Vol.1 1分150円GPS 2004/01/06 | |
|
|
その業界の方々の間では、かなり話題になっているGPSですが
従来の観測方法のメリットを最大限に生かす事を考えると、同時に複数台の所有が必須条件でした。
「アンテナ+受信機」一台あたりの投資額は決して安いとは言えず、付け加えて
使用頻度を考慮すると、現実的な投資ではありませんでした。
そこで私が目につけたのは日本GPSソリューションズ社(以下NGS社)の NetSurv2000です。実は、数年前から仮想基準点方式(以下VRS方式)の試用が 太平洋側でスタートしていた事実は把握していたので、やっと全国に広まったか・・との感がありました。 (注:VRS=Virtual Reference Station とはTrimble社が提唱した方式・・だったはずです。) さて、実際のシステムを簡単に紹介しておきましょう。左の画像の通り 上から・・・「アンテナ」「ポール」、左下の黒い物体が「受信機」「コントローラー(PDA)」です。 一見しただけではVRS方式の特徴は見られません。一人で観測準備を整えるところで、 そんなに苦労を要することがないことは容易に判断できると思います。強いて言えば、山間部での ポール+三脚の運搬が苦労するところでしょうか・・。左の画像からは判断できませんが、 実は「携帯電話」がカバンからブラ下がっています。この携帯電話で何をしているのか? これについては後に記述することにします。 私は天気に恵まれた5日(日)、これらの機器を揃えて市内某所の四等三角点へ向かいました。 国土地理院のHPより入手した、点の記を片手に車を走らせること20分。 なんとかたどり着いた場所が左の画像の地点です。 **三角点(観測位置)を南南東方向から撮影したものです。** |
|
無事にたどり着いたところで、アンテナを設置しなければなりません。
見覚えのある十字印にポールの先端を合わせて、設置・・・アンテナの北方マークをおおよその北へ合わせて
ケーブル接続、電源の投入、ものの5分程度で観測準備が整いました。
コントローラー(以下PDA)の起動後、アンテナ高、観測番号の入力、観測点名の入力、そして観測開始です。
PDAの画面には「接続しますか?」の文字。そうです、お気付きの方も居られるとは思いますが
NGS社のデータサーバーに接続しているのです。
この通信では、アンテナで受信した衛星電波情報をサーバーへ送信します。 サーバーはその受信情報と全国各地に設置された電子基準点の情報とを比較し、 今回の観測に必要なパラメーター(電離層遅延状況など)を決定し初期化完了としているようです。 もう少し付け加えると、このサーバーにおいてすべての解析をこなしてしまうため、受信機側では 解析ソフトが不要となります。 既存のGPS観測においては、座標既知の地点に基準局を設置し 未知点となる観測点との同時観測が必要で、その点間距離を10km以下としなければならなかったのですが、 このVRS方式ではその基準局となる地点をアンテナの近傍に仮想点(VRS)として定めてしまうため、 基準局の設置が一切不要となります。VRS方式のメリットの一つがココにあるのです! つまり従来のGPS観測に必要だった基準局の設置の苦労が、 携帯電話とその回線確保だけで済むと言うことなのです。 さて、仮想基準点の数値が決定され、初期化が終わったようです。 初期化と言う作業自体にはなんら苦労を必要とせず、所要時間も5分程度のものでした。 その間がヒマだったので、マルチパス等の悪影響要素がないかどうか キョロキョロと周囲を見回して確認していたのですが、傍らから見ると 非常に怪しい人に見えていたことでしょう。何せ、しゃがみこんで 得体の知れない黒い物体をゴソゴソしながら時折周囲を見渡す・・ですからね。(笑) この初期化完了段階でアンテナ設置位置(今の場合は三角点)の座標がほぼ算出されたものとなり、 PDAの操作画面上に表示される座標値のフラつきは数ミリ程度、予想より安定したものでした。 GPS衛星からのデータ取得(以下エポック)の間隔は、 RTK(リアルタイムキネマティック)観測方法と同様の毎秒取得10エポック(つまり10秒)なので、 PDAに表示される座標値は毎秒更新されています。 あとは、観測開始のボタンをクリックし、10エポック取得すれば観測終了です。 もちろん点検を兼ねて、再初期化し二度目の観測も試みた後に携帯電話の接続を遮断しました。 通信時間はおおよそ10分程度だったでしょうか。非常にあっけなく数値が得られたので 拍子抜けの感もありますが、これが現実です。観測結果を後に記述しますので是非ご覧下さい。 ・・おっと、大事なことを忘れていました。このトピックスのタイトル「1分150円」とは この通信解析料の事です。私一人20分程の現場作業と、解析料+電話料の経費約2,000円で GPS観測の成果が得られると言う現実・・・非常に不安です。・・私の収入が。(苦笑) |
|
以上のようにして郊外の三角点を合計3箇所、
全体の配置がほぼ正三角形(水平辺長約10km程度)となるように観測しました。
時間的には移動時間の方がはるかに多く、年明け早々の買い物渋滞に巻き込まれながら
約3時間を費やしました。道中が寂しいので、二日酔い+寝不足の友人に同乗してもらい、話し相手をお願いしました。
そのお陰で、GPSについての説明に私が勉強になりました。(S田様、その節はありがとうございました。)
さて・・脱線しましたが、簡単に既知数値から観測値を差し引いた差を発表します。 一箇所目(東点)X座標 -0.009 Y座標 -0.067 標高 -0.110 二箇所目(北点)X座標 -0.020 Y座標 -0.025 標高 -0.090 三箇所目(西点)X座標 -0.011 Y座標 +0.021 標高 -0.140 単位は全てメートルで、VRSに関してそれぞれの観測は独立したものです。 ちなみに各観測に際して、衛星数は6個、P-DOP(衛星配置に関する精度低下率)は2.4±0.2程度でした。 いかがでしょうか?必要にして十分な精度が確保されていると感じるか否かは個人差があると思いますが、 それぞれの点間距離が9km〜11kmもあることを考慮すると素晴らしい結果だと私は思います。 GPS衛星の配置図や天空図などを記録できれば良かったのですが、私本人がまだ操作に不慣れなので 今回はご勘弁ください。 各観測の併合差を少し煮詰めると、不思議なことに符号がマイナス傾向となっています。 全体的に地殻が動いているのでは?などと、勝手な妄想に陥ってしまいますので注意が必要です。(笑) これについては恐らく、この観測日時点での基準となる電子基準点のデータと、国土地理院から提供された 成果の観測基準との基準差ではないかと考えられます。 又、アンテナを中心に考えた観測可能な衛星の立体的な配置において、地球自身が居座っているために 標高に関しては精度が低いようです。簡単に言えば、地球の裏側にある衛星電波が 受信できない、と言うことですね。・・そもそも、今回の三角点のすべてが 平成13年11月のGPS観測によるものとなっていましたので、 どちらの標高値が正しいのかも不明です。 一方、既知点間距離と観測値からの算出距離については、おおよその見当がすでについているようですが、 単純に既知距離から観測距離(計算値)を差し引いた「距離差」で整理しましたので参考までに見てみましょう。 東点と北点 -0.020 北点と西点 -0.039 西点と東点 -0.088 (全て水平距離) これも符号がマイナス傾向となっていますが、これは先の差の数値から簡単に推測できます。 東点についての観測値が既知座標より東側に位置(Y座標の差がマイナス)した事と、 西点についての観測値が既知座標より西側に位置(Y座標の差がプラス)した事がここに表れているようです。 これだけ他の点間距離より距離差が大きく生じた原因は、北点の衛星配置と極端に異なっていたのではなかろうか・・ 又は、観測毎に異なるVRS初期化をしていることが影響しているのでは・・などとも思っています。 もう少し吟味してみても良いかと思うのですが、現在のところ検証データが他にないので何ともいえません。 それにしても、これだけの数値にまで絞り込める事実はすばらしいと思います。 さらに絞り込む方法もあるのですが、それぞれの受信個所での同時観測と 解析結果の網平均計算を行わなければならないため、必要となる労力は倍増してしまいます。 しかし当然のごとく、今回のように広範囲の測量を要する場合は、それなりの予算額が出ているはずですので、 さらにもう1セットのアンテナ+受信機に追加投資をして、・・解析ソフトも欲しいですね・・。(笑) 話は逸れましたが、いかがでしょうか。満足いただけましたでしょうか? |
|
最後に今回のGPS観測作業のまとめになりますが、
私の率直な感想を記述します。
先ず第一に「安い」と言うことです。 1分150円の情報料+解析料に対して、一観測あたり10分だったとしても 1,500円。通話料と機器のメンテナンス等の保守費用を考慮しても、 私一人の人件費を超えることはほとんどないでしょう。強いて言えば、 天空障害のない平野部の広範囲に、数十箇所にも及ぶ観測地点を設ける場合なら別でしょうか。 次に「簡単だ」と言うことです。測量業務には必ず誤差が付きまとわり、 どんなに高精度な測量器(TS:トータルステーション等)を用いたところで 誤差累積のアリ地獄からは逃れられません。ところがGPS測量方法は、 観測毎に位置の解析を行っているため誤差累積がありません。 観測地点でいきなり結果を得ることができ、あっけなく世界測地系(測地成果2000)の座標値が出ます。 これには正直に言って、“やられた・・”と言う気持ちでたまりません。今まで、山頂の三角点へ行って 器械を据えて・・と、汗水流した苦労は何だったんでしょう?と言う気持ちになるでしょう。 『時代はここまで進歩しています。』と、言い聞かされた気がしました。 おおよそ期待通りか、それ以上の成果を得ることが出来たので満足していますが、 疑問の残るポイントや悪天候時の対処法など、まだまだ勉強不足な面も多々あります。 もちろん、NGS社の方々も我々エンドユーザーからのクレームや、その他改良案にドキドキされていることと思います。 個人的には、携帯電話からのネットアクセスを充実させて、現地時間での衛星飛来情報閲覧サービスなどが受けられれば かなり有効だと思いました。 |
|
|
copyright(C)2002 miura_surv@web All Right Reserved.