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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

粋な飲兵衛

酒場をそこそこ営っていると色々な人、またまた色々な飲み方がある。
一般的には「まずはビール」が一番多いような気がする。
また各種宴会場には飲酒運転に厳しくなったせいか、ノンアルコールビールも用意されているようである。
僕などノンアルコールビールなど飲むのだったらジュースかコーラの方がよっぽど美味いのでは? と思ったりするが、ちょいと見方を変えると、元々飲める人が何らかの事情で車で宴席に出向いた場合、まあ、とりあえずビールの「つもり」で・・・となるのであろう。
それはそれでよい。

僕ももちろん何回か飲んだ事はあるが、そうそう何杯も飲めるものではない。
やっぱり酒は飲む程にアルコールが身体に回り、その反応により、ますます美味しくなり、一杯のつもりが二杯、二杯のつもりが三杯・・・となるのである。
ところがまったく下戸の人がいたとすると、これはこれで重宝するのではないか、とふと思った。
まず見た目はビールだし、7〜8人ものグループだったとして、始めにカンパーイに始まり、途中で個人的にも乾杯もあるだろうし、最後もやっぱりカンパーイとなる。
そのたびに飲めない人は色のついたオレンジジュースではちょっと心淋しいのでは、と思う。
しかしである。
ノンアルコールでも見た目はりっぱなビールである。
何回もの乾杯でも自信を持ってカンパーイ、とその人はなるのではないかと思う。
とするとノンアルコールビール自身もひそかに「俺はビールだ」と誇れるというものである。

我が店は洋酒バーを謳(うた)っているせいか、まずはビール、という人は少ない。
その少ないお客がいる。
その彼は「まずは冷たいビールだな」で始まる。
小瓶であるが並々と入るグラスに注いで出すと、美味いといいながらほぼ三口で飲む。
次はジンいこうか、ギムレットだな。
ライムの効いた切れのいいショート・カクテルである。
そんなに大きなグラスではない、二口ぐらいで飲む。
しばらくして、「う〜ん、もう一回美味いビールいこか」といって二杯目のビールを出す。
やっぱり三口で飲む。
そして、ここらでブランデーにしよか・・・サイドカーというまたショート・カクテルである。
やっぱり美味いなー、と言いながらクイッと飲る。
しばらく世間話になり、すると、 「またそろそろビールかな」・・・三杯目を差し出す。
やっぱり三口でグラスは空になる。
さて次は・・・
「最後はやっぱりシングルモルトだろう・・・」僕はアラン島の美酒、その名も「アランモルト」をストレートで差し出すと、 今度はゆっくり口に運び、「やっぱり酒には勝てんな〜よいよい」とひとり納得している。
彼にとっては酒との、彼なりに勝ち負けがありそうである。
深いようでもあるが・・・ちょっと僕には分からない。
彼はホントに美味そうに飲み干すと言った・・・。
「さあ、やっぱり〆はビールだろう。うん」と四杯目のビールとなった。
相変わらず綺麗に三口でグラスを空にする。
それなりのアルコールの量となっているが、そんなに酔ったようにも見えない。
お勘定となり「またな」といって、来た時と同じように階段を降りてゆく。
相変わらずあっぱれで、粋な飲兵衛だ。

ところでビールを注文する時の彼のフレーズであるが、「まずは冷たいビールだな」に始まり二杯目「う〜ん、もう一回美味いビールいこか」となり 「またそろそろビールかな」で三杯目となり、極めつけ「さあ、やっぱり〆はビールやろ、うん」とまあ、本人は特に意識もしていないのだろうが、 一本一本に言葉が変わっているところが面白い。

色々な酒を飲むが、実のところ彼の場合、ビールを美味しく「飲むために」他の酒を飲んでいるのかもしれない。
粋なビール好きもいるものだ。
酔い良い。

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。