミも置いとかなくちゃいけねえなあー」
 「んん、そうだそうだ、特にこういうヒマな店には絶対必要だ・・・・・ん、ん」

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。