川柳ノコギリはアホかと罵るためにある 弟を虫、妹をケラと呼び 500円三人分の昼食代 「殺してやる!」「こっくりさんとかそういうので?」 湯加減を知り手加減を知らぬ弟 高所恐怖症が衛星写真を見 ソーセージ中年と食うべきではない 普段着を見捨てお前の皮算用 偽札を作る元手の札もなし クレッシェンドの意味が分からず身を投げる デクレッシェンドだとちょっと長すぎる 通り魔に刺された感じでうずくまる パチンコの音か乳児の泣く声か 「そこまでにしてもらおうか」「きっ貴様は!」 頑張っているとすぐ死んだりするね 笹も短冊も願いも用意され 記名投票式短冊にしてはどうか 短冊を一メートルに伸ばしてみる 「これは?」「おれの」「この短冊は?」「おれのおれの」 短冊の重みで笹が折れました 釣竿にレシート一枚干した庭 お星様きらりきらりずぶりぱりん 天の川 子は離婚した妻の側 誰を待っているのか曇り空の上 七夕の翌日燃えるゴミは増え やぶれかぶれでも破れぬ服売ります マンホール太れし君を誘い出す 折り紙を折りても髪は切らぬなり チェコスロバキアって漢字で書ける? 颯爽とクリーニングのタグを付け 水たまり避けて転んで血だまりに はらたいらにからだも全部あげました 口きつく縛ってみても中身なし 手を広げ踊れ踊れと言ってみる 今下りた道も思えば上り坂 死ぬのが怖くてもそうそう死ねません 指の骨折ったぐらいじゃ死ねません 受験戦争落ちた滑った死ねません 最後の一葉ごと木も倒れて死ねません ハンガーで首を吊っても死ねません はねられて着地が決まって死ねません ばたばたばた 死ねません 逆上がり空腹感もこのように 「席はない」と言うからじぶんで準備をし 墓石を乗せ来た船は皆沈み 霧雨に靴が揃えて置いてあり 理解しがたい鐘を打ち鳴らす夜 やらねばならぬとは神の声でなく プラモデル世代がバラバラにする死体 開けるまい開けるまいと箱膨れ上がり 裏腹に死にたいと言えば殺される 丑三つ時かれの手を蝕むものは 不細工の夢見る王子は人さらい 不自然ですかぼくらの行方知れず 遠足が急遽パン工場見学に 白うさぎピョンピョンボチャン鍋ぐつり それぐらい、なんだ!と家飛び出したきり コードレスマウスと蝉を取り違え ついにとぐろを巻いた寝相の悪さ にわか雨見せた余裕で風邪をひき にわか雨傘安上がり雨上がり 季語と傘を捨ててわたしが折れる梅雨 靴の裏今まで跳ねていた蛙 専用の袋がついている乳児 「仔猫ちゃん」と呼んだら機動隊を呼ばれ 掃除機の固い部分を振るう嫁 土踏まず親知らず有り満たされず 洗濯を干してあるのがパパの部屋 みのさんのように切りたい長電話 死の中で永遠のベロアを脱げよ 濡れた飾り窓うるわしの手よさらば 梢 かろうじて夜を受けとめ匂う いもしない子のため自殺する夫婦 味噌汁から味噌をすくえば汁なのか よく来たね水道水でも飲みたまえ マザーというだけが能でなく歯ぎしり スケジュール帳をお求めですか?何のために? 宵闇の雲に歩いていく孤独 鬱病の演技がうまくなる病気 誰が湿らせたかご臨終ごっこ 待て落ち着けそいつはほんとに美女なのか 話しだすとつとつとつとつヘリが来る あ と思うより他のない傷があり 月を打つ音悲しくて水面立つ 「今日は宇宙ご飯よ」と墨をかける母 誰も買わないため息を吐き虚ろ 月へ行けわたしに一万円をくれ 「東京」という歌の題名に飽き 説教を時給七百円で聞く あと三発殴らせてくれと土下座する 窃盗で錦を飾る地方記事 核家族財布とボタンを握る妻 クレジットの明細ドットコムの文字 妄想で坊主の頭に尻を置き その上を誰が切っても似る桜 ポケットを叩くとたわしが増えていく ふたを開けぞっとしているのに閉めず 弄してもやはり身に付くのは詭弁 変わりゆく季節の中に沈む石 給料の三ヶ月分の豆腐だよ 夕暮れに向かって流れて行くボール 会社から主人の首がクール便で カーテンを着て朝と夜の境目に 盆地に横たわる死体を川と呼ぶ 橋脚のように足首まで浸かる 掘り返された土の向こうで匂う川 草群れて沈む売物件の文字 白骨の軽さ 生前100キロ超 領域を広げてコンクリートの夏 邦人の安否と今日のカレーの具 寝て起きて食ってふしだらここに在り 謎めいた後ろ姿の影を踏む 障子斬り払い、修繕費を払い バーベルとロープを買っていった客 望みが知れてわたしを笑う塊だ 単色のモザイク移動する妊婦 あんた、おれのダッチワイフに似てるなあ 絶望するために残してある余力 飛ぶ鳥を落としたけれど雛だった 自由って素敵ねずるずるずると引き 棒のようなもので頭のようなものを きっと死にゆく人の目に非が映り 食べ方を教えてくれれば霞でも マジシャンのような手付きで爪楊枝 濡れている 傘も記憶も閉じている 腹ペコリ頭ペコリの職探し ラブホテルの明かりがありがたい程の田舎 不快です受話器のコードがまっすぐです つぶるつもりで目を潰し 真夜中に電柱は輪郭を変え 切り果てたハサミが切らなかった縁 両成敗第三者の一人勝ち 中国は嫌いチャイナドレスは好き ハンモック動かぬ証拠に縛りつけ 脇道を断つ遮断機が降りてくる コーヒーはまずいが近所の喫茶店 墓場まで秘密と病は持ってゆけ お察しします、超能力者じゃないけれど 幻聴のボリュームそっと上げておく 眠る脇腹に我慢の筋の痕 東京が揺れてニヤリの地方民 台風の目にも瞼の等高線 表紙と裏表紙の間に三号室 見知らぬ十字路に花束置いて去る 押しボタンとりあえず全部押していく いつ大器晩成するのと聞くなかれ 自生する花を愛でているうなじ 二枚舌ようやくここまで減りました よしや重ねても見下げるほどの愛 死亡事故現場を生きたまま通り ずっと手を振るからずっと曲がれない ゆめまぼろし生きる限りは見せてやる 頭痛持ち右手に血まみれのハンマー 天命のように定時が来るものかよ パトラッシュとあとなんか横で死んでた奴 よく通る声だと思ったら言い訳 鉄板の上で焼け死んでいる拳 コンビニの上の方にあるくらやみ 流氷の上でラクダが死んでいる 贅沢は言わぬが泥団子はちょっと 除草剤散布で必要悪を知り トップブリーダー推奨のインセンティブ 国じゃなく人がいがみ合う中で死ぬ 老いぼれが震える今に脱皮する 「カルテです」「今日の料理…?」「レシピでした」 非力なわたしに神が与えた磁力 辞書を引けと言ったら市中引き回し 今日も幻滅をほふった眉の谷 屋上の扇子 殿様の自殺かも 幼稚園ガキがわめき散らシックパーク 天井と天井どちらかが鏡 シューコーパー喋るならガスマスクを取れ 死期悟り今宵の花を生けてくる バスケットボールのゴールに坊主が上手に リモコンを何度か妻に向けて押す 咳払い通じずトローチ噛み潰す 梅雨空にしっとり濡れたボーイズラブ 人の手も借りたいほどにねこまみれ 手をいっぱい広げてつかの間を抱き込む 借金取りみたいに戻ってくる吐き気 細胞のひしめきの中を駈けてゆく やりきれぬ思いを半券にしてゴトゴト 大人の階段のぼって飛び降りるだけ 屍に悉く空恭しく 夏の水道唾液のぬるさにて 設計図に紛れて一本になる 真夏日に晴れの予報を見て死んだ 弁当と残像を家に置いてきた 返り血を浴びて太陽燃えている 目覚めるとアメリカ人が立っていた 後ろ手のまま近付いてくる男の肩ばかり 地平!地平!ただ呆然と濡れ百姓 関節を夢見るテーブルの足 とっさに辞書の中へ隠した五十音 きみの号泣を録音したテープ 夏に散る葉のあれど死の容易くなし 掘っても掘っても温もりなどは出でず シャッターを降ろした側に住んでいる 銀の腹仰いだ空は青かった 無言の旅支度そして無言の帰宅 名も知らぬ色にみとれて赤青黄色の季節は過ぎ 暫時集合しミサイルの的になる 「このソースは?」「溶けた鉄でございます」 女三人黙っている部屋で正座 針の穴糸を黙らせている 鉛筆の苦みで書いている手紙 空席と呼ばれた椅子の骨は細り 泥を吐く魚の機嫌を練っている 吸い口を窘めている指先の滴り 歯ブラシで歯でないものを磨かされ 閉じたくてその両端を切っている 雷が焼き付いて死後二十年 冷たい足音が途絶え風鈴割れている コップの縁の上を汽車が回る水を入れてくれ 折り畳むどんどん重たくなってゆく 無情にも戻れと書いてある看板 海沸騰してラーメンが出来上がる 紙袋そのふくらみも捨ててあり 一振りと数えその一振りに倒れ 海溝からはみ出る指も透けて 媚びた季節に枯らされひとり 新しくバス停作り待っている めくりすぎたカレンダーの一枚に誕生日 「デザートは、別腹!」「下腹部ってやつ?」 強盗と自殺は形から入る トランジスタラジオ突如鳴り響き聖堂転覆 エプロンの結び目乱れ保育園 そういえば虫取り網に捕まった おてんば娘は頬に皺より傷残せ 半分は食べてしまったから斜面 水、豆腐九十九個、ぼく一個 押しすぎた念が上から降ってきた 少年積んで少女積んで土嚢積んでいる 懐から取り出せば刀もよいもの 印鑑を忘れ事務員を押淫 姦淫をかえし印鑑とせよ おんな 墓である清く正しく墓である 残暑を燃やしてただそれっきりの明かり 不眠症に教室の机が恋しい 黒豹を踏んだ夜中の一人部屋 スイッチが無いから今日は泣けません 累々と絶句並べた石二段 まだぼくが子供だった頃の化身 キリトリセン谷折りだったとは知らず ストライプを纏うが溶け込む自然のなく 花を編む指を合わせて目を暗み この雨の擬音をなんとして眠る 孤立する旗の根元に植木鉢 今生の別れをしらばっくれている わたしやかれを呼び捨てる広場 書簡がゴトリと落ちて持ち去られるギロチン台 地軸おんなは叫びながらに抜き 練炭がにおい吊金具が軋む 裏表がなくてしのび笑い 整列完了ぼくらマドモアゼルのしもべ 崖に靴下の自ずから白く 鈴虫を噛んでめまいを飼い慣らす 飲みほせば樹海もさわやかな緑 雷と平手ピシャリと少年と死 電話ボックス倒れて移民谷を渡り 天袋摘出麻酔が効いている和室は夜を迎え 耐えている袖を巻きひと間の闇を ダイイング・メッセージと生き恥を残し 地上地下選べずして果てる身なれど 覆面をしてる以外は普通の子 本当にあるのか中国福建省 文集をなくしたから犯罪起こす おめでとう!それでどっちが新郎なの? こんなにもコップがあるのに糸はない 粉末のネビュラ飲む硯の墨よ 透明のタクシー止まったかもしれぬ 柱に晴らせぬ憂さの傷あと 二の足を踏んで凡百われ凡百 封筒封書に印刷された蝶潰された蝶 めくらうなぎを放す しめしめ 煙突を立てた容疑で逮捕され 草の魚解いて帰されぬ焦土が見えて 暗い悦び奪うことなかれ生きた贄を捧ぐ ジャングルジムの中で養父がお帰りなさい もてあます孤独へ常套句を投げる 屋根上でバイオリンを弾く→射殺 蚊帳の外でもう一枚の蚊帳を張る サンダルとかかとのような距離感で ノート白いまぶたを書いて閉じ忘れ 吸うだけで吐けない煙草に手が伸びる 回転する地球儀に影を落とす雲 婆よ婆よ 魔法陣の中から這い出よ 緑色電球切らしてサボテンは白かった はら薬正直者も飲んでいる 雲は雲でありたくて月を飲む 狐の術さらっと流して生肉を放る ドアノブから体温のようなものを感じ 革命を吸った麦畑が青い くさび型に脱いだ靴を揃える古代人 出土した石版に自分の名前 したたかに生きるわたしの名は「した子」 弱火という言葉が出てくる御伽噺 両の手を合わせ帳尻あう 奇数 繭になるクリーム状の果樹園で ズタズタになるまで切った電話が元のまま 一縷の望みを引けば飴玉 防音の果てに出口のない豆腐 なぶりごろしの血を渡し切れぬ大陸分裂 今昔の虫喰い文字になる風景 コンパスに月の半径錆びている 背もたれがのしかかってくる晩年 跳ね上がったプルタブの下で泡を吐く 夕闇をねじ切る小窓が複数 日陰であるかのごとく冗長伸びよ 尾を引いて聖獣は噂をばらまく 水たまりに浮かぶ薄い空を引き剥がす 濡れた足がぴたりぴたりと頬を打つ 狼煙上がる背中を去っていく背中 佇んで三千一の峰となり 鉄球を持って底なし沼を渡る 花瓶に茎を挿してこころ病む 病院で病が白くなっていく 触手とりわけ長くひとのふり難しく 森に棲む古老のビーズコレクション 平面になりたくて三面鏡に向かう 手のひらの水滴「ここには海があった」 猶予が切れて皿を贖う 地すべりと共におんなが泣きながら 気球浮くこのまま貧しくてもいい 壁面崩落岩の狼削り出で月照る 呼吸一秒生きる間もなし畢竟、畢竟 ふつつかな声 ギィッと上げて嫁が舞う 堆く積まれた枕眠りは空に消え 患いを貫いている杭抜けず 上流へ上流へビーカーの中へ 文字を伏せて紙を伏せて生地を返して二時間焼く 電柱が三対並んでおれば道 年輪と名に苛まれ自我を成し ひとがたの穴が空いている粘土 十兵衛が遠隔操作で悪を斬る 傍らを遺物とせし使者失踪し 窓ガラス割れて夜空が放たれる 密室で九九を唱えて坊主笑む 世界を透かすシャーレの蓋に手が届かない 段ボールに詰めてあるものすべてゼリー 主と主でないものを区別させ給え、主よ 人呼んで紅、職業人殺し 道が壁、マンションが床になり歩いて帰宅 ふるさとにクレーン車が来たというしらせ 十二時には金庫に戻る親兄弟 土呼びの歌うたえるオカリナの傷深く 背徳の胸を借りに行く長い 片道 水路に澱粉を撒く農夫の最後の仕事 不倒 ハンマーを入れしナップザックの重さかな 不惑 階段が照らされて昇れるが寿命 夕日に手を差し込んではずれくじを引く お嬢様! じいや! で既に五十年 □□□□の棒待ちかねて破綻する (指腹に空翳り、蟻は息を吐く) 蟻は息を吐く指腹の影 提灯を焼いてまだ 森は深い 夜は深い 明日が白紙ならシュレッダーを持ってこい 隔たりがあるこんな窓ガラスでも 偶然の旅客は鏡の曇りに現れ 家を掴む っ不思議にも引き摺れるものと知り もはや破片になったものをまだ踏み続ける つかまり立ちの子へプラチナの石を投げる ──────────────────ばり っと破いたかみのかたちにくされるなわ ゆう、のう、とお、ぼし、きのうのふていけい 松葉杖乱打せよ生き残るのはひとり 息継ぎもせずに深まっていく秋 交差点を面としてようやく我々立体す そなたが引きこもりなら我は押しこもる 「北じゃない」努力という長い道の果て この橋 わたる 下流で仏になる一休 べからず ポスターで探されているわたしの過去 仙人飛び降りて寒い峰が残る ひび走らせる母のところまで 三角が降る等辺外でささらされる 暮れる無人駅に人でなしがぽつり この街はどこからはじまる杭を打つ 死氷着く 絶海 とはこのこと 一切れはワゴンに乗せられ て どこかへ 海鼠腸 しはらいうのみになりすますよる ボトルの口がみんなこちらを向く酒屋 パーキングエリアふたつでパパと交換 可燃性のマッチ売りがうろうろする小路 歯列重ねる──────暗黙 暗黒残酷閉ざす口 積み木塗る息青いよ空だよ くるった幼馴染みが出ていった鳥籠が揺れている ぬかるんだグラウンド いるいる死者どもが 走る コの字型で始点と終点は だけが 吐けば水回せば水つかまれば水 羽切られ足元取るに足らず コンコン、トントン 「入ってます」カオス満ち満ちて 牙を剥くあの子、夕べは笑っていたね 闇の沸点見上げる沈殿物の朝 勢いよく回転する車 輪を砂漠で横にする バターに国境線を引いて溶けゆく日もあれば 柱もぐ天井係不要論 ご自由にどうぞ もしもあなたが自由なら 蛇の道の槍は蛇殺しの槍だ 初代モーテル鉄でできており性交の金属音 念には念を入れる 念力の無駄遣い ホッチキスが とまらない伝説の初版 噛み合わずま 補導歴のある少年の乳歯が見たい たばこ屋の角を曲がって煙になる 人間を消耗して影黒くなる 発した言葉を 泣きながら ピンで押し パンくずを辿って墓場に迷い込み 砂時計から溢れた砂で棒が倒せない たべられない もの シリカゲル 日食 漆喰 齢を重ねて重ねて暮れざる闇 夜の白い虫 氷投げた悲劇を根城にして庭へ コノハガエル踏み分けて ザワ 防音室 ザワ 服が吊ってある 確かに人がいる 走っても走ってもクラゲの影の中 哄笑見やれば燃える火囲むひと 砂上 むげにほふれる 砂下 むこんのいちげき そのバルコニー 別れを告げたおんなが 踊る場所 空に人にさしても青い傘でまたひとり 幼児と老人 網を喰い破り交わらんとす 故郷は 遠く ギクリギクリと崩 れてゆけば 晴れの日のねっとりとした青絵の具 仮定した夜に消えていく探偵 想起せよ わが だれ なにか 呼吸 くるしい 結託の痣 打てば響く罪人の声 フックに吊ってあるかもしれぬから警戒せよ では左へ 孤光にほろびとルビを振りひとくくりのさびしさ 四季がしきしき 泣いたりきしきし軋んだり 黒人間白人間 足して割って灰 焼いて灰 寸分の狂いなく余は存分に狂い しべのない花一本の葬儀かな 透明を乱獲せし箱のふくらみ 乱読節来たるに苦悩の段を踏む いえうらでこっそり瞳孔を開く 死ぬと言ったからには死ねよと言いに来た 昼には乾く靴下を取りに来たサンタの赤さ 遠い昔の話をした後 遠い昔に足が向く爺 没落君主の名をそらんじて 空を跳ぶ 三畳百間の空 全員で目隠しをするスイカ割り 崖を指す少年、彼には足がない 至る所に弓の名手の放った矢があり葱畑 味も匂いも、鉄にそっくりだ! さっそくうめよう 長者長く なり ひそめ ふる 雨の長い 黒いうさぎをコンセントに見立てて差し込む 助からぬ者からふてぶてしくなる甲板 眉間に雪降る不可解の雪 黒という漢字れんがを八個九個と増やしおり アオミドれる信号 機を逃して 赤色偏光夕の色 アスファルトガーデン 草木も虫も人間も 転がり を その位置から眺める格助詞 落ちて 行くの とりわけ死ねばよろしいナイフでとりわけ悲しい ────────────内臓 浮遊草ほおばり持ち上がる さるぐつ履いてランラン わ たし はひ とり 夢遊病患者の席が あるくるま 冥王星を振り上げたままの電柱電線 はっけよいの他はなんともよろしくなし 水なりに進んで行けば轍と気付き ぬくい手を裏返し裏返し持っていき 一画のひらがな全部繋げたような川 べり 舞い上がる葉のごとく蛾のひとひら 石蹴って歩く子らを蹴って歩く 手垢付いた鉄杭庭に刺し我が家 檻とし テレポーテーションその実、裁断と仮縫い 止まった救急車から一味がぞろり出る 畑に泥を撒くどこかしこの豊作の噂 鎌ひかる海そして なにもみえなくなった この窓すべてディスプレイであり核シェルター 街道狭くなるが最後まで行ってみたい 母の嫌いなダージリンティーを母の死後 折り紙で壁を折る少年の黙り方 飛んでいく鳥の胴ゆびあとがはっきり見えて たなうえ 座布団があり 夜昼となく目がひらき 暗いカフェテラスエージェントだけが明滅し カレンダーの紅 金でなかった金魚の命日 酒樽に囲まれて酒樽と化す 重機重ねてちちはは よく似たうなりごえ あぶりだし 代筆者の姿 じわじわ 濡れた鉄持つ静かな失笑途中下車 警告音鳴らし息はく 女らしい気迫 ずった跡がぬめる なんていやらしい螺旋弁でもあなたが好き アラブの傭兵を某国に送り込むための白紙 よろしくってよ マダムは結露で顔を拭き 我が名足りねば増やす我が名で沈没する欄 胃を巡る世界のこと 食道語で記してあり 血の通わない 岩刳り貫いて 血族になる 青空へ逆さまにする無人街 燃焼しつつはびこる蔓草 王の冠 貨車渡る峡谷─── 暮れて鴉が迸る 夕餉いただく無言の拍手に囲まれて うたう狢おどる狢のかえる洞穴 死を免れる五枚綴りの回数券 驚いて破った一枚の朝を張り替える 望みの部屋で望みの行為をしてなぜ揺れる 作家没後五十年 使われていず あ ぺん 陣痛はじまる 陣はどこだとあの男 火柱立つ日などあつめし火曜日来たる あつらえた窓のかたちにくらしゆがむ 沼深く手取り足取り擬人法 蓄音機 祖国 海深くの祖国 かきなり 九階から九階へ飛び移る我が義理の母 山脈みたいな髪 束にし中腹に棄てる 雪の日は来る日も来る日も塩を撒き ポンプ日陰になりまっすぐな家の影 くさむらのバッタ 息絶えたものをけしかける かすがいの子等に除光液を塗る 崖先の虚空に在り優柔の庵 「地表待つより早いな」クラゲども爆ぜよ 木棺を引きずるバギーが疾走する砂漠 雪原をゆっくりはらむ戦艦のねむり 受粉し影を落とし花は売られ少女残る スリップ痕が廃村に伸びて門開く 土器を埋めつつ考える胎内のこと 都市計画 黒いビニールテープが人です 輪廻転生 蛆の姫になる籤を引く 怯えて待つ夜の八百 一部ダミー 秘境に行ったひとりの男を 行間に消す 折れたハンガー地に刺し生きた霊魂注ぐ まっすぐな等高線に横断されるクフ王 塔また塔の市街地 見下ろす最後の塔 黙るべく一行二行は軒に干す かえり道つくる 管理地つめたい天井にして 家々から光・液体など漏れて 隣家の息子に泥を塗る ゆっくりゆっくり 焼き払った脳裏にまばらなる敵兵 唾もてあまし侍女は地階で病をうつす 双六終えて 六面体のタンスを掴む この先は人力飛行機でアジトへ なんのために伸びた爪を見る金曜日のひとりごと 足細るる昼間の孤独 街灯の孤独 空き家の塀 越えて張る枝 大樹のものか 正面の硝子に蛸の子がおいしくなる 凍土の浸食急かす欠落児の笑い ───このひろい野原いっぱい 迷って 迷宮を吐瀉する 不眠日記積む 一殺二殺と数えおり 火中より無事を知らせる紙ヒコーキ 和室密閉する蓋の形に思い至り 刺し違え踏み違えひとれるひとり 鉄階段に毎夜気配を送るこいびと 樹上のさわぎ 幹に抱かれた痕があり 夢は夢 さあ現実だ閉じたドアだ ゴムはじける音凍てつく夜を凍てつかせ 吐き足りぬ息を満たすものが闇であれば やましき皮膚の如き呼吸を清流のそばで 皇族の格調高きノイローゼ 喪心の蝶 震えるなんらかの覚悟 沈没船の帆を修繕して再び沈める くらやみでわたしを脅す棚の音節 下民愚民のガ行が愛らしくて撫でる 紙に書いた詩ならばなるほどよく燃える オルゴール聴く 胸にコトリとサブマシンガン 食べ飽きた野草を鮮やかに塗る 「──!」 切り株となりし木にデュラハンがやってくる 勝手口を開けば押し入れ 語感の終止点 雨降れば影もしじまも踏み足りず 家よく見ればいりくんでおり孤立する 大小の文字組み合わせて手紙つくる 技師の脊椎 ギシギシのぼり 操縦席へ 方舟を燃やしてこのへん夕方にする 牙城の牙を嵌め込み黙秘権行使 告ぐなれば死せども死せども目くらまし 植木鉢脱ぎ捨て長い廊下を走る 結婚式 かき に しかばねの結婚 ならすギター 引き連れた眠気のかたちに壁のえぐれる ブザー押す 向こうで二分を計られる 夜店のことうふふ貴婦人金魚を捕らえる 透明を証明したる天使学 少女の腕のような段を踏み車道に躍り出る 生かしておけぬ 生け垣のそばに 生活があり 鳥にだって飛びたい理由があるわねと聞こえる かれ海を傾けるいなくなる にわとりのとさかをつかむ空まっさお 背後で戸が閉じハハハ ハハハと怪人の声 電柱立つよりかからずあかるために 蜘蛛が飛ぶてっぺんからてっぺんまで 三つのことば千の手法にて一軒の小屋 黒い婿に手を取られ階段のぼる 無神の岩場でルーズなポーズをとる坊主 解を求めよこんな小さい紙の上で 夢からさめた石を拾ってきて捨てる 続々と黒い雲来て去るばかり 岩肌に頬をすりよせ誰も死んでない 眼鏡? 壊れてわるいひとしか見えない 彼はそう言いつつ後ろ手にドアを 埋めた日はなんでもかでも猫に見え 漠然と水の近くで肥ゆる枯れ枝 踏み転がされ地球のかたちになった騎手 豚を逃がした方へ太陽も流れていった 善人に物的証拠で目隠しする コップの底まで飲み干し 通って帰る 似顔絵を崩す慎重すぎる手つき 産まれるなと 右吟の父 左吟の母 ついの墓碑に 明け渡される 草原のみどり 柵を越えんとする乙女の尻持ちて待つ 雲間に鉄 太陽でなく 寝ているあいだに 橋をつくられ 立ちあがれぬ川 水星を背に土を嗅ぎ上目遣い 硝子の流儀を知らぬ硝子から火を通す 非情なる隠し部屋からやっと見る 逃げるときに脱げた靴が焦げているとか つねにほころびたくて 一式綺麗な箱へ うっかりと景色を踏んで消え失せる 鳴く鳥遠く 楽園の広さ思い知る 鳥瞰図めくらぐるりととびまつり アポストロフィー綴じ込む彼の名を、急げ うわずった声まなびやの真実を話す 苦い骨に顔しかめるべき名を聞くばかり 古墳からひとを見くだすのがお好き ボールペン立つ夜の柱として次々と 翁の衣をかぶった土砂崩れが町へ モンゴル空撮そのままそらにかえらねば ホテル街では誰もが銅像になりうる 通夜のあと場違いなるムー大陸浮上 未明のバザール 異邦人は われひとり 処女念力をふるいつご機嫌いかがと問う 道端で水を想像して泳ぐ ふと覗いた小屋に大量の磁石 高所の窓に装う光が燃え上がる 食むを嫌う瓦礫の下木の実の散乱 しくしくいたむように降るべき雨も画鋲も 投身 海にもらった錆を返すため 鬱蒼と老人ホームの中の老人 龍を呼び余った力で飯を炊く 秋をくべる 昨日は書物 はぐらかす今日一日うすぐらい白夜 顔半分を 手でかくし くられる 日暮れかな わが師はずかし がりつわがゆび 噛んでふるえる からむ脱脂綿振り払う月下の茶畑で 軒下の呪詛 皇帝見事に刺し違えたり 墓を蹴って運ぶかつての友よ海は好きか みずうみをみずでみたすしまめをみひらくため 火を囲むたったひとりの影なお動く 海を挟んでケニアに巨大草殖える 人里をはなれしこころに橋を吊る トンボ群れて一枚の刃になる トイレに窓を設けて見るかなしき皇居 ビルを待つその交点をAとして べっこう飴をたたいて渡る子らのせいで 夜行なにがし夜をすいすいすすむから 雑多なる手足ここそこ糸を吐く 木組みの台で踊れし彼女の木工ロンド とびらはずす 時候の挨拶 叔母が来た 荷姿でグランドピアノを弾くピアニスト 少年の青 連れ込んで 鳥も塗る 病後すぐ「ここで降ろしてください」と よる、そらに浮く死んでも夜空 ひとことを発するまでの記憶喪失 忽然とその上がない電柱 まずふるえる木々 そして風が吹き始める 都恋しと女中の肩で鳴くうぐいす いま在るとは 水銀の反射 川をよごす 祈祷師くるうまで町を燃やすのをやめない 暮れし日曲がり落つ朽ちた森に 抜け道は女神の野営地に続く 壮絶なる間欠泉をみやれば母 故郷はなれてたがいに突起物と化す ときどきくるう時報どおりにわかれる姉妹 ポケットに遺品忍ばせ銀行へ すべて霧であった日の白い手を芝生から抜く 森の奥に山あり月あり着陸す 出口しか知らぬと支配人は言う 影の頭の部分からちょうど支流になる 入っておいで 水深百メートルの風呂に 金槌に前科を付けてお返しする 流れ星見て苔の天蓋被って泣く 老年来る蔓の格闘見届けて 不毛の大地に無数の画架の足見える ねむたき子にポスト・モダンのまぶたを乗せる 白々と孤児が向かう先すべて北 ほとばしるべく三度の飯を三度抜く 孫のしなやかな舌伝うアポロンの使者 シベリアは しべつく とも、しべつくるとも 河原にわずかに小石がたかったような跡 幹数万と地に刺し森、一匹の獣 坂道を転がる無人の台車・いかずち 訃報聞きゴトリとハープを取り落とす 雨のようにしなるから だが六歳のまま 虚空に走る濁流跳ね返す鏡 不在の社長宅 白紙に指示が浮かび出る この火花も滝と呼ぶべき砂漠の祭り 枕を撫でて奴め奴めと口走る さらば伏兵 この助走で明日 ロンドンに発つ 雲のすべり台 着地点の流氷うごく 女族長旧姓あらわに深い夜を焚く 目をひらく 次に野原をひらく 海だ 孔雀の死勤めだしては八万の民 眼前の土偶もろともかき消える 出土せねば欠土とし学者母の墓前へ 閉じられた形跡のない倉へ続く道 こうも容易く陽動されては虹の赤へ 段差為すべきこと為し静かな養老院 阻む樹液 交響楽団 森を出ず 段々畑降りてマントルにぶつかる 船つくる 足りない指は 川で補う 雨だよ白鳥ぼくらは傘をさすけれど 奥のドアに/引きずられて もし、幸せですか 枝伐りたくもなく隣から繁茂する 夜の謝辞待つ 哀れな独力 ふとる虚無僧 壁の涎の痕を消すとき敵として 遠い旅客機に前後左右の石灯籠 追い抜かれ 変容され 近所の子らで なくなる子ら 豆電球を竿に吊して黒海舐める 密談が好きではぐれた旅団は崖に 故事めくる めぐるとしたくて 濁点孕む 連の字はひとつ形見に重ねる船 夜はきっと何も見えなくなるハイウェイ 圧制下の岩低く孤島とすべく放水 交信途絶えし北海道 雪降り積もり 側溝掘れば掘りたくあることも難しく 偽名つかう葬儀の赤い服殊に照らし 告げにきた鴎も帰路も細らしめ 午後十一時今日がまるごと作り話 戸外に捨ててある木切れから音信通ず 広い庭 ひた走る 引きちぎれるまで 併走したい雲につかまれて 自転車倒れる 活動家から磁石蹴っても蹴っても出 単一の動機 生きた魚群が流れ込む 雪が降る窓にプリンターを向けて動かす 椅子をつくりそれから机、ひととする 暦の上でまったき等間隔となり 夕日がこぼす灰がたまって黒い砂丘 暗く美しくかつがれて睫毛など仰ぐ 驚くほどかつての山と歩く 青空教室曇天の日は石像はこぶ 泡ながせる水の傾き滑空台 手旗信号送ろうアルゼンチンの峰に 宮殿へ どくどく水を流しながら 白みはじめるこのへんの橋と影絵になる 剣を刺し金魚を吐かせてかえる手品師 木に留まりすべてまっさかさまにする 砂漠のぬしが栞としてのしかかる目覚め 謝肉祭見守る憂いの氷塊群 後ろ暗いと許されぬ林轟然と青く 堤防で祖父颯爽と小さじをかざす 陥落したラジオ局から炭のテーマ くるしい声うそうそとみなもはてるまで 割れた風船の如き光より庭の序章 作業徐々に一着の服のようなダンス 没後の手も拝借披露宴のモノトーン 銀の海辺は閉じた鋏で天地を分かつ ついに日傘を投げ捨てフェンスに激突す 蛙のみやこに花がげろりと咲いている 異郷の煙突あの煙は呼気 おや、雨だ 封鎖する一帯夥しく譜面 屋根こわす度夜空とぼくら拮抗し くるみ割り人形地上戦闘用 朝日背に飛ぶ鳥であった火の玉を食らう 長い長い道だ雪原ごと巨大に踏みしめ 客人断る座布団の上に無常の石 影でなく日時計伸びて引火する 空き家軋む こけしの一心拍として ぽつねんと立ち焦がれる鉄柱から音波 仮の姿で仮眠室から駆り出され 明かり消す 寝るために 廊下の 奥へ 寝姿から暮れ始める水、ぬるくて ダンス・ホールは無音 写本を左手に クレヨンで描いた景色が現場になる 器避けてより深い器に落ち込むサラダ 伸び悩み橋であれば崩落し 海のきわまで二の腕のまろき肉声発す 濡れたコンクリの流動あの三日月を追って 車輪投げる突如窓から窓へ白い朝 分母さえ人妻とみれば弧をえがき 同様に後頭部を叩いて渡る 縦に長い城が見え対岸であり草を刈る 拇印舐めるひとさしゆびはおかあさん 天井のゴム跡とがる 日に日に ねむるごとに 木陰から飛んで弾む砂地永遠にも似て 窓向こうは逆風 数年前まで暖炉 網を投げた工員孤独なる地下の密告 小さな書簡を抱えしわが眼に朝焼けの灯るまで 牛車が揺れるのは笑うからかもしれずして笑う おとめまぐわう おとめまぐるしき 盗聴器かくす 脳裏の火がメモ千々に裂き蛍に似て 水面の闇生きて水鳥乱反射 希望なくして暖色の夜空這うべき接点 暗中に花を書き残して滅ぶ 濡れたままこの世の緑をみんなみる 一片のモラルとしてクリオネを差し出す 遠視の老人抜刀しつつ遠ざかる 水面をえぐる空しい月夜が好きよ コルクボードに熱心に傷を、お客様 窓青空と密着しすぎてこの広い部屋の開かずの窓 思惑死んで人体を着て服を買いに出る 義理の父義理の杖立てば踏みにじる暗い義理 遠路はるばる 大看板の足も見えず 果てしなく長いコロニー封じて星形のサハギン 市庁舎ぬるい市長に靴下を履かせ 入眠の管に流線型のドーベルマン 電池はずす今日まで丘であった丘 白鳥も広げてみれば折り紙であり 川面で鉄塔覆う月あなたは生きて 伏せた鐘の中とかげ冬眠して人目を失う 大空がくたばっており雨後二年 アルファベット繰る節ない指 白い柵と道がいずれも田へ伸び青い田の麦わら帽子 もう座っているつもりの椅子に空の低い 鳥を見てそれから簾の落ちた音 複数の依頼人かくまう夜具尽きてなお 跳ねる蛙の下を通り慣れ目的もなく ストローとブーツは立てかけ雨の宿 夜でなく月とみれば欠け枯れ枝の吊革 ホッホと叔父は笑いギラリと爪出し毟る 一分を三十秒にして早死に つつとしてうらうらとしてひきこもる 灯台は角 もたげた岬から石化 焼けたお守りから随分と尖った針 スカーフの死に場所まれに男の首 崖に印字ありいずれ閉じるつもりだろう 腰に鉄の装飾巨大磁石迫る 偽造する季節五季としてねばつく住宅 呪詛おくる予報士を撃つ気象衛星 迂回した壁ともども白くなる 突起物の乾きを少女はよろめいて 空洞へううう、うううと夜会のサイレン 井戸から継ぎ目のない棒出できてこちら探る 死地抜けて八の段越えくいちがく たぎらせるものなくてスープでも煮る夜 洒落たドア踏む群集噴出するマーケット 手裏剣投げる畳に誓って一睡の友 馬が河を渡る河は海を欲する こっそりと告げた耳から狼煙上がる 展示物としてひと横たわるボンベイ ぶつかって消えて牛乳弾け飛ぶ 劣景と混じりあうわがゆびをモザイクの火が舐める 頭部路頭に突き出し謎たちどころに氷解し うすくふるえる窓へ映りこまんとおどけよ 牢だ鳥籠だ虫の息だそよ風だ死だ 子をつくり大人へんになり漢字のこと 空の荷台に見えかつ乗る山沈めるキャタピラ 雪が積もって土間で滑ってかがやく見本 誰もが夜を封じたい壷にルージュ塗る 外科手術台キンキンに冷えて謝礼金はずむ ほどけている人妻たらんとする蚯蚓 でたらめなスプリンクラーの風あそび はばたき失せる鳥聴衆を捨てて雨のように 屋根があり傘をさし居住区なくむしろ槍 声しそんじて迷う部隊に日が暮れだす 地に伏せて持ち上げられないようにする 風流を語るにはちと近いぞ空 幾層もの雲の下気も触れない 提灯を連ねる紐が犬臭い 冬の射程に傾く夜の地平消ゆ 闇夜に一枚の壁が見え透いていた 台からの見晴らしに落ちんとすれば無形 筒めいて筒脱いで筒残し去る 後ろへ矢印向く向こうから笑いながらくる 覆水を受ける胎盤秒針戻るまで 何も射抜かず矢がコツンと落ちいっそ焼いてくれ 庭園も痕となるほど柱の孤立 水槽満たす稚魚の上から嘆いてやる 共食いする火球を囲む下院議員 つぐないきれぬ朝の歌の題名が「別れ」 戸のみ立て過ぎし地震の夜を吸う 足跡から疲れだし溶ける半紙の翳り 握手して手袋奪い合う地べた コートの裾から朽ちた傘落とす不意に 茨わっと出る角を曲がりたくもなく 殴ってもいい妹澄んだ目をしている 低い門をくぐる病気です薬をください 日食に閃く虫の息、あそこだ 坂道を駆け上がって飛ぶかと思った トランシーバー帯電し跳ね回る兎を思わせる 喋るな喋るな風雪忍び寄る裏口 グルとゲルをふたつの箱に分けていく 仮の島を逃れたフリスビー戦ぐ 川から逃げると切っ先みたいでなお恐ろしく 複眼であれば太陽が殖やせる 熟女にグリスを塗った証のまるい指 空虚なる胃ごと転がる段に雪ふる 明るくほつれだす端切れ黄泉と見脚部見え 天地間の空室 粒子でチェックアウト らんたんを提げてまったくあかるい袖 分離帯へ病みかかる木の電飾であるく 花畑を下りた河口でみおくる油 霧は遠い相殺の現場しかと流れ 番兵無為無策の手振るう忘我の南国 投げた枕が東に沈むを見てうしなう 手を合わせ拝む寡婦から海苔の発行 ひかりのうしろの墓碑の林を雑居する 砥石より離れた市長とダムで触れ合う 明後日和・便りなど崖に一夜干し 飛び方をどこでおぼえて散り来る鋼 肉の親の他に動くものなし 道路に石を忘れて家で浮いている 花から嘴が出る昼の窓が閉まらない 水のない湖畔で夢を蝕む寝耳 雲間から里子見え徐々に一点の飛行機 こおりごを階下に据えて耐え忍ぶ つぶらな瞳一面の雪を幽に結ぶ 鎖錆びまつわる框に届く砲丸 ロッジへ北へ末裔の爪が裂きながら 類似する見知らぬ老いたひとを引く 陸橋果つ先の欄干結界で括る まだ夢を噛んでサーキットを徒歩で 板突然鏡になり通夜飲み込む 星座を煮る鍋の古さが目にしみる 丘陵で鉄分とりあうあの頃のぼくと カーブ艶やかなるを組体操がごみの山 疾き馬の毛並み越えかねる朝日 氷解けるごとにくっきり鞭の痕 実情を知り得る花びらからちぎる 見初めようのない淵の石雛火を啄む 粉薬のビン透明砂漠を蒸し返し 王の居場所の代わりに灰を掴まされ 側壁濡らす雨中世より傘を差し フラスコに傾く背筋のいわば滝 辻を駆る歴史渦ならひとりごち 外套を着た沼がバス停で待っていた 日差しの強い住居の下で焦げ付く糊 反吐を出してきた令嬢に帽子を返す 喪を撃った銃の硝煙サバンナで見る 頭巾雪より深く裏道で異形と化し 胴を抜かれるこころは田園にゆるす 修行が足りない血が足りないと仙人の牙 てくらがりの書に昼下がり足元の足 結うべき曇天のあおい目を見開く風 踏みにじるものらの上半身は取引 野原かと思えばボンネットで即死 嬲られて木のうろにその残りも吸われ 寒かろう鳩かろう鳥小屋の異人 ゴールがいつも口を開けている走りゆく 百歳が集う窓辺のバースデー 牧場を逃げた牛たち生殖に耽る 川全体から湯気立ち追っ手として撒かれ 山間部は雨ラジオから流れ部屋満たす 付箋ヶ原の風向き無記名逃げ場なし つづりうつむく母親ノギスにも使える 出荷まつ木片に刷毛を差し向ける 影吊る梁よじ登るついのかわきに 下へ向かうエスカレーターに遺骨乗せ 不透明なる神の逃げ足かつぐ鰭 せつせつとゆきしずくたるふゆのふにたる 山積んで西と東は寺院の床 背後の機関に距離を保たれ長い旅程 レインコートただ濡らす彫刻刀を内部に隠し 外界流る生コン良い岩盤だトンネル掘ろう 盆地せがむ子まっくろに清書して 果ての草原苦のきわ煌々と虫を鳴らす 部屋冷ますより小さくすべき段階来る 日中輪郭削ぎ続ける狐を衒う 血を見れば寝姿を血に見返され 舌伝う街呼吸許さず (ここから2006年) ゆくわれとは別に落ちる日あり出勤 帳から溶岩流れ出ぬくい顎 雨が茎を折る重たい雨 ハンカチを振る火を振る投ずる 読書めがけてきる白い舵熱波のごとく 地球あかるむまで空洞は実施され 雨さながら岸降り注ぎ手話けぶる 空を抜く大きな鞘を宙に残し 渡り廊下の壁はいつしか電波のポスター 値満ち月闇よりせり出す城とともに 金の輪を首に 滞空剤噛んで自著の海へ むしろ暗雲は意志を持て水筒捻るまで 陽にのけぞる野菜バスを廃しながら 合成写真の奥行き幾重に隠し戸現れ 歌えば四面楚歌の街が迫ってくるようだ すべて松林の亡霊亡家の壁に繁る 指伸びるあくまで体の一部として 家賃の上に成り立つ少年おもちゃにし 見知らぬマント誰だ父ではない 石油に濡れた手近所をかたっぱしからはたく 煙や土間の無色夢に見なおも横切り 夜の鍼灸院静かソケットに裾ねじ込み 上着乗せ終バスは湿原をゆく つづら開け時々郵便物を受け取る となりのテーブルの男搾乳して喘がせ 暗い密度の暖流押すインド洋らへんで 月とともに欠けていく桶水もまた ためらいながら穏やかな午後くる窓割って 大陸から蹴っ飛ばされて島となりわが五体 タワー応答せよ黒い藪一斉に蠢き 老いてなお蟻の巣を杖でくずし 波打ち際に壁刺せば狂う生態系 光る紙を雪に見立てて折り畳む 船底部浮かぶ海原を少年ら裸足で遊び 夕のトーンへ囚人として立ちのぼる ホースと乾パン以外に手だてのない密室 過疎にして重苦の憂いをたがえつつ 晴れ渡り骨を残して雲は消え むかしえに赤いシャベルをかついでいく 集合写真に男らの裸眼そろいぶむ 断面図みたいなドレス夜会は殺し合い 僧服の袖長く長く獲物ひた隠し パイプラインが貫く直下に児童の靴 指揮者指揮棒を折り叫びながら枝ばかりの森へ 鮫もまだるっこい鈴が海で鳴るとは思わず 美しいレンガ片飾る死角になる せり上がりくる太陽を踏み壊す 夢で詠む「向こうで」と「焼けた」ばかりの句 その公園では立ち枯れて百年の昔 霞む象 連れ去られていくのはわたし 焼けたトーストごと母の血を噛む 軒しつらえる無数のケーブル吐く氷塊へ 太字五本線農道脇で息する場所 焼けくる夕空あおいセロハン撒き散らし 人形は母の形見母は父の形見 雨でなく湯がしとしと降り昼がかわいそう いまだ寿命でない日にくるしく枯れる花 ぽっかり口を開けて港になる友人 背押されまるくなる幽体坂へふと暗みかかる 眠る草木の中で老婆と対峙する まるで作戦鉢の並びに孤独を愛し 竹それぞれに失踪したき節を持つ 掲示見た欠員部品化して動く 脊椎香る死後なら良し虎など来たれ 病み抜いて無人の部屋に片寄る毛布 倒れた出入り口から地下へと店主が招く 取っ手部分のくらがりで休む閑古鳥 分かれ道や殺害現場にあるスプリッター うそきみどり色の少女とべたべたする 長いエプロン引きずり河岸へいくバンシー 髄になるまで草の輪かけ続けてもらう 白紙一枚頭部に巻いて絵描き捜す 今宵をかざして星の影を見る 戸が? 咎なら知ってる 教えてあげる 後の祭りでも今の祭りでも彼は踊ってた 書生書架に憑くこの世のほかに本を知らず 水道管を洗う水にノート閉じ 痛苦の鳥が術者の元に帰ってくる 鉄琴のレールを転ぶ自動二輪 乾く軍勢遠からしめ燭台を跨ぐ 緑のあとはみどり児として佇みたまうか 幼芽杳として育つ樹海は母 不穏な沐浴美女の背に文字かすむ国へ 観客の涙を誘いつつ植樹 あきらめて針山へ川つくるべく 電球ばらまく飛行船ひっつかんで投函 正気のサボテン連ね山脈は夜を飲み込む 射手の腕何も射抜かず空を掴もうとした 飼育員来て紙皿焼いて噎せて帰る 雪降ると疼く身体に馬車が着く 割って水にする自我誰も飲まずわれも踏まず 氷河寄せる長い手長い日腕枕 ブーツのこびとくらい仕事を引き受ける 地にめり込む金属わたしだと思う けぶるうずたかき校舎の裾野で死をえがかれ 逃げ来てすぐチューバ吹かされ街は朝 電線が切れてのたうつのは少女 二重にぶれる川の仮想の流れを受け止める ある日木箱に住む地球の直径とは裏腹に 土星の輪を見続けるために婚約する オブラートに包んで飲む苦い星いつか 数千万の草ばかり残る 都市の端くれとして煉瓦を投げつけ一日疲れた腕 死にもの狂いのもの見ずもの忌み 入ってくる遠のいてゆく窓、窓しめて 実家の実写ねじたフィルムにあとあかり 倉庫に肩ばかり見え幻想抱かず 巫女ちぐはぐ特に袴の清き窒息 靴吊るも来たらず 母と義母似るたがいの鏡をもちあわせ 夕日充満するキッチンに赤身ひたす あかるい街に見えないこともないが缶詰 ビーチに白衣と試薬が干してあり無の境地 飛び移ったテラスも水くさい 錆び置かれてヘッドギアまぼろしく匂う 結露の窓を動く影ひとであってほしく 首から下入り口にして家の壁を這う 工場ふくらんでいる焼けて 悪しき農家に刈り入れた麦くらます粉塵 遮二無二笑う土曜の青に妹奪われ 柳かなしいのね私は石ただ濡れるだけ タンカー衝突新大陸に海流れ出 触角もあらわに泣く煙突の煙を去って 子供の頭が遊覧それ以外は徘徊 荷札ひらりと山頂越えてつづく風 同士討ちの良き日に白い絹を裂く 土積もる鹿が登ってきた踵 居宅まがいの遠望見透かす父の崩れ 塩の砂漠を塩の砂漠の方へ去る 壁一枚あたう仏教雪受けて くらい家とはしめじのようなものでちぎり 王の背に加湿器らしき立方体 日没を焼き付けて鮭の腹を裂く これがメッセージ草原にひとつスパナを残し 絶唱に撃たれ反り返る背骨星を包む 少なくとも自失の空へはお迎えできない 透明プラスチックの墓碑戦前より争い知らず 斧でめちゃめちゃにされた原型大通りに嵌め 溝ほどくに遠く押し迫る水音 嫌がる幼女に和名押し付ける棲息 来し見し青し首なしマネキンしたたる笑い 閉所で鳥のおもちゃを作ってそれも一部 眼鏡の傷が飛行機雲でなくて立ち止まる とまり木をはなれるまで真っ青なテント 黒目のまちびとばかり集う夜明けの物資搬入口 勧告したわれも罪滅ぼしの離島 絶滅して余る館内部の水傾けて流す あかるい老後を吊るし照らす花籠に果物突っ込み 白いコップにお茶がない手も届かない 折っても絞っても和紙翌日には繋がらず 草木生い茂るアハッゆうべのうわさだけで 芒描き足す緑しかない 手札の向こうで雨が降っている 泥に白髪混じる 工作室の万力ゆるめまだ胸が痛い 野は焼けてプリマの踊りのごとき錯覚 卵の昼に傾いて胎盤かつぐ 呼吸干す物干し越しに星戻し 炉は燃えているか歩兵は濡れているか 我が子は知恵の輪のくびれを黙って生きた 月縫い付けて草取れば頭が下がる 組み立てるまできっと無人の車椅子 風向きと分かり合うつま先崖までおびき出され 仮設のもの以外は道みな横たわり カンガルーはねとばしずれるオーストラリア 虫逃がした窓思いっきり閉めて砕く 罫線のみずうつろにひらかれたノート くらしと言うべき望まれぬくらしに死ぬべき 底をつく塗料の底なる夕景乾く 妊婦の水泳ふさぐ窓肌色で拭かず ふたりで砂を割るもうひとりいたはずだから 仏滅の肉屋について考えあう ぬりえわらしは手がつけられぬ手には鋏 錯乱している他人の足とも股つくる 歴史資料館まさに死が連続している 取調室から月の光漏れ月のない夜 眠れずニスを塗る乾くまで おじいさんと区別つかなくなり山林焼く 喪服小さくてその頃を思い出せず やがて皮膚になる水面のその後の動き 椰子毟られ犯人逃げ果てなき孤独 仮装続く失策黒き町内会 押しくる街の立体静かな公園が心臓部 大自然暗号に満ち満ちてまっすぐ歩けず 水晶玉割れ断面に千の乙女くる 父死なず夜空の特にくらき一点 日光に白いトレー差し出し 押し殺した声アリスのあさってに響く 宇宙の塵だが地球でも塵だ 安らかな血を飲むサボテン今口から飛び出し 春の筋肉抜きん出る村に無理が通る 対岸の踊り迫る 長い夜長い川 家系図の末端より先真紫 きりつきりつハムをほおばるこわいかれ 星が目となる交わりを好む収容者 荒涼の涼を感じている裸 石柱転ぶ遠い狐を見間違え 赤かりし頃思い出し燃えているマット 空気という一個の器物を口に含む あるひと手を挙げて進むにその手が垣根から見え 濁流たとえば一矢報いるためにひきい 雨拾うほらしずくだった 故国のかたちの氷持ち帰り転ぶ クルーら羽を濡らして飛ぶ酒場街の漆黒 火けばだつ回帰線過ぐ矢の如き夜 素直になれない手は懐に砂と川 木目うつろにのぞく傷口机化現象 宵の宮の君出奉りて黒光りす 月光梳く朱の格子釣り鐘を閉ざし 鳥おまえは飛べわたしのつらさを蹴って 雲垂れてくる胸は腫れて ぎょっとし続けまたも夜道またも夜道 ほかの誰宛てでもない手紙を路上で拾った すれ違う無名の小学生に名を取られ 夕日の裏常日頃くらく葬儀社儲かる 山の土一部固いもう踊られてしまった 手と指の距離もとよりなくてしっかり握れる パン籠に腕突っ込んで雨天知る さらにくらい森へ 別れて 鯨となり吼える悪意が溜まる海 鬼の子去るうつしよつのがおもいおもい 切り貼りの貼りの部分でくたばる依代 喉から手が出るほど近い火星 葉脈から抜いた腕どっちの青だ 別れ話の窓辺に砂州が現れ始めていた 鞠のような雲、雲のような都で落ち合う 鳥の骨遠ざかる東方はまだ雪という 切符に空いた穴を狐が横切り地べた 炎の前は火曜で下垂体であった 無闇なる月面街灯でも立てようか 沈黙のあと戦争のあといずれも荒野 ブルー・スクリーンの明かりで箱庭いつも朝 わたしはくらやみでおびえながら痣になる ペリカンの口からあふれる液でよろける ビルに垂直に建つビル特使の心臓ぶち抜く 乗りかかった舟に神も同席していた プレハブ小屋の受話器に腕くくられたぼく 片目の象が砂糖の城で戦歴踏む 吹き抜ける風で癒える傷をもつ砂漠の昼 みんなして花屋の骨を覗きにくる 礼をするべく立っている父実に十年 かたいあるじと手をつなぐ空の犬小屋まで 浅い海で輪ゴム飛ばしあう劣化して 青空を刺し上げる丘だ隠れようがない 愛した子に顔を傾けくすぶる藁 コップに入れて置いてある妹の色水 海辺倒れた少女のこめかみから日の出 なふたれんかがんでかぐみずから落として 策略に満ちた駆け引きその一歩目に灰があり 原子炉へ白く したたるほどに あかるい夜道だから二周した 僧みなあやしくフォークを使いおり日食 門を移すことばかり考え庭の伯爵 古い木みだりに平手で打つな新しくなるぞ 天井を叩く音がする、雪だ 胃からベルの音し感覚器たれば盲目 赤い石あり明らかに塗られ没後の河原 笛吹きの上体見失う滝壺 歩き方を知らぬ雛プレス機の鉄風で吹き飛ぶ 類の本刺せば流れてくる呪文 空の桶には寿司が入っていたと遺族会 二十以上の墓口内にかくし持つ 雨の聴覚にわたしが聴かれていた 花びら散るまでわたしは布団を引き裂くまで スーツ脱げばひし形 外に鶴が待っているネオン街死を賭して 行列に提灯持たせて焼き送る 青い小瓶を持ってきた鴉が入っていた ガレージで手をつなぐ目をつなぐひとり消える ぱ、と発音したときにはもうぱはいない 憎しみですか悲しみですかと雨いまさら 鬱蒼と茂るポシェットの中身と紐で繋がる 天秤を常に傾ける神だのみ 朝令嬢の笑顔見た窓から銃が引っ込む 信者といた部屋蒸し上がって襖ひらく 虫の色捨て切れず這い回る宿主 シャベルの音が上から近付いてくる 野山がない跨いでしまった ガスボンベも死もひとくくりのワイヤーでつるむ 麓で泣いて午後には珊瑚になったという ソファーとフリガナ残して音信不通になる われは旗膝の上には一兵卒 異様な幹伐られた枝と炎で繋がる 見よこれが空腹であると紙裂く法師 風が吹くたび歯ぎしりのこと砂のこと 無数の矢吹くときしまりなく笑う天使 くさはら淀ませるいちにちが暮れるまで 雲からはしごが降りてきたら言えそれまで仮眠 目覚め舌打ちする村人たち灯籠の指紋 山も鼻も青し、ではそこに寝ているのか ガールフレンドが空と同じ色で見えない 開き立つ本に厚紙乗せ椅子持ち寄り会議 雨樋を流れる母乳が溶ける肩 へらへらと散る花もあり去るべくは 角生えてくる砕く岩もない 構造美しきコンビーフの中は肉 縄持つ手を緩めれば箱が落ち手帳がこぼれる 薬品庫へ向かう少年の後をつける 松脂を嗅いでいる無防備な後ろ姿 見せぬ手の内に農夫が歩いて近付く重さ 橇に充満しよう杖持って くちびるで囁く竹林内部の神主 白い粉かぶった故郷に無傷の女体 霊が来るんだ次の次の駅緑地公園 溺れてるみたいでしょう追い風なんです 庫内の傘やがて遺跡の足を濡らす 父ら夜たがいの背骨をたてよこさせ どきどきする左心房は小鳥のケース 渇水地域に底面六角形のダンス 糸を渡る船があってもいい旅情 山びこついに下山して遺書したためる 光を背にし影をちぎってお手玉する 取っ手が付けば処刑道具のような言葉 炎からたちのぼる儚い首 空もういちど下から見ればもういちど狭い 息の根止まった僧侶にあちこちから黒い輪投げ 袖間違いなくひらひらし水母の水槽 模造刀でもお地蔵さまなら分かれてくれる 投げつけられたローブ仕方なく着る 洋上基地が発するサインウェーブで頭痛 吐くまいと血を飲んで目に渦宿す 頭を掴まれ続けて朝誰もいない寝室 耳を鳴らす 孤独がそうしたように 茶を淹れて飲んで踊って余命コトリ みどりと鳴くにはみどりを知らなさすぎて飛行 さえずる器具を指に取り付け空かきまぜる 二着の服を交互に着るふたりの間の静かな殺意 笑いが止まらない腹から透明な火花 伸びた髪が端から見える頭巾床に置かれ まるで羽虫の羽根のような春啄みにきた 戒めが出口に靴を積んでいる 空室あります裏口あります記憶ありません 折に触れて折る 骨折完治後も光る腕 朝焼けのようなわだかまり床に押し込める 建造物よく動くと思えば魂ある蜘蛛 牧草地に吹きつける男ときどき養う 怪人とバスを待つ肩が既に道具 風紋のある一点に香炉が置かれ 手の甲を湖底とおもう指に鈴 女装のやましさまだ床に残り土をかける バックパッカーの老人おおむかしへ歩いてゆく いずれかぶるための渓谷かく 虹を見た記憶は死後消されるらしい 化粧台に凭れ棚のパントマイム続けている 嫉妬で猛烈に欠ける月から逃げられない ねじれた居間股下に仁王立ち痛む青空 長髪の根元から馬次々と 背もたれ軋ませる砂袋あちらこちら 引き寄せられる原野に恣意ありたとえば谷折り えざまにふでふるふるうともともらわるびれる 列を乱しひとりひかるものに会いに行く妻だ 突端優れている庭地下は声だらけ 黄いろい夕方の目的を記しておく 今朝とれた野菜くすくすくすぶる食卓 粉持ち歩く助手自身既に粉の一部 引っ越し終わるまず峠を箱から出し掛ける 冷めた廊下に蜥蜴が這う皆さん、静粛に かれら婚姻赤い煙でいぶしだされ おそらく屋上を今走っているまっすぐ ぶつけたペンキみたいな太陽に角欠く牛 腋から肩へひゅっと抜けたトビウオをはたく 疼く廃墟比喩ではないので火をつけにいく 杭見上げれば看板足見上げれば孔雀 泥から膝抜いて去年知る コピーとる燃え盛る森の近くで 遠くで一度仮面落ちる音招かれざる客 小路、震えるぼくらを見守る笑顔は雨に濡れない ぼんやりと立っている衣がうしろめたい ときに白鳥大量の爪を隠し 山を打つ我にかえってまた山を打つ 疎まれし鉄屏風絶景に錆をうつす 帰りを待ちめきめき蔦めくこと五年 痩せた男くるぶし以外は売り払う 血を引く白い手紙を浮かび上がる女 脳そっくりの汚い雲が頭上にある 城偽りに思い出し多情の発火点 岩が季節を外れてこちらに向かってくる 羽交い締めにされるまで農作業、誰も来ない 震える手を外して帰る 草原の緑と舌を絡め合う 妊婦のへそに出くわした蛇鳴いて鳴いて死ぬ 痩せてもまだ夢の映像が削げ落ちない 指で押した天井へこんであつまる水 同じ月を 違う窓から 同一人物 荒野を残し灰ぶる街もちあがるすべて ボタンの裏側ダイヤルで回す割と宇宙 ほうれん草束のまま齧るこのひとを許さない 川が別の川に流されこのうらみ みだれ打つ鍵盤目立った外傷もなく 浅い眠りの幽霊に浴槽を貸す それが指だと説明されるまでは草だ 踏み外した足を受け止める南国は皿 管轄に佇んで塔のように排電 馬の青さを切り抜き散らす春未だ 老婦胸から水を吸い背に葱畑 施設出てすぐ転がる坂長く海まで 月の二階で揺られたいので糸を借ります 空に面する側頭部いつも熱を感じ 追い詰めた墓地に吃音だけ残る 雷落ちるごとに山頂から紙風船 かりそめに金網押し付け産毛痛む 火の波を挟んで無名の巡査と撃ち合う 花に占いを頼まれて謝る 意識まで跳ね飛ばされて街に着く 頁めくるごとにはっきり血を採られ 刺された腹部からほとばしる林はやく 静かに張られた水鴨が乱し鴨が憎し 生きたまま一昼夜ほど蝶ずくめ 足を殴っていたいきつねじはまどわす 苦痛は箱型の日差しから伸びる手を残し 着飾る霊ひかるからあらゆる影逃げる 紙に穴ピアスは床におくやみ欄 芋の切り口をかすめる銀河の所在くらく 碁とおおきく書かれた窓に杭が歪む 陸が恋しいと泣く女に首の痛み告ぐ 整然と林を抜けるうすいひたい 軋む港に死んだ魚として打ち寄せる 書くだけの力もない休日のための誘導貨車 体罰で赤茶けたブランコいつも揺れる 無地のメリンダにのしかかって印刷する 毛を抜く島民ら切断され以後生えず 座りまた座る部屋には食卓しかない 町から町へ 村が遠くなる踊り 人気のない場所から奇術機押されてくる 海も没する大穴多重に囲む筏 噴花というべき自然のわざ降り続く花粉 他国へ心臓を争いにいく 欠けたら内側から叩きに行くぼくはハンマーを持っている 胚をはじめて見るおさなごころ異様に傷付き じぶんの手がうまくつなげない他に手もない 雲の影が花嫁の頬に逃げる車 沖合に童心流され浜辺でもがく 子供らの母はひとり父は子供らのひとり 命に背き絵の具に背中を押し当てる あすの新聞と暮らすあすになるまで 本当の鴉の骨の色を知らない よそいきの実をつけてしなる枝を見捨てにきた 卵白を水でうすめているうちいずみ 地図の空白部分へ赴きくつくつ笑う 濡れた林にドライヤー持っていく贖い 青信号のような打ちどころに性の発育 三脚に遺品くくりつけて昼食 不要論飛びかう机上にロケットの窓 笑う距離だ 爆発しながら 風の広場と石に書かれて内部は土だらけ 足音浸って錆びる線路を無空の車輪 頬伝う飛びかかる旨悪夢だ 気味がわるい遺伝子の影しかも夜 石くりぬいて火をともすあなた、ご飯ですよ 美しい扇子を見る目を転がす鞭 クイーン抹殺指令を受け取るボイラー室 風でふくらむカーテン無人のスクーター脅す 卑怯であるために紫蘇の葉切り刻む タンポポとおじいさん同じ国に向かう 迷える羊ら次の東を右に彷徨う はびこる草木から逃げたい石ついに柱 水田清らかな灰色の筒で飲ませてあげる 市民センター、製造されるという意味で ざわめきをのがす水鉄砲は善 くらやんでしらばっくれて昼は嫌い 足首に布を巻かれて虫取姫 気をつけられない花畑いっそ錯乱し 器に火を銀は狢にわたくしども 踏切残せ孫の代まで枯れ野原 葬式行われていたうちの近くコンビニできて ガムの包みに花の種どちらさまの遺品 半袖の先は終わりなきくさはら 月は出ているふたつもそれは目睫毛伸びよ 振り切る手足の後ろのおどけた回路 夏とぼく白い絵の具で全部描け 氷山から駆け下りて田の石拾う 濡れた犬の影に這いつくばり営む 遠き浅き水たまりきっと帽子がお似合い 呪い定かでなくこらす趣向神主投げたり 娘下げるものみんな下げ深々と奈落へ 夜に指をほったらかすピアニスト 幾重にも背中を重ねて半裸のひとら 白い首空に向かってまっすぐ犯す 知らない木立の知らない部分を胸に秘める みどり児の以下水面に略す 青空に勝手口から膝が出る 手帳ひろう重さに耐えかねて風ふく 真っ黒に焦げた空星などはすべて錯覚 もう何も思い出さない男が父だ 土偶割れて溢れ出る水煮えている 絶叫して崩れる指紋を舌に移す みどりやかなる竜巻遷都を合図する 花に咲かれている無力だ庭を焼いた ノートみたいなひのひかり窓はなく 杖ぽつねんと路上に立ち老人の不在 たぐりよせすぎた紐でもう別のものつくる フードに雨ふりくるしくなる息 手の鳴る方へゆけば故郷が遠ざかる 草の燭台と書けば美しき火災 帽子肩にかけ競技場に頭部もちよる 血の気引く手あまたといえようツンドラ地帯 夜蛾集う焼けた砂糖を目印に 街につながれて高速道路に足を置く 火を点す祖母の笑顔を染めるため 雨さすこころは一筆書き 星座のように骨折したくて山に登る 落下面を下にしてサイコロと地上 排除された椅子も降ってきた 非常口を逃げず緑にまみれている 石の範囲庭の射程の外は針 赤い塵巻き上げ桜であった巨人 木陰にメスを引く涼しさはお互い様 古きよき天から地までふくらはぎ 抱いているインドのなかのひとりの僧を 画数の足りない青葉でけぶる廃村 好きだが死んでいるからケーキの上に乗せる 喪でつながる距離を冷たい指先まで這う クッキーの型から皿へくるしみぬく 盲点へ脳傾けてビー玉吐く 窓に干してあるさそり揺れる殴られて 散らばる石に祈る冥福もあるだろうか 毒舌で殺した金魚の鉢と化す 砂漠化もブーメランも受け取れず 霊安室へ階段もなく飛び降りる 絵画の下で屈服している生身のまま 灯台の灯を消しに行こう海割って 天国はくらい今なにか焚いてみるよ あんなに高いところにも窓が捨ててある 観測塔から両手だし気球受け止める びっくりさせすぎて風景まで変わってしまった 立ちすくんで まだ部屋を出たばかりの廊下で 屋根に日没する山さかさ生活拒否 蟻を外すクーデターを予感して 村長待つ十万光年先の区で 水柱上がるほど静謐な鬱の旅 融点にレインコートを着て紛れる 上空からタキシード燃えて客船へ果つ 符を貼る消えた日曜日に 兄の眼は塩であるため家まっくろ 五段肩車の一団こぞって床を見ている 祖母にキャベツたくさん詰め込み裸足で帰る 吹き消した街を一直線に歩く ストロー曲げてちょうど五時ぼくが帰っていた ため息まで痩せて月の下へ下へ こんこんと水のまま鴨の口から 亜人の腕輪を交換しに行く砂漠のバザー 抹茶薄い皿に永遠に落ちてくる 突如生えた角で広場に十字刻む 火のないところの煙は目印卵を産む 灰色の空にかみつき手足ぶらさげる 木箱濡れて海を渡ってきた空洞 街角に額を寄せて血を流す 肉焼いて肌色の塗料ぶっかける 出という漢字に似た鉄器で巻く数人の髪 ファックス送るタイの悲しき婿の肘に 来る日も来る日もただ通り過ぎて畳に日の跡 子供ら集まり我が家(ハンドル付き)で遊ぶ 折り紙渡す鶴の死骸を見ないように 戦士がひとり村は無く部品は錆びて 沈む寺へ途切れ途切れの坊主の名前 木陰つくるみんなで手を挙げて 虫酸など走らせ水草はすくすく 枝が秒間狼に見えた目に押す烙印 ソーダ水指先に乗せている重みで歩く きのうのじぶんと重なりにゆく彼岸まで 落ちた空の木片踏んであげる悲鳴 そんなに脇腹を痛めなくてもいいよお別れだ 旅の終わりより先に鳥居見えてくぐる 過去へ戻る ゼロはもう閉じてあった 低空を張り裂けながら丘をめぐる 花に不備あり夏日の庭を生きて還らず 残党は散り散りに胡椒振り多忙 あらかじめ雨よぎるときどきをおもう 挙手何度も外骨格を押し上げて 風土と国が分かれる六時に時計がない 高台へいくほどくらやみ横にして 透明になれぼくは杭を打たない 全地面つなぎめなくたじろぐ水 売場の少女は砂にまみれて鉄板叩く スカートは縦穴底なしはだしぐるり 火炎を握って夜を南に配達夫 ドーム内部もジュラ期のまぶたのように白い 蛇の輪を泣きながら首に、首がない 床に落ちた髪をもう一度切っている 目隠しの結び目緩んで飛び出す林檎 透明な神の座高を月まで登る 奪われて泣くかわりにけばだつ土 白果実注視する反逆者 木めきめき伸びる岸辺が綺麗な行 水打ち寄せて貝残る佳境道はなく 不発弾処理後の静寂蝉を待つ 滑る指に銅貨はさんでからだは旅行 牛の告げる宿黙殺して濁る唾 ドローゲームの果てにまだ続く長いレシート 後ろ手に銀河「忘れてもらう」と一言 くつがえされて血のふりをする赤いシャツ 留守番の子が水面と呟いていた わたしを立たせてみるわたしの手放送している 白く透き通る肌鰓だけが浮いて見え 蜘蛛を吊る孤独に手足がない 切り抜かれて戻らぬトカゲの代わりに住む 美しいボウル満たしている肉体 誘拐されて慄然とするじぶんの家に 断続的な鳥類の死のシールをはがす やすらぎホームに行くバスさみしい道路にしていく 夜が攻めてくる日を嘘で塗り固める 屋根の上はいつも空もう窓を開けない 餅飛び去る洋上いまさら焼け始め 裾から施設がはみ出てうずくまる路上 振り上げた竹刀にも似てエレベーター 午後は庶務ですピンポーン閉じたトランクから 泣いて逃げるいとこの子足元に風鈴拡げ 風受けてふくらむ川に象並ぶ 塩を盛る半透明になりかけて 鶴の影雪原覆う頃誕生日 ものかげに休憩している花と空気 浮力にて鳥を促す谷の底 波をひとりと数えるならふたりきりの夜 淡い思い出の中に靴磨きの亡霊 傷む月を背に手紙待つ黒山羊伯爵 何のため朝であり夕方である空 鉄串刺し花が供えてあれば死地 風吹いて影も形も入れ替わる 雫が雫であったとき街はいちぐらむ 鬱病の鳥に蓋して電池入れる 雨天で今日葬儀でない会場沼に戻す 三つ子生まれてすぐ谷底を甘くする 笑う猫背のような機械で米を炊く 山うつ伏せに庭を隠して噴火する 街失せがちに光るレリーフの中で 展開図の母乳に角が立ち抜粋 接岸そして離陸 破片を率いて朝へ ティーポットから爪先太陽かくすため 文鎮を草原の端におく 霧は清潔なからだ軟骨もある 暗い方が地下、もっと地下は米洗う場所 湯とまぐわう男カーテン開けたまま 染め返す胸もなくただ夕焼け見る 双子明確に分かれる五十歳の日記 王家の墓とおぼしき石につまずく われわれは廃油 壺傾けに来た バー越え兄来る原形とどめず 連続する11分を超えてUFO来る まっさおに森を孕んで仇を噛む オレンジの汁またぎはぜるパブ帰りの紳士 親が遺したゾンビが親なのかは知らない 暗い未来にトロイメライがよく響く 家路をひらがなでかき辿れば木の国 肉みたいな肩張り出し人脈長い峰 このさきどこまでも伸びていくから腕がない スナクジラ飛ぶ大量のネジ巻き上げて 街の底は絵だった 巨大円柱せり出す前の美しい命令 刑のごとく祭りの後のジャズ響く 筆者(右)と山(左)が(中央)の像 卑弥呼見混む涅槃に産休取りにいく 音読して殺す読点の中の別人 赤くない港を満たせない船ら 等身大のミジンコ吐いて記憶をなくす この季節は甲冑なのかも花摘んで 一途なビル一覧の上に焼け残る 蕊様来て密室多き旅情語る 床に付箋蜂を収集する日付 光る血痕宇宙に撒き散らして走る 降り抜けば雨も積んでやろう 家々々から人々々がゞゞゞゞゞゞ 鵜が羽ばたきをやめ虚空を見つめていた 仮の名は嬲ってあるためよく見えない 雑草に甲羅を着せて森語らず 俎上にいてパン毟るほど受精する 血を垂らす寒冷前線よもすがら 直線を引くどこまでも水没 先人は十年屈んで住居になる 逆の逆で窓叩き割る一期一会 収容所とは何だろうまず、ひとが要るな 雨脚あれば雨の二の腕もあり首出す 思いとどまる手のかたちの雲ひとをさらう 業の火を背負い無害の象が鳴く 後頭部と知れ渡る程の長い悲鳴 誤射の報せメルヘンの国ではケーキ ギーと鳴く猫の体中に念仏 死求む他人に放電 怨みと知るがよい 水面歩くチクチク校舎の屋上まで 天井が、低い ああ、蛍光灯だ あばらが広がる音木星を抑えきれず 雉逃がして頸動脈を光らせる きれいな布の折り目からつがいの妻 さながれて時々の口笛で育つ あと一滴を水筒は滝の如く欲し リバーシに赤混ぜて予感するバラバラ殺人 大草原に対し直角に見送る葬 糸垂らす十指それぞれに望む注釈 また罪で痛い目かくして谷またぐ 誰かの冒頭の石なぜ懐に海へ 一部欠けて輪でなく肩に刺さるだろう 献花台の逆光真似て暴れだすとかげ 苦笑し飛びかかるフローリングに無人の背広 本屋で字に出くわすたびうしなう記憶 宙に浮きダクトに耳当て唾を飲む 晴天無垢なる恐怖をただ敗走あるのみ 顎から上が無くて緑であれば花 寂滅の肌けぶらせ朦朧とツアー 運動場のフェンス外してナスカへ歩く 疑問形に線路を傾げてかみなりのくに 水際でいきしにくいうつたびおもう プリンどけて密林の密を吸い上げる 日没とはなんらかの焼却であり点呼 軽石でかかとを削る息ふきこむ はじめとする蛇の出てきた空腹を メロンみたいなざらざらにさわる溺死して 次は「四十万」静けさに名を連ねるべく 殉教のテニス点字の点にぶつかる 病人の頬へ本棚から失脚 孤島のホテルに虫専用の光る読点 陽を見る瞼の彼岸を笑う老夫婦 金属覗く野山で未だ木である意味 こうもりのコバルト借りっぱなしの夜 拾い過ぎたマグネットに軽くしてもらう 軽く座布団持ち上げている国つくる 孫の輪郭に牛乳ついで匂いかぐ 苦痛の塩預け目眩のあたりからかう 水満ちて野鳥園から紙ちぎる音 長い鎖で繋がれた動く容器とこころ 脳の一部神社と貼りあわせて薄日 抱き合って米粒 川辺でグラタン食うソーセージは笹舟で来る 美しい涙に沿って目をさがす 覚えたての言葉で「疲れている」と言う 板立てる音の目覚め深き上海 黒い咳計る無傷のメトロノーム 流れ来た石の表面に億の索引 月見台とがりたがる白夜の砂漠で どの一室にもゼロの圧迫あり時報 手品で軋む船に充満した窒素 ワイヤー震える だれかがかなしんでいる 前に風鈴吊った天井が青空 一年C組一部コンテナに全校集会 柱の傷は長女 髪、伸ばしてるのね 三部作のその辺に中古のトラクター 花なくば殺される花粉僻地で渦巻く 終点へ幾多の身体を乗り継いで くらやみではなく幹であり削りやはりくらやみ 雪をむさぼる 照明は透明な松明 ポリゴンっぽい生身を続けてくるしい 腕を押さえて足をくぐる朝ぼくが日の出 少年少女の斜線部 成長のたび減る 針金で縛られた書簡霞に吊るす コンパスの上半身を他国から見る 栞は砂しかもサハラの貧しい村 魚の形の輪乱すダンスいつか陸へ 火の粉に礼 頭もげるまで 死亡見つめていた駱駝生きるとは失うことだ 胎盤に塵ためて和む対岸の火事 農耕終えて透明な神の手を貸しなさい 靴箱の奥の引き戸が無くなっている 木馬今までありがとう遠ざかる時計店 震える携帯残しなにもかも静かな鐘 地球儀をどけるとそこだけ燃えていた 地図はこどものくに鉛筆の刑で死ぬ オオオニバスが浮かび上がって江戸時代 抜け道を靴を、と胸中にせりだす森 無径の広場で屋台が雫を売っている 終電に帽子と手袋だけの駅長 高すぎる背丈の記憶 両面低部の淡き竜 桃の解剖どんどん幸せな家庭 孤児の撫で方喜び塔を突き出す空き地 鳥は価値なく震えよ鳥なのだから 空き箱運ぶ 幻覚に幻獣に 編みかけの籠や女があり山中 耳鳴りの奥へ噴煙立ち上る やがて昼下がりの刑期も手旗で隠すだろう 回文であるからタイヤは二度焼かれる 月と街灯かさなるところの街灯蹴飛ばす 髪梳いてすてるちがう夫がかえってくる 首長族の沈黙シーソー傾くまで 砂時計まで辿り着けずに錆びる鼠 誰にも言わない物置静けさ滝の跡 地球かかる空眼底の真空つぶる 肺に泉転移して斧咳き込むたび 故郷を捨てて砂金と蟻を握ったまま 疑う余地をシーズーの紺に残している 亀裂から夜が漏れて触角になる へばりつく蛙の腹でまぶしい机 絶景の森にまったく幹がない 産まれつくしアメーバのようにぎとぎとす 行き交う狭き人体侘しくすきとおらす くもりぞらに煙突が終止形です 絵の頃の秘密を裸婦が絞めにくる 蜂の巣へスプーン一杯分の装置 畑焼いても畑になる 部屋だ部屋だと踊り来・艶笑など老婆 売店のち雨のち島を離れて暮らす 川面の裏の木陰に記載すれば市民 夕闇のそこだけ明るい黒猫が見ていた こぐまざこおる光っていたのは使者だった 船舶ぶち抜いた後のしめやかな横断歩道 どの春も列挙したくて生き長らえる 熱波による死者そのまま海を渡る 高射砲以外はロンドンで靴を買いました 血の繋がりも連絡先もないパーティー またわれのごとく雲がちぎれている 鞄に枕旅程に蝶の命を継いで 山淡く空濃く石は唐突に 今だれか時間止めた? じゃ遊ぼうよ 部屋の記憶積んでもまだ満ち足りぬ月 梟の数だけ鉄の巨人いる 嘶きで軋む馬あおい闇が厩舎 床に槍刺し天井に縊死しかかり直線 地図に鳥の死骸を埋める余白ばかり 震えで砂崩し矢印にし進む 凶器みたいに長い腕のこと小鳥がうたう 水の不覚をとる小さな皿だ 三輪車のさんりんばかりが未来の糧 埋めた火の上で歯ガチガチ別の魂 似せるべく米を半分だけかじる 音階の一部が透明な小石 古代から引いてきた糸ついに張る 網の庭の下に住む 髪の毛は木の根 バター溶け出し箱に終わりゆく徘徊 ある標高の白い雲から白い服 殺意が液体になり家中拭いて回る 湿る地下道へ交わりに行く 沿えばなにもかも壁 子犬が濡れた音する一番奥の牢屋 首の後ろに蝶番錆びもせず冷たく 警報鳴る空が来るぞ太陽が来るぞ 足音へ土もぬかるみだす 父遊ぶ庭に死番が立っていた 両手をどければ顔面ではない坂だった 空虚の闇を指差す代わりに母音のa 置き換える家具を蝋燭にわたしを霊に 釈然とベンチをねじる朝の終わり 裏口から胞子招き入れ格闘 隊を離れる友達 谷深く井戸深く 着せる羽衣鬱々と悪しき二重街 暗澹と試掘し立役者の前で 砕かれてむらさき 打ち寄せる波予感して震える花 牧師殺しても殺しても白い態残る 人格得て同義語と化す口と靴 布背負う重さ服もその一枚に数え 封筒の茶色も閉じて空を切る やつれるまで日の明暗を塗り直す ボウルのふちに四人十字に立ち向かいあう争い のぼりつめた牛の角からとめ・はらい 埋めてきた目印も隠してきたわたしも失踪する 風前の風となるべく火を踏むかれ 夢だったのか 一枚地続きの靴底 獣地面に打ち付けた杭の番がくる 街の闇に数限りなく傘の対 この世に生を受けて蟻地獄である夜に触れる 記憶にない公園で新しく遊ぶ 眉残る鏡に無言の形容詞 連れ子の兵月を見ていたそう遠くない月 小高い丘の隣にベッドがあり地の鳴動 くすむ孤児院の支柱誰かである時間 鉄吹雪やんでくれ動悸がとまらない かんむり授かる牙 まみどりからやりなおし 目が冴えて月光よりも静かな猿 もう末代本能寺から髪の傷み 草焼く煙に雨シンナーのにおいする 信じやすい神経は竹時効まで みずばしらくらげなきあとすきとおる 空の桶打つ音に懐かしく峰迫る 喪服に丁寧に肉体を収めて畳む 欠期にはクレヨン撒くよ野原の真ん中 ぬれぎぬ落ちた音し振り返り見れば猫 歌をみずうみで解きほぐすひとりごち 突風で軋む荒野にひと住むべく 夜に瀕しなお自らに空も課し 種焼けた場所見上げれば鳥の群れ 強き昼の量に強いられおとこの妊娠 円錐はちりあくたと嵐の中 ルビー浮く不審者自身を軌跡とし はじめての肉体は葡萄飛び降りる 書うずまく天衝き哭く 化身として夜を毟るべく爪研ぐ姫 さまざまな縦線二本首の絵本 黄河に票を投ずるところまでの階段 通風口に机を配し光を待つ 機械の蜘蛛老婆の部屋で連絡を絶つ 山刎ねて平らな面に弦を張る 小さな村にぞっとするほど川が流れ ファックスみたいな霧にまかせて桟橋進む 勝者の橇を眺める鹿の王は匿名 心臓の音が滞空時間を刻む 私園の片隅から色とりどりの風船湧く にまいばのあいだとおってかえって、風 疲れて電極みたいってことを壊して伝える 飴煮えて逃げる兄弟のつめたい息 隣人不在の夜が十点のダーツ飛ぶ 山あいの雲へ錆びかかるガードレール 無を見てきた少女は原寸大の闇 手招きかもしれないカーテンめくれあがり墓 死んで銅鑼となっても天女のだるき腕 雨季の紋様天井埋めつくししたたる 口より笑うまなこに手帳の解体うつる くるう海の怒号から祖父の思念うかぶ 先頭の者が鈴を鳴らし森へ 家族続々と紙で隠され眩しい町 白組くる日曜を妨げにくる いちばんの嘘は君に出会ったことだ 洋上の滝は静かに船を割る 花畑を棺桶の幅ずつ進む 道をみつめていた 毛布をかけられた 死んだ 祖母はオレンジの光五つ隠し子守唄 昆虫の手足やわらかくかくかみなり 窓に映った雲にさらに窓が映りまたね 逆光に蠢く老人らのゲートボール なくなるまで月から灰が降り続ける 死にゆくばかりの手の内埋める倒立して 一個の街が停電で書店だけ開く ガレージそばで軋みだす妻の三輪車 もやからようやく爪先見えて少年期 無垢も手段跡形もなく口ずさみつくす 千尺の譜が坑道に尽きてゆく 苦にするものなくてほどかれる象形 雲ひとつ無い空にドアを閉めていく 編み疲れてくらやみへ銅を運ぶため くすりくさい夕焼けは理科室の拡張 ためいきに混ぜて第三の海も吐く 集結する紳士は指から開く花 瞑想の平行線下の紙飛行機 夜の部に神社が浮かび上がり中止 川への道閉ざされゆくあてのない機械兵 砂漠に千の靴あと蜥蜴たちは狩られ 街刺し殺す街灯黒い雲吸い上げ スフィンクスあらかじめ増やして火星へ 廃墟に大理石の立方体あり咆哮 匙がぬるい体内はなお愛おしい 風に吹かれて一縷の茎が首に回る 産まれて死んで離島の水族館を濡らす 教会の外の煙も拝みやすい 頭に雲がよぎりすぎて雨乞い 青い火花に影で蓋して星を見る 土砂と分かつ孤独をヘリが迎えにくる 雪に焼かれて木々まっ白に背骨 業に似て四ツ首・三脚・胸に目ひらく あとは原子炉までずっと下り坂 今日は石碑が北にあるから日影はないです ずっと一日の工場で金色の菓子くばる 密閉された容器の中から溶岩見ている 気配尽きて絵皿に毒を盛り直す 包丁持つ本当は鞠が欲しかった 風の成立拒む光で霞む河川敷 今晩きれいな真空に戦ぐ留守になる 海に身を投げた手と同じ手をもらいうける 飛来する一滴の泥が蝶の対価 生後の長い長い沈黙の後に殻を踏む 一撃の余力を残す影をもつ 一切の感謝を拒否する祭りの無言 まるい壁転がしている閉じこもる場所まで 空き家の主人とおぼしき霧に最敬礼 砂場の砂こぼれて崖下の球根ひらく 暗い部屋で家具の背丈が伸びてくる からっぽの川に背中と角が見え 致死量の置き絵またの名を個展 扇子に隠れる微笑と極北の流刑地 痩せ細る身で貫く廊下のスープ冷える 見たことあるよこの火事このあと親が死ぬんだ 樫の頬杖突く目的地も青い汽車 棄てられた森に 突っ込むボートのオルゴール鳴る モンゴルへ銀色風船災禍を伴い 背骨痛む近所のシャフトが回りだし かじられた部分に月を置く点灯 湖面さわぎ元々奇数の鶴の群れ 看板すっ飛んでいく負の領域へ 気怠い午後に虎の頭足蹴になり投げ出した足 ギ、と鳴る汀の冷たいギ ラボの破片と数字 小包で届く 名を呼ばれかずらとなって散りゆく友 王位に即く針金の勤しむ錆 大陸に化け積年の恨みを狐 未明のホールに残響よりも静かな一座 未亡人のドレス戦場で意味を持つ 綿眺めて暮らす明くる日も明くる日も朧 不慮の隣人また白黒に配信され キリツキリツと鳥が鳴き針だらけの天井 米量る音血の減る音が手をつたう 動力装置をちぎる人形たましい見えて 季節というより暴れ狂う蛇で帰れず 舞いそびれてそばの藪から天誅の矛 異性と田と沢を隔てるのは共食い 紳士の袖から機首ひたいにカギカッコで囲む 星よりもあかるいガス灯どこまでも穴 首に触れるアルミサッシがギロチンに見える 壁面に枯れ葉渦巻く日の帰宅 潜水地点の波紋消えゆく茶室の和み 銀の炎に囲まれ月の輪との呼応 不在の席につがいの鳥の羽重なる 長い距離を石と化しつつ廃材の馬 炉が数千度にサファリを映し塵蠢く 手袋の中身は手である落ちている 黒い大樹に満ちた古いフィルムの上映 話はそれだけ 草を刈る日が続いた カラーテレビに色とりどりの濾過映る 策尽きて月待つ村の異様な過疎 逆さまの鉄塔の中を渦巻く石油 墓殴る顔の形に変わるまで 二階から鉤爪と少女の嗚咽 前頭葉にアルミ箔貼られ他者の想念 風吹く前にも風が、ひとはいなかった おだやかな眠りの三時もジグソーで切られ 地下水脈の交わり伏せる兜朽ち 歌にある旧家に無為のチューブばかり 屋上に息の根到達するまで止める 牧場がいきなり切れてそこから宇宙 苦笑が楽しくてしかたない子に国を消される 野山の机を紙切れみたいに一枚の鳥 ガラスの栞に同年没と透かし見る 枝折れるこの液体も水なのね 極地のドア目印でしかないが開く 毒蛇の蛇の部分が生き框 正しくは牛の悲鳴である刺繍 眉間に消える吉報握りしめたまま この街を見上げるいつかを歩いている 夕焼けを毛布に焼き付けて夜の火 ハンカチ横切る誰かの頭上を傘で愛す 全ての弦こともなげに切れ黒い目のヴァイオリニスト 星雲を気配として佇む地蔵 葉に杭打つ森の完成少しずつ 丑三つ時に塔がしばらく立っている 影の頭部濡らすための室内灯 食材はパン粉舞い上がる銃撃の末 意味にない花の言葉の駅に着く あしとかけむりとか見る上から 貯水池に錆びているかもせりだす胸 ぞっとすると月が懸かって見える外 野晒しの服折り返すランナー来て 澄んだ空に誓ってわたしは白い花 田の中のあかるい土をつぶる 老いたるものすりつぶしわかばのにおいさす 涙浮く檻に逆さのビン吊るす 連鎖する夜に積み木してぐらつく足 柿食うまでもなく坊主は坊主 脚立の一部 味に綻びだし文明 耳を真上に金の円盤遥か遠く ソばかり鳴らす冬の間 じいさんが死んだ渦潮で錆びた鐘 日射しの中で爪ばかりあたたかくなる 戦後はじめて鳥が飛ぶ市場の上 玄関から窓が一直線のモノリス 地図上の空き地に稼働するタンク 夏だった蝶の肉から芽が出て樹海 溝を掘る遠い未来の石段濡れて 来賓は枝を内蔵したカナリア 倒れた門の影が立って入口 電報打つ行方不明者の虚ろなバリトン 雪塊囲む石 消えゆく 一時間毎に 無心の蔓の侵入百年間許す ペガサスの腹筋白く雲と交わる 近所を迷い忘れて正確な帰宅 無為と知るにも熱量使う舞台裏 薄紙に滲む実名唯一紺 七十二階のロビーに破れている枕 見えなくなるまで打ち込まれなおも震える杭 壇上に皿と空気とスピーチ始まる 祭具捨てて血で錆びた地区迂回する プラスチックの鍵流れくる川の上流開けて 寒いからうさぎを履く 空が恋しくなる 田園にフラスコ置いて空虚ためる 雫になりようもない頭を垂れている 星形の花・花の星座の分岐点 床突き破り網戸で泥を漉している 宙を刺す金粉いずれの視界にも 氷河の飢えに近寄り呼吸差し上げる 火事近隣に何らかの予感ボタンを袋に 車内から傘を差す子ら笑いつもげつ ふと硬い光にぶつかる朝を見上げる 山小屋をダンサー過酸化して踊る 愛されてコップの底を穿つ泡 火柱立つ沖に小舟を砕いて流す 助手ベルで呼ばれ渡航し森に笑う 発光して深部に赴く鞭となる 泣きたいときは死ねばいいのよ魚みたいに 右脳は湖 下半身は霧 転ぶ 人間のゼロをくぐりにくるイルカ 血で契る丘の祠を蛇の舌 魔が漂う農道あてもなく帰る ノート大の古紙まとわりつく温い風 体操にロッカー串刺し照らされて 開きかけた小箱より北扇状地 影に青見出す鳥の朧気な輪郭 異国で異国を拭く水没都市との繋がり 離脱した幽体が月を見ていた 息止めてトランペットを組み立てる 菜を並べるまっすぐ雨になるように 遠くのビルを飛び降りる無数のドミノ 日没に窓砕かれ見え出す透明街 誰彼の名前叫んでねじまく熱 鮮やかに書類蝕む夢で書く 寺錆びて海にも雪は降る 人形の髪一本一本本の紐 ううと来て沁む 今日からは等間隔に黒い賽 青ければ空 肌色であればひと 数千トンのパレードに喰われ住まれ焼かれ 放置された中古車に星も導きなどやめ またがる海の水平線に淡いたてがみ 老木に兆すばかりが鳥の意義 静寂の大半食器すこし雷 その頃の雫まだ閉じた傘に兵士 後日 猫は来ていた 双子池に双子両目を映しにくる 火花を伝い歩く裸足もまぶしい オルゴール火口そばに音ごと流れんとす ねむりに沢 よこたえて仮に香る肉体 石室の闇に消えゆく滑降痕 月に目を奪われ充血している月 飛ぶなどしてつまさきをこころにのせる 凧ひらりひらり模型の街だった 杖で強くつぐむ真実一切は無だ (ここから2007年) 湯気はびこる道延々と続く 静かな日曜黒ばかり映す集会所のプロジェクター 時間擦れて光彩放つかつての地表 野原枯れて枯れた昼たまりやすくなる かろうじて始原の地に立つ塩の針 書架の背ひらく血は花びらに例えておく 透かし見る蝋で封緘された苔 神主の脳裏と鎖状に繋がり詣づ 蝶も火の粉もわらわを残して逃げていく 膝の圧迫額縁抜けのけぞる上半身 血吸いヒルの本景色の真ん中におく きのいのちをふたたび受けるためののぎへん ふと集う三千種の記号の大河 奴隷らの金歯くすます誕生の飛沫 茶したたる階下を泳いで出ていく 土踏む葉に涙し たかが宿命など 足を損い渡せぬ絵画に群れなす御魂 山よりもクレーン高い場所から息 逆流に佇むカバを見ているカバ 壁いっぱいに腫れた少年だれか塗る フユと言えない使者は拙く淡く不死 百日晴れて返り血乾くモニュメント 放電する眉間に雲寄せあう辻褄 肉声を噛んで自然界に還す 歯車を経由して胸熱くなる 標本室でかがやく五時間前の昼 畑があり妻生きて太陽が妙 岩納屋に押すとあれ厳かになる 雨の中へ三百六十度傾く 軒先の露に反転する砂漠 大陸に匹敵したくてもがく蟻 贄踊り天の二物を弄ぶ 幻でも刺せば赤くなる秋浜 真っ赤なポストを死顔みたいに撫でると雪 灰踏み固める笑顔第二波期待して テーブルを隔てて海と侵し合う 降りるあてのない壁の上歩いている 暁の尖端で虫が震えていた 悲報掻き消す強風ねじれるシャツ取り込み 雨かぶり波紋寄せまた水柱 冷えた家に今帰ろうきれいな音階で うおそよぐ頬ぴくりと斧振り下ろし 二つ折の紙開き山を描き閉じる 首都はガラス声と体温以外は捨てよ ゴムボール放射 三味線遅く響き渡る 痩せた河に船底削る旅が骨身 熊自ら市場に向かう血が眩しくて 清き水落ちる谷底に男子いる 昼は長く庭を剥がれるのに充分 秘書ぼくに墨吐いて窓に寄れという 見て分からぬオール鳥がくわえて持ち去る ふるきまちのまもり十字路は水で満たされ 遠い象に踏みにじられたい足投げ出し 先代よこころに蔦が下りてきた 門番見られていることに気付き互い違いの塀 火を焚く婦人会 屋上に別の一団 苦闘の末つかんだ藁 海がそこまで 林に風ガスコンロの火力と左右 通り雨来て寝つつ歯ぎしりりりり電話だ 全滅の便あやつりにくる機長 ベル鳴らす諸手に胴無く野原がとおる 牛乳の雫を介して眠る鳩 忽然と絵巻の足あとから乖離 果実もいできた木の巨人と擦れて焦げる 紙押し破り交差点に触れる親指 金色の目にばらばらに沈む太陽 割れた木に野菜置きにきたお食べ 海溝に全身浸すときは接ぐ 行き止まりにゴシック体の巨大な三 橋わたる鬼はらはらとひとの重み ぼくら育った土たがやしてまた足埋める 空のお椀なにかを相殺して揺れる 耳立てて鉄塔で聴く三角州 文字群へ未形の蛇を行使する 霧に立ち面倒に笛吹いている 寡黙は奇妙な受信機 四肢を重ねて立つ 星高く宇宙高く 夜は降りてくる 島の蔭に棲むには駆け回る 師の祈祷テーブルクロスの下で蠢く 苔散らす一矢未来を螺旋に削ぎ うら若き一人称は冬景色 階段掴む老婆の呪詛のみ這い上がる 近い葉に炉が盛んに燃え枯れゆく葉 杖で次の間に導かれた煙と同席 みずからすいと立ちあがり山へ みずを張りに 岸辺の壁椅子で殴り第三の破片 折れるまで陸も日照りも続きます コーヒー垂れるグラスにバザーの犇めきある ぼけて噴煙の中の秒針になりたがる 砂防ダムかき回す雨後の長い雷 紙とゴムで知らされ家来の死は清き 発光体吐くまでなぞられ喘ぐ友 終点に黒く夥しく図書館 両側から髪を垂らして首持ち上げる おおきな山のそばの発電所の小さなツマミ しるしして余る塗料で鳥えがく 青は細く氷原は脆く束にする 荷を積んで月の番しにしににいく 格子戸に一途に硬化する水星 呼と吸の狭間の森まだ育つのか 石を揉む湖上の余白に懸けるべく 花を伝えに来てまざまざと姫の狂喜 朝を呼ぶうしろめたさが蝶の羽根 影を分かつ窓に人影の片割れ ひとの寝首をうらやみ里に下りる虎 回線の向こう女は火で燃やす 完全な凪をおそれるとは近づく ラジオ壊れてこちら子供です、どうぞ 無を見つめるすなつぶすこし舞う 世界には果てがあるという亀を飼う 出窓から墨汁したたるほど追伸 衒う奇は眩しいぐらいの黄であるべき 柵を打つには遠い崖ひどく逆撫でされ ベニヤ板敷き詰めても敷き詰めても虹 脈絡あり命に別条空に船 囲まれて災禍に値する喝采 庭園中に仏壇ひらく昼下がり 目に見えぬうたになり推し量られる 極度に簡素化されて棒になり西向く 針に針おとして伽藍の闇は無限 龍に乗りさよならの雲つきつける 閉じた頭巾のなか鎮魂歌朽ちてなお はっと振り向けば揺れている枝 やしろやく巫女火の字を十重ねて着 弄みたいな平台に乗り踊る妻 観覧車にバケツ乗せ離れて水を撒く あかるみに出た土出尽くすまであかるい 雲泥の差から身の丈引いて吸う 鉄のブローチ星だったこともあり午後の女の胸に メビウスの輪解け 虫の命が廻り出す 白い壁しばらく嗅いで帰る豚 害をなす夕日にも今日は照ってもらうぞ まだ足りない畑の北に画用紙買う 鉛筆の芯に潜む魚いつか海へ 洪水の跡地に飼い主のまぼろし カレンダーめくる手補い合う姉妹 息吹き返すシマウマまた狩られるために 点滅する信号機に這い寄る砂鉄 スロットマシンは無人列車の駅のひとつ 海へ出た石から身を引きちぎって泣け 花びら舞うミカド残して可食部位 呼び止められて砂こぼす指の隙間から 見てはいけない親来る 子をトレーに乗せて プレハブに綿詰める夢眠るため 数億の目が一斉に閉じ中断 傷付くたび水門ひらく血に代わり 村長を慈しみ終える村の過疎 病床から網引きずり出す雪の力 正座して地脈隠している来客 空の大きさ考えて箱しきりに開け 空転する電柱町が飛ばんとした 箸で掬う川の水すぐ川に戻る 種育ち巨大な種となり交信 波間を漂うネガに少女と公民館 夜の気のせいにして色とりどりになる 核に戦ぐチューリップ分けるたましいと 古い歯形に雨水ため飢え凌ぐ苦虫 子ら駆け寄り豚料理で口を拭う 逆光にほつれる枝の影を探る 展望台のグレーのサイレン生家を偲び 皿の端のチーズの反対側季節 風みだれ言の葉言の木をきざむ 遠吠え響く空洞に星のシール貼る 光る眼連れ大空にかじかむ岬 軒先は森宿りの場所十字に裂かれて 裏路地に塩乾き谷思い出す 読み聞かせる目録に黒い羊ばかり 田に積もる雪より微かな交響曲 柵嵌め込む洞窟内部の海の存在 中空を沈みくる碇まだ十年 無石墓地で和む少女ら目も合わさず 重力に菓子屋押し潰され秘匿 つまさきだちぬかるみに椅子おく 雲散らす重罪 水墨画展に在り 針に触れる空気どこまで飛ばそうか 庭不透明 下から小鳥が見えない造り 棒に鈴付けて足折りたたみ飛行 壁があちらから崩れていく様を海藻食べている ひとのくるぶしほどありありとわざわいに見え 街や本くりぬかれモーターもちこまれ 沈黙でとめおく水槽の金魚 星のためいきに似て外されぬ鉄の枷 惑星の閉所つらぬく螺旋階段 工場からまっすぐ白夜になびく煙 プレート状の大気を倒れるまで歩く 正門前でパン撒く男 狩りのあと 如雨露にソーダ水ためにくる小鳥 空き部屋で滑る石見つめる幼児 冷気とぶつかる植物ねじくれて多情 磨かれた銅片との距離はねかえすトマト 淀む思考 白黒の映像に母 跳ね飛ばされて宙を舞うラジオの破片 海岸にビー玉ひとつ海失う 暗いから楽譜燃やして音を出す 戸を擦る皮膚をして階段の裏歩く 異なる星の青空まで抜けるような青空 コラージュ画さす指思いだまるオウム トンカチ持ちシーソー脅しにいくひ孫 ポスターに多数の手印刷され余る手に配る 老婦悉く視界に マンション一室隠す 書類切り揃えるくらやみにまっすぐに 鶴叫ぶ婿の胡座に首絞められ 架空の木に貼られて浮いている白紙 舟打ち捨ててあるはずの月が昇ってくる 長針が指し示す街キリキリ痛む 昼は長く目薬生臭くついたち 同じ血が流れる肩に担ぐまさかり 森の精霊たどたどしく静電気を発す 経路寒い湿っている通り雨だ走らなきゃ 食前の臑見せサディスト葡萄踏む 絵を忘れ野に来て花を育てる生 魚得て書き残すまでが力 明滅する壁にのろのろ閃く亀 長袖の一縷の解れに砂集まる 葉が止まる空中の奥に世界地図 つちくれ赤らむ妄執待ちきれず耕す 漂白された信者らの手に小さなギヤ 記憶に触れてトキの死・海の名を統べる 曇り空を飛ぶ鉄片と木々疎遠 鳥居くぐってからずっと水の味がする 袖から裾に取っ手付けて傾けてもらう 滑らかな鳥 わたしの胃は海というプラン 透ける器官腕に宿し子を愛でる使者 象にまたがる女神の凍みるような笑み 兄の産声空調にかき消され寞 茶色に塗られた僧呆然と焦げてゆく 村娘昔話蒸し返しにくる 塔にあう蜂蜜くぼみに置いとくよ オムレツ崩れてしまう太陽が昇ってしまう 連なって飛ぶ風船は数に入れず シャッターに押したあとがあるもうあかない バット振り上げて星空を見る 教会の近くに樽を流す海 砂埃舞い上げて春は巨大な戦車 意図的な家屋に閉じかかる鋏 渦巻き溶ける風 石段に一部匿う きぼうと名付けた笹舟ぼくはげんきです マンション飛び立つ発光 下敷きは捨てられ 根が暗い木に国があり不当に大きい 生かされた貝と見せかけて悲しみ 山取り壊され大型の夕方一号 助手席に星形の紙吊り走る 幼虫皿の上でテレビの砂嵐を見てた 気化に耐え盆地に移り住む水滴 旅先のしじまに杖をなくすだろう 洞窟の続きは青く夢でみる 家具から饐えた匂い 窓に海を貼り直す 腕見えて口の位置からカウントダウン 危機はカタカナで書くと連続するブレーキ痕 庭石のしるし隠す壇上の影 溶けだす崖にカフェの談笑 エンドロール 散る桜の手前に月、地球じゃないかも 雲がかかり空より低い父が見えぬ カセットテープのケースに蝶と千切れた紙片 暑い日に列柱横たわる受刑 飛行機見えなくなるまで橋に近付く冷たい ベランダから砂落とし受け取りにいく 岩捻れてマカロニと噛み合う接近 記録面傾けて月複製する バンシーぬるりと傘差し出し和室の崩壊 引き攣るただの糸となり指輪に通される 川底を泳ぐ中身のない毛皮 近付くほど見えなくなる円とか一枚 ロシヤからノコギリの歯の黒い波 地下六百階木造視聴覚室付 行き倒れの口手動に軽快な曲 誰と呼ぶ戸の隙間から引き込む自分 人員の和睦の音 血と広がり午後 立ち清くて長いなら見上げよ 雨匂う庭適当にはぐらかす 天井に足がつき空の深みに宮 うすずみの朝に改めて滅ぶ村 橙色灯の周りの黒消し何か描く 風が紐解く町にゼラチン質の露呈 窓から見下ろす空に空転するナット 深い山を鴉引き受けて佇む そのひとの代で不時着する気球 草の種を蒔くひとになりたいが刈る ドアノブが付いている新月の日の河原 化石まで沈む花びら雨期しばらく 水を捨て傘を捨て傘を捨て空のコップ 夜の長い火 屋上の小さな庭 花網羅し淀む タイル吸う雲の中の新しい地上 削っている幹の辺りをヘリが飛ぶ 同封の本と栞を切り離す ひしとコンテナ 工場あかるく稼働して くつあとにポケット縫い付けられ古着 道路ひろいこぎつねを透明にする 菱形のガジェット似通う窓割って 傾かない階段差し込まれ孤立 茶の間から春をこけおどしに干潟 ロバ一頭幸せな家の中に繋ぐ 灰に浮く花は崩れた春の迷彩 非植化物の黒い目をして這ってすすむ 風上を骨まで笑う羊飼い 槍たててみる砂場おなじモンゴルまで 無を紙で包んで馬の形にする 待ちびと来たらず鏡の中に火花散る 沈む壁垂直に鯨は描かれ 本赤き年少携え読唇術 牢の暗さより黒い人影が見える 呼吸が肺に広がる頃の野が枯れて アーチくぐる首の高さあう売店無人 楽隊の波長の片側埋める森 六面の窓に一面の菜の花 保母起きて敗れしものを連れまわす 鍵穴からアルファルファ漏れて途切れる記憶 氷砕き現れた車噴水を避ける 池干上がり久しく七輪など焚かず 旅ゆく途中紙人形にされかかる 誕生と成長のあいだ水びたし 砂漠フーフー吹く混血児異常に幼い うっすらと花を押さえるのは見ぬふり 小鳥が浮かんだり沈んだりする空か水 また鴉に戻ろうとした墨汁で書く ごみを焼く朝の延焼覆う影 無償ではたらく室内窓割って室外 テーブルにカメラ置くパリ常に動き 終電の内部で時雨に突く頬杖 家庭科室で粉握りしめ誰かの手 水撒いた野原に頼まれて帰る 花は朽ち銀河の紫は踊る 深夜唸る自販機ビルと対比して スイッチ踏むと蛾の形に切り抜かれる現実 象の箱に立派な取っ手付けてもらう 顔に触れるカーテン・鴎のはばたきなど 眠り危うく本の並びに迷いこむ いつか見た昔のわたしも同じ朝 風に揺れぬ半畳ほどが部屋の芯 ひかり跳ねる水源ちかくにニス塗って 手続きに燃えて見える林 肌色 花束にするときだけ外す目隠し 肩に通う筋肉遠く山奥から 道ひかる部落へ無色の板を手に 感染経路青く塗る母国語を捨てて 電線にティッシュ弾かれ交わる影 へこむ石に頭を寄せては返すひと 電球吊った天井高くしすぎて月 森を出る感覚上の泉の位置 呼ぶ声する井戸の底にもわたしいる 花びら入れたいおばさん風船ふくらます 早退して噴水の前で水を噴く 山のまうえまで暗く目を開く錐形 いずれ置くベンチのために立っておく 紙芝居がてらに一枚水たまり 錯乱に触れてくる テナガザルの恐ろしく長い手 湖畔の町でたのむゼリーに水上の雲 ビル解ける眼鏡かけてもかけなくても 本日は花が美しい日取り 鉄板落ちる音の幻の修道女 根ごと木がねじこまれている土管握る 円盤積む一瞬毎に海吹き抜け 脱け殻に火を入れてうごかす 実体が二分する影祀る台 生前から生後にくっきり無一文字 レモンの造形闇にひらくときはばたく 生きた子の背丈を魚の骨で測る 山水画の山と水を分ける試み いずれ飼う小鳥に腕を上げ続ける 逆光・白夜の病室に犬の毛が増えて 田に射す影電柱のものであれば埋める 女の後ろ髪複雑で時に人の顔 受け取る形の器に手紙などよそう 近年から銀を塗られた鹿が来る 顔から火が出る者は仰向け 二十時の火 森の一本の木を凍らせ水場のグラフ 宇宙というカテゴリーに血で結ばれ挙式 無限に続く豆腐を表すモールス信号 畦黒く考えるあかるい目をして 聖書読む素人の大声が響く朝 アリクイに何もしたくなく紙かぶせる 虚に触れる山鳴りの里の数え唄 風が吹いて揺れる木がなければ生きていけない 帽子の下全部骨の金田一が館へ 異芸統べる神道連れに千年坂 窓が閉まらない空のせいでギター弾いている ダミーの子供たちの町 矛盾のヒントは坂 巨大な氷の濁りは砂漠ある日砕ける 僧四人紙ひるがえるたび囲む 墓場に墓置いて帰る明日に傘も持っていく 飛行するトーテムポールにひれ伏すのみ セピア色の土握りしめ現実あるく 凶と出よ地上百メートルの長箱 指紋消して他人の庭を跳ね歩く 港の突端あるいは渦巻くプランクトン 農夫立つ雨後の田舎に真っ黒に 近眼にクリーム自ずから尖る シャツの下に死ぬまでずっと肩を飼う 塵も積もれば演奏家となり耳つんざく 大仏から油の幻垂れてくる さまよいなれて靴底は行程の一部 カナリア後妻に据え左に回せば抜ける 白壁に古墳と民謡歌手の影 同じ行儀のみんな窓開けゴムの匂い 手の内に今日の昼 まっすぐ歩かねば 膨大な塩に押し出され処方とす 戸締まりよく二度目の笑みは老後くる 最上階から氷落とす何かをほどいてきた指だ 谷底から鉄塊の黒さ這い上がる 水買いに空より若いビン持って 計算上の雨期に計算の跡残る 吸水機うごく 盆地は想像にまかせる ドレスから化石まで串で刺し佇む裸婦 暮れ損なった方の空に赤い花ちぎる 思弁の六つ紐を靡かせる軽い風 舟溶けていくあてもなく流されていく 早朝五時の烙印押して長い坂道 そっと出した手を指差し笑うたった一本の手だ 朦朧と我が名に赤含まれ神棚 市が平らに見える島海より出でよ 取り違えた子の拒絶 静粛に山脈 折れるほどクレヨンで塗る熊の内側 ひらひらと蝶と魚影に紙吹雪 風の支配 村人たちは生き戦 外した眼鏡を水田に蛙現れる 花多く残像にして這う稲妻 錆びるまで湖にすそひたす喪主 ミカの怒り裏返しに口だけ見え 痩せた男のこっち持つ夕暮れの窓辺 駆けつけてみれば魚の形の消し炭 同形・無数の蓋落ちやすくそこへ百足 僧苦しむ母体の梅酒が漬かる頃 未定の台地で星空のカタログ広げる 空き瓶に雷誘い込む版画 冴えるまで虫を少しずつ殺す ヒス起こす麗人の横掘り起こせ急げ 弱肉キ食のキカイのホシぼくまっぴらです 海馬と聞いて想像した馬海馬に送る 踊る肢体の操り糸バーコードに見え 庭の土おそろしく・おそろしく増える 大蛸の見える樹海のあたりが鉄 加湿器通し紙の無限を地下に叫ぶ まだ緑の葉を毟る老婆サンダル脱ぎ捨て 沈む石が星に届くまで水柱 鉄の腕輪両手に付け地面を押さえる朝くる この森月明で満たす折 木のボタン滑る 渦の木の北過氷にて薄い鳥 ピスタチオの殻割る女神の鋭い憎悪 歯車を避けて血走る目の芥川 低空に触れすぎた霧うわごとに消ゆ 火山に手紙を焼きにきて体って冷たいのね 錯覚のゴンドラ青信号に沈む 嘘で衝く海揺れるなら必要な靴 コップから茶葉舞い上がる女体すり抜け 鶴は村に落ち 鶴の根は北極を蝕む 摘んだ花の憐み今日も花瓶伏せ 人だかりから流砂、誰もいない町へ 雨は止まず洞窟に傘を差し 疲れた 分け与えた血を蝶番は錆びゆくのみ またいる君に草生い茂り一方通行 鴉漂う絵葉書の続き机この町 我が喉で全うとせよ氷水 炎天の亀キャラメルと取り替える 花失い壁画に孤児の不滅見える 踊る文字 遺跡の空欄に向かって 祖父来ず農地の爪楊枝に近付けとある こころ以外なにももたず砂漠に凹部 佳作の空貼り出され澄み渡り期日 チョークつまみ上げた風鈴の中だと思う おおやけに花鳥風月取り乱す 艶めかしくて浮かび上がる洗面器に長雨 泥舟作りかけに傾き泥からの出航 手すりがあれば地球の裏側にも行ける 図書館で透明に眠る虫の名前 かれこれ千年こまぎれの木をめくり続け 疼く胸にホーミー届くモンゴルは臓器 魚捌く右手押さえてくる右手 鳥でけぶる噴煙南へ日は北へ 日傘の陰から女の目が光る蛾の交尾 寒色の風船は牢 子供たち 九つの頃の九つの谷の思い出 苦心岩に渦と現れ歩行者吸引 商店街が天と地 逆手に線香花火 悪路にゴザ敷いて電子ルーレット回す一団 冷淡に吐き捨てるネジ 汽笛遠く 星座低い宿破れて何もない空 受け皿に砂糖盛り上げ相容れぬ ポテチこぼすベトナムの底の青き澱み 空に浮かび上がる雷ひとの形 ほんの二千秒霧雨たり砂混じりのため息 糸吸い上げる気流は親指にげられない 患いとは窓近付くこと子ども写る 通報者に鐘鳴る教会からミルク 画用紙の白は血を吸うたびに白 小鳥をして絵画の奥は二度目の夏 空気は船空気は船二度繰り返す 海どこまでも展示物の廃墟の博物館 砂と塩どちらが悪夢であったか舐める 避雷針まっすぐでなく ぼくいいなり 子供の声木立に谺し小雨となる 激流ありあまつさえわたる塔に月 死線漕ぐ手は女のもの男ひとり 麓浮上懐の時計二時を過ぎ 性を秘めてシスターなにかの水を撒く 冷蔵庫の側面ふと息つきトマト揺れる 線路錆びて夜の街濡れているという 建設途中のロビーで次の語り手待つ 妻は踊る 仮面を夫に預けて 崖で 魚の断面灰色曇り空小雨 流れる風景線となるまで小屋うごく 理解したい貝の海にする 夏祭りなんらかの劇くらさが観衆 薄目に切り離した片時を飛ぶユーフォー こころという漢字は島々とても海 パリから電報カーリーのこと霧深まる ミシミシ実が生る真っ青な庭 青空のスライド映るみんな昏睡 白々しく疼く毛 手前にゴミ寄せて 山深き頭痛にモザイクをかけて 彼の一度目の死 夕食は 青空から落ちた鳥 友達の母に焚き火の跡見せる 靴に雨いれて虚者虚者、虚者と踏む 猿が落とした果実も猿もやわらかい 蔓草ピタリと止まり中二階のある家 連呼して草原の上を吹きわたる 老人生き存え殺風景をかくのみ 霞破る舌なめずりに継ぎ目なし 近眼に花火打ち上げられ水溶 ガムの話カスタネットを打ちつ聞く 蟻の行軍今静かに狂い出す庭師 わがゆめポリエチレンのフタをねじ込まれはないき 田より出でて途切れる道 底から火柱 風前に待ち伏せていたあしあと 何かが石と化し杖となりの滝へ倒れる 村全部とはぐれてうろたえるほど虫の音 矛先の少年は劇を待っている 体温で溶けない土を島と呼ぶ 老婆うなりあう街角は氷山の容器 夕暮れ過ぎて夜になる前の黒猫たち 紙なかなか重ならないかざみどりの雨 日射の浴槽に 湯気なく 外を出歩く湯気 賢者の血を照らす松明向こう岸まで 天気図に愚妹押し当て銅線引く 鞄に灰詰め旅人塔遠くから見る 時が止まれる木を育てている砂漠の真ん中 零時着現地解散十九頭 立ちすくむ響きの行き止まりの野原 月にあるというドア刺さっているぼくにも 女こおりていわくお背中流しましょうか 成り行きに任せてもかなしさは拭い切れぬ雲 いくたびも通り過ぎやっと花とわかる 窓枠に手をかけ熱を吐く眠り ストライプのどこか引き都市の蜃気楼 蜘蛛の足空に消え空は朱にひとの朱 穴を掘り草を埋める土のにおいあとで嗅ぐ フーオフーオと七不思議 受信するファックス 信心は樽に空洞としてある 踊り果ててまたも音楽藁塚から 煮立つ湯を入れた鍋が背後かごめかごめ 九つ十しそのふりかけ舞い上げて 泣く子と鳴る子向かいあう杞憂であれと願う 武士自害してしまいフシギナキモチ 南へ南へ茂る森の北の蕊に帰る 重い石を墓にしようと炎の中 星のない溝に冥王騙る泥 冷淡に高地載せたり古新聞 昼引きちぎれるまで引く ボートの裂け目から 背を射す日百人はこのごろ長針 火を焚いた帰りに星を見て戻る 号令より水流れ出て逃げてゆく 眉と交わり天井を掻く壜の罅 展覧とは開く 切り開く 音もなく開く 河童溶けて鉄骨手を振るのみ園内 立体の森に潰されに川下り 滑車冷凍され動かずそこへ山が近付く 二本の陸橋翼に見立てるだけ入水 女神像内部は魂吹きすさぶ都市 床が這って外に出るあとは風の噂 黙示録もしくはモスクワ・モスクの符 皮膚感覚に画家の名を知る里巡り 水辺に口琴弾く広さあり花咲く ゆく先ゆく先砂漠 ビーカーの砂減らず 日の出に代わり進化の過程の無垢な部位 月面と脳の隙間を埋める逆立ち オレンジの中身の底で災禍巻く 氷点に集まりだす嘴・爪四本 村の中に帆がありはためく 川面引き摺り川の中に居一卵性 果汁の空に客人出揃い長年三秒 絵画並ぶ段違いに蹴躓く 透明に遠い南にさかさまに 静けさとは頁をめくる頁をめくる 眼鏡の水滴外して見るぼやけて星空 雨に青い花畑は誰かの記憶 まろき我が妻は蛙の父の目だ 遅れて来る 古くさびれた息 谷溶け 鍵穴に最後の留守を告げてゆく フラスコから身を投げ寺の鐘を打つ ピリオド発光内側から蝋燭の火がある夜 木琴が好き放課後の音楽室 花の緑を留めおく睫橋の上 谷底に落ちたしるしの頭巾深く 砂分けた路面が溺死者の軌跡 茎あれば折ってこの世にあれば吹く 脱走して豪雨を見上げている駝鳥 コルク栓探す目に風船吸い寄せ 別冊を暗唱しつつ掻きむしる 目下の公園触れることすら緑になる ポスト冷ます潮風、震えている 光るものは太陽以外のブローチ胸に 傾く通路に並ぶ女らの恥じらい摘む 金具バラバラと落とした空手に草原を抱えにいく 頬を伝うスペードの影月光浴びて 滝のそばで膨らむぬいぐるみの静けさ 想像上入り組んでいる鯨は筒 生まれ変わる前に貸した三輪車でやって来た 髪を外に垂らす日の夜の長い髪 船寄せて星からなだらかな密度 雨ふるこころに稜線潜り込みけぶる 黙る過程に墓標あり血縁で繋ぐ 予定地にただ在り無数にある木箱 縋る影に浮遊され日向まさぐる本体 吸い込まれそうな目の鏡越しの私の母 向こう岸の縄を力無く絞める 望遠鏡折れるまで押し当て故郷にする 発音の妨げに雫 石を打つ 土台の蛇腹がどこまでも伸び成層圏 一辺をブイ埋め尽くす港町 風吹かずさては無人の倉の中 幹にたかる子供ら既に一部枝 夕暮れのテーブルの上に大歯車 誰もいない昼日に一度夜に傾く どこまでも巨大な川の字の一画 火を隔つ窓に照らされ痣を見る 屋根に垂れて足りるインクあと西に沈む 弾いている鍵盤に指輪置く婦人 書は棚に慄然と収まり雷雨 骨を糸で吊し・持ち・叩き野を渡る 都市群の残像をゆくタランチュラ 板焦げて以後数世紀山かくす 少女の靡き遠ざかれトランプに見えよ 金魚の今日の無言をぼくの明日とする 沼溶けるとは広がる瀬をうなされ歩く 水溜まりに溜まり火噴く 大切にかざぐるま落とす井戸の底 鳥の背を照らす実の生る枝は爪 餌氷壁を滑りゆき生き物の管へ 椰子老いて鞠に倒れる風を待つ 誰かのビデオの屋上を晴れの日の電線 打撃受けた胸像から飛び散る球体 空白の白のみ埋めて空にする 目に見える透明をくらやみにさらう 十字路滴るほど赤く頭上に滴ってくる 壁に乗って花の柱を見上げている みずうみとまぶた重なり合うまどろみ 虫の音に噛みしめられて向く左 逃げ来た豚立ち上がり我を干すかの回想 風景に溶け込む、手から紀元前まで 戦火の町を逆立つ栞終わる話 耳うちの最後のものは土をうつ 先に夜になる鉄塔に着く頃の夜 女子神々しく砂漠に石置くや否や舐める 水流れる名が割れて偽りに眠るとか 民家壊し黴の滅びを悼む式 角をビルより高く見上げて鹿がいる 壜色に無心去りゆく胃にコーラ 走るひとの体 海沿いの板に吹き付け 行き止まりで荷を積み替える馬は焼く 長ひとり灰や灰やと祭りの贄 通路に立てかけてある障子が和室である 巻いた白紙に腕時計して正午知る 嘶きが届く遠くの村は夜 司教が柵を出るそれまでの恐い蛇 糸あっさりと天を衝き静かなる燃焼 鳥ら遊ぶ糊の湖の低い空 カサカサと鳴く魚枯れ木に漂う 絵の両手に持て余す渦模写間に合う 這う背中を受話器にくわえ込まれ通話 都市は踊る新鮮な肉を運び入れ 長い息を兼ねた鍬振り下ろし吸う 待つひとに姿を変えて座る跡地 塔燃えて白くなる太陽がまだある 蛇を吊る枝揺れず山の球体指す 身を乗り出して雨に染まる 指で擦った友人、夢に病んで現れ さて靄の話だ子供らは出ていけ 抵抗を失い夜のかたなみを滑る 今にもくぐりそうな椅子引き摺る素顔丸めて 逆らいに河原へ殺伐と来る列 絶食の蜘蛛いて緑に染まる予知 吹き集まる砂軽がらせる蝶に下垂 息を止めている膝の上の池が冷たい 薄い封筒重ねていく青ざめたスクリーン 花うしろひらく色すみればたふらい 水面の鳩分裂し沈む石 絶えず笑う女と袖を結ぶ習わし 搾られる以前の果汁内包する墓 雨に浸るきれいな金属身に付けて 歩道と同じ色の目隠し幾人かはして 切り株に住んで餌食の山羊になる ひたり月が出る秋ひたり 人目となり柿の実・種の暗示・に刷る白壁 あわれとは海のこと泡立つ 一点のくらい星からピアノ線 こめかみに波感じ岩穿つ過去 饒舌が上向き赤い餡の陥落 農村に正しく立する立方体 四人が囲む四角が輪の天使逆さま 千年の瓦礫の移ろいシールで塞ぐ 沈没する船 ひとひらの葉を乗せて リビングの頭数合わせ兆しの門 回る波は肉体を穴とし暮れる 欺く地図逆さにし折る鶴の形に 光る雲なんか見たことない黒い水の排出 やまくさかんむりさんずいへんひとはしらはし 町並みを星が遮ることもある 渦なれどなぞるには感覚を要する 硬直の前に何を見たか泡立つ 輪を断ち輪を接ぐわれ輪の中にも輪の外にも 赤い風呂敷から手だけ出し石の撮影 仮定する道照らされジャングルジムの形意 足を抜かれた靴の広い靴底にネジ 巨木海より大きければ宇宙と戦う 異国まで繋がる天井から雨漏り 大工失せ淡く艶めかしく住宅 橋切れて間もなく無心が堰を切る 記念碑は棒黒き棒手の長さ 鴉の影澄んで小川にさしかかる 紙束充満する部屋開けよとテレパシー 波ぶつかる親指反らしシャッター押す 向かう先に懸かる三日月閉じ括弧 凍った背筋まっすぐに寒冷地果つ 流域に微笑むかしらがのお婆 湯が森にしたたる空の背中から ストーブに寄る祖父千度目の感応 逸脱した章の一部に爪を下ろす 濡れかかりに廃墟を突き出るホバークラフト 眩しい森に浅い眠りが漂う燃焼 屈折率増える斜面の透明に寝る 補助輪異常なほど空中で回転している 別紙に秋の記載あり茶碗砕く風 室内楽脛のあたりを流れる川 垂れ幕引く中央に射手座の男 みなも過ぎ駅で砂利を噛む一連 足折りたたみ影蒸す ボトルに水貯めて動かす砂漠のそば 小鳥のつぶらな目 鳴くものはみな道連れ 鈴着けて水向こうに汲みにいく水 舌絡みカラカラに干からびる雛 接点が円錐となる生きた鮫 七色の跡形残し滅ぶ国 樹上は空木の輪行き交う無人の空 心臓の裏から散る紙吹雪赤 時差で今発煙筒を挙げている 刺した画鋲の並行世界で画鋲抜く 引き裂く手の感覚思う丘の上 人魂がある草原はずっと青 何を思えば月のように浮かんでいられるのか 奥から濡れだす洞窟幼い頃の頬摺り 屋根の斜めに切り立ちつつある大遊び ここらの土濡れて湯気立ち永き石の萼 応接間ひとの息で吹き改める 枕元に雪の穴 光る灰漂う 口裏にあぎと置かれて糧蝕む 羽毛おどる路上に紙丸めて置く子 機械の流す血をわたくしらの背景とす 三日月二つが一つの夜に零を示す 森の芯黒き円柱の痛みを覚え 膨らむ肺廃墟の向こうの空気減る 乙女の灰の首電線が隠している 寝室の一個のメロンと化し誰か 高鳴りを口述して断つ男の音信 パネルの群れ従え死す鳥パネルは北へ 公園にノコギリ引き右肩に担ぐ 模型都市あらゆる白い布以外 鉄降る夕方ガス立ちこめ手探りの赤目 眠りを這う温い蛇舐めた目さめて黒 ふめつふみつ砕くいずみ不滅に鳴く鶴 日光を阻む肢体の胴を抱く 大綱を掴む土崩れると本にある 十字の仕切りを押し割る鼠の二度目の胎動 悲喜覆う両手で分け肌色あるのみ 浮かびくる背中浮島を囲むべく 折り紙を回し読みしている窓の近く 王を発つ痣の木の客夕闇へ 点々と野菜を切りしたためる手紙 島の傾きと海の接点に果実の雨 墜落現場の向こうに喪服がある傘を差して 星の塵水より先に跳ね上がる 浅く編まれて籠孤児院でいつも揺れる 閉じた戸がある態でうずくまる隣人 牛内部にハサミの冷たさいずれと今 通知玄関に溶けている朝の日差し強く うなじ洗う何も言わず 砕けてゆく舟で 縦に長い穴ですれ違うぬくい犬 息整う窓にうなだれ来る竹林 海に近い頬へ甲羅の痕つける 白日に広げた天井すぐ遠ざかる 沈黙に種一粒一分が長い 弓引く時震える空気を獲物も吸う 壁にペンキで書かれた円から泣く子の雨 人の個体以前に桜があった場所 目を閉じれば生き血に浮かぶ笹の舟 水も空気も透明で綺麗で水没間近の村 湯気につままれ目を打つ波に冴えている 溶岩となる日の斜面を踏みとどまる うつむくと月 川が流れていた ビンの底を舐めていた藻へ滑車が絡む 五本目から先は霞む指中国の歌 窓の外はレプリカの膝の隣人だらけ 笑いに肩を震わせ胡桃押し破る 水竜は爆ぜてなくなるまで命 館に来る鳥通り過ぎて知らぬ枝 僧が坐していた場所の砂を払うと書 部屋の薄暗い日付けだけ濡れているカレンダー 逃げて肉塊に転ぶ犬等間隔に 明滅のさなかに五千億の有無 煙突の代わりに屋根の上の兵 潰えた光が流れて障子を叩くのよ 霧吹き出す亀裂無数にありアーチ状 血を凝結させる猿の類は石 赤青に目の色変えて曲線さらう 鏡のない部屋で山火事を知っている 三角の絵の前に浮く栓から泡 においする村を静かに人呼ばわり 土壁に脆い鴉が鳴いている 空席の朧に縋り尽くす妻 友の内側に鳴り響く湖底があり歩こう まだ落ちてる試験管ならもう閉じてる 蜜から糸持ち上げると粘り強くて針 屋根の空に野草の星座を打ち動かす 腕の形の石器多く立ち惨憺たる林 穴穿つ墓に紐通し運ぶ予定 砂漏れてこまごまとしたものを買う 歯茎の色した蝶憎い憎い隣人笑う 三つ葉挟んだガラスの残りの透明で池 深追いして積み木刺す古傷と違え 根をかいくぐる首 体は踊らせておく (ここから2008年) 熱帯地方の金属彫刻熱帯雨林ばかり映し 常に標識に顔隠されここまで来た叔父 長く伸びる区役所から轢死者運ぶ カステラの断面に腹部から車線 砂巻き上げ騒ぐ海ひたと光に遭う ラジオ壊れて六歳児の名を呼び続ける 指の腹を故郷に向けて押しとどめる 雨に濡れた前髪に目と水たまり 本当は白い青葉を冬に透かす 怯える者の指をくわえて走る北へ 瀕死のサイ正しい人を見ている ひとつしかない窓開けているひらひら 水見つめていた鳥の羽を配る もう片方ばかりがある暗い朝の街 うつ伏せだと背中で雨の象が来る ベンチから滴る乳塩工場汚す 炎逆さに分野を逃げる列の足 海に腕広げて他人と化す 、波だ 雨よ慈しむよ匙で土曜日の窓で 倒れかかる踊り民族の個は柔き針 ひとりと椅子二脚削り出す岸の岩 屋上にワニとハシゴを隔てて住む 幽霊の足を探す沼いま放電 ザリガニ来てかなしいさかなしいたげる 港で毛並みのいい犬が火を吐いている 母屋の息苦しさと隣り合わせ箪笥軋む 茂みの兵に気付かず船膨らみ撃たれる 揺らぐ門の前に立ちペットボトル覗く 細かい交差の中火となる鉄幾重に伸び 焼け落ちていく餅今目のへん過ぎた 濁る螺旋を滑る歌いながら肌の褐色 暗い天気に仮名を振られて麻痺する花 森が常に奇数であるよう斧を持つ 忘れたい夜景に浮かび上がる茎 離れる小島の隙間を海で埋める腰 電力迸る商店街コロッケ片手に 島食べられたクッキーの食べかす海底へ 引き返す牛の肋骨Y字路に 家ほどの粘土くり抜き帰宅する 庭先の本当の先が風を分かつ 船見えて眉間の鉄を迂回する 帽子逆さにして晴天をうろうろ日没 緑見たことある目の数え方倒れる 橋の霞無垢ですガラス熱されて 透けるまで薄着して森のわたしためす 集まる紙風を背中でせき止める 不審な針を持ち歩く動きを落日に焼く 筆跡集う闇市に服着せて隠す 雲が昨日工場を飲み子供らの嘲笑 羽根付き自転車こいでばらまく鋭い籤 空樽転がる群集に粉々に踊る 液連れて貝の底まで沈む旅 丘の色がラベンダー切り落とされた舌 兄の名が貼り出されている狭い道 青空からアスファルトに金貨多数置く 枯れていく音が聞こえる木になりたい うつろな目をやめる日に傾く紅茶 薄い家に無用の柱が立ち尽くす 女囚らの熱で溶けゆく看守川へ 眼球重くふらつきレールの緩やかなカーブ ベッドの脚照らして呼吸するカーテン 片顔の風通し四角く箱黒く開き 頭抱え合う誰とも分からぬ暗闇の骨 住宅を黄緑の木で組む憂鬱 柱研がれて朝焼けの六対になる 思い出の本に無くした腕の跡 肺に達する狐を揺らして教会に行く 重い気泡徐々に浮上し階下で弾ける 熊の手を熊から降ろす階段長い だれもかも老いたる竜のそばの一滴 水を薄く伸ばして頭の後ろから入れる 紙折れている方にあるぼくの部屋 牙がシートから抜けない振り子を眺めている ベーカー街ある日の塵飢えていて紫煙 電気信号阻害する沈黙狂気は机上に 血が分かる姪肉親の向こう見る 谷底から電球吊す強い風 路地裏からカクンと降りてくるレバー したたり足りぬ雫枝を押し破りぱらつく 喚び声に似た舵で突き上げる海 砂糖分けて市が見える砂糖が気がかり 車輪虚仮威しに回る タオル引き寄せつつ 月のない家の息に浮いている窓 本取る不快な仕草からひらがなひとつ 四角い仕切りから踊ったままの少女サークルへ 供物の書開く度開く音疼く疼く寺院 接続部位死ねば友の思考に割り込む糧 湿布の群が河となり流れる岩沿い 市が粒に見える坂の天辺から粒 目薬流す工夫ら大穴広げつつ 氷齧る音が脳の透明に響く 結末に亀の甲羅を置いて這う 忽然と人形の目のボタンで締め 恐怖を見た魚の形相海は滑る 眠り運ばれ瞼はためく風の町 銀の固形の胸に押しつぶされ橋消ゆ 山脈の残像手にある或る日の巨像 手に薄き令状背はこすりにごらす 女は女に囲まれ死ぬ建築になる 斜が正解か滓煮れば煮るほど軽む字 涙で打つ岩のきわ弔いのため 目から上切断され揃う土偶の空 淡い雲の迷宮組み直す日和 パンの籠匂うバターの道すがら 篝火に最高齢の降霊祭 天秤の受け皿になぞられた跡 白昼に銅絡め取る蔦の息 膝の海部屋に広がり旅客立つ 口述の街は一個の倉庫黴びて 心臓漂う海岬見え低温の牢 もてなして帰すまでずっと砂だった 息切れが淡く塗られて城浮き出る 窪みに溜めた蔦で暮らす絡め取られながら 浮島流す上流に敵多し明滅 太陽連れて坂横切るスクラップの車 怒号響く鐘の中 本当の暗部まぐわう トンネル進むごとに光る夏の雲の輪郭 花びら抱く女性に主砲から花びら ラバーが通じない敵兵の体を去る 鳥を新鮮な卵に置き換え輝く家路 十二時は塔の形に欠けている 歩み寄る足何重もの蛸を傾げる 裏返しの蓋幻の上では無限 迷信探る手に杭が触れ聞く笛どこから 瓦礫と郵便ポスト白く白く輸入 歩み寄る 影で谷底汚すべく 伝え聞く神話の沖にブイひとつ 島に立ち残像から残像見下ろす 和紙の空二重に見え足首から見た まだプールに飛び込む音が聞こえ月光 斜面進む歩幅にコップ隠す野火 声帯を駆ける子ら幾条の雲 ピアノの色目障りにガラス挟んで二者 溝洗う雨賑わいは消え鉄杭 綿毛に乗って理由が来た口を結んでいる 巨大なレンズの下に牧草をはむ牛 金属板の歯をガムで埋め幼き日 滴りを遡る昼下がり留守 一体どこから来て十字路が四角になるまで 海を降りてゆく降りてゆくのみ 明るみに駒ひとつ無垢にして孤独 家が水平に動く手前の枝の鳥 髪撫でる冷蔵庫上のモーター付近 路面に画家画布を掛け長き縦を長くかく 雨を待つえぐれた頬塀から突き出し 銀河身の投げようもないほど暗い 影ひろい大木おもう紙のこと 大円盤の片鱗星座と触れ合い光る 裾千里ほども隔たるぼくとほか ずっと昼ハの字アンテナ直下の学校 致死量のストローストライプとぶつかる 秤が傾き着く道くらきランタンの取っ手 右に左に月 正面の詩人も月 岸は二つ地球の裏で出会うため 砂を開く手がついにこの身に及ぶ 鉄板欠けた箇所の空虚に住むと窓 歌は悲しいどこまでも響きわたるから 瞼で閉じてみる炭化したピラミッド 実体がない街の反映に畦 河で洗う遺言もとはある階の粉 足首埋めた砂漠次の一歩は大きいぞ 石積んだ柱しがない足の霊 土煙もうもうと毟る祖母隠す 騒ぐ賢者の金切り声国境の禊ぎ 一説には窓である茎暮れだす町 うつむけば夜の野原ひとり歩く誰 消えねば風鳴る 消えても風になるばかり 足首しか見えぬ石段からコップ 鏡からせり出す背中森に行きたい 塩の塊だここまで転がってきたのか 撥ねた髪のような飛沫の突端で聖歌 犬は満足の声を上げる生物のいない海 殺し屋隔てる毛皮一日中撫でられ 印を破らず抜けてくる指わが胸を差す 窓枠を踊れる術者ごと外す 弟を納める陶器の箱に黴 篭手の紺降る 図面に雲の影として 右足釣られてぶら下がる頭に遠吠え 階層壊れて飽くまでの接着剤の粘り 密度見る立方体の中で気絶 りを崩す細く長く遠い雨脚 知り合い現れない明るさが円を描く 父の筆洗えば洗うなりの雨 かなり良い出来の空を運ぶゴンドラ 打ち砕く岩の欠片の偶然も打つ 波よ波よ死せばただならぬ鼓動 車が停まっている棚の本の空いている床 傘を置き円筒ばかりの市に立ち会う 人魂を避け街の橋踏み外す 土の色彩眺めている川の字ぼろりと落ち 人間の肌と海の図ずらすばず 胴体振り乱す少女の両頬に壁 山に打ち上げられた魚死ぬのは山の方 野原の類へ溶け出す球根逆さに浮き 回転木馬の前で悔やみ黒くなる回転体 火の中に火はあり憎みあうとか 愛する町にただ一人沈黙が住んでた 黒い耳の半径を兎は屈む 打ち振るう眼差しを漕ぐ海まで 足首まで時計の底の浅い闇 供養まで金属音が犇めく幅 薄いフィルムを重ねて整う雲を踏む いずれ墓となる風の中に茶封筒平たく 淋しい腹話術を操る空洞そのもの 騒ぐ火空に馴染み食む噴出口を北に 板張りの床反り返る双子を抜け 憂えば街は閉じられ日没後の表紙 工場の窓に万力つけ口吹く ビン持つ手と逆の片目に格子戸ひらく 字も画数もやたらめちゃくちゃの雨が死んでいた 互いの足に見立てて砂を踏みにじる 空と同じ形の紙踏む長い竿 絵の西は裏側に折られてピン刺す 勘で結ぶ土の上の鉛筆の線 いずれそうなると呟く隣人鞭しならせ もうとっくに眠りから覚めて平原にいる 目に容れる湖頬を火花ひとひら 包丁拭く部屋の四隅にレモン伏せ 逆恨みにバネ飛び出す村長の家 凭れるとは犇めく歯並びの白さ 枝葉滅びの線画をただ水墨に切り打つのみ 自らの風紋を解き砂うしろむ 台座の底と棚が野営の光を閉じ密着 身を削げ日だまりは指し示すもの 牢の革の袋に乾く舌を出す 木がみしみしと呟く 月齢を取り込み 雑居する密度が裾野となる火山 激流林を抜け竹を燻す夜明けに突っ込む 不燃の沢の正体見たり束の伝票 岩抉れてバッタは森を振り返る 庭園の壁寝る開祖に沿ってある 池の水なかから見るのこぎり持って 苦笑して疼く種絵の蔦と馴染む 直射日光こんなところまでさっと桶が出る 眼帯から内へ鏡向き共に痛む 道に取っ手があれば振り上げるのにつまずく 糸託され過ぎて遂に滝跡に靡く 箱からガラガラ蝶出でて幹噛み切り擬態 風でたわむカーテンに置く未完の腕 本たたむ苦しみよりも遠い堰 街灯の音積もる置き方のガラス 牛の背を蝋が素早く駆け上がる 金属の槌で打つ脈長い琴線 川何度決壊すれば染みになる 蜃気楼の港に棲む体毛薄き猿 鍬を捨てる恥じらうほど山が近い 水面に枝吸う葉また葉の降る音 遠方のドアノックするシャボン玉 花の籠実は籠売る籠売りも籠 造天の深みに澱む書の類 陸の端釘で留めひとの形の紙 銀紙にうつしつつみつつつみ捨てる 風穴を貫く橋撓みすぎて円 複製された山の方から遠い山鳴り 密室の明るさに輪郭がない うつ伏せに鳴る亀春の軋む岩陰 群れで来て渦中に片足ずつ五本 密室あく閉じた街に地の底から塔 蛙の白い舌が頬を抜け触ると濡れていた 地球儀常軌を逸し始め児童ら旋回す 大豆と化し川に降る剥き出しの若さ 両手を挙げなおも細り線だ星の夜 泥塗って証す桟橋より遠し 夜空研がれてしまうビー玉潰れてしまう 列につく羽ある係から鶉 時雨の色を尋ねられ戦慄く銀行前 舟作り海ひけらかしに発つおとつい 鳴きもせず竃のそばをうろつく山羊 産卵終え肩からだらんと垂れる鳥 染めたての布かぶせた陶磁器に汽笛 崖に合わせ破く写真のバルコニー 路上に滴る光 愛娘の異様な突出 微睡む庭の窓割りケイ光灯で照らす 海峡まで樽押せば樽だけが浮く 部屋の隅に水で空かく革紐かわし 風向きに短い戸は蝶番で回転 あわれ人波鳥らに啄みつくされて 雨浴びるしばしにスタートボタン押され 灯台・輩・に強い邪念 希有な彼の死 雲からの距離吹きすさぶ部位は肺 金切り声聞く周波数が合ったガチョウ 澄みゆけば城じつは池石を投げ揺るがす 火改め菱形宙より蝋を焼く 農夫の木型に今は熱帯魚が住む荒れ地 女将輝く川面の波紋そのままに ビーム猿の頭上を過ぎ遺伝子に傷 樹木からの二本道羽根のようで飛び去る 消しゴムを触角で撫でる虫の聖 果皮を慰む婦人の横たわる裸 心臓から森取り出し足の数で密林 扉平らならば綻ぶ連れの肩 膝も突かずに牛の気持ちになる動転 大気にそそり立つ釘灰の昔を刺す 匙一杯の砂に申し訳程度にカラビナ 老い細長らえる女優逆さに鑿で打たれ 袖に響く螺旋階段と火柱 無痛示す茎真っ青に横たえる 代われるものなら観覧車から降りられない 空行は道であり無であり私用で通る 二本の紐垂れ下がる滝を望む前進 見知らぬ獣の爪に火が灯され灯籠は流れ 鎖が切れているどこかで窓が割れ錆の一端 ただひとつの瓦礫もつづらに階段跡地 回る車輪しょってやっとスカラベと互角 塩跳ねる地中に空想上の船 迷路の出口に影射し火種を踏む花嫁 仄かな雨後銃弾なめらかに溶け出し 溝を削りのぼせた眼の収縮に蛇 街の外れにある鳥のペダルが剥き出し 芽を摘む未亡人の横顔が一辺の長さ 抽斗をずらして指を置く綴り ナで始まる不吉南京錠落ちる 影絵に四角くある共振装置への慕情 なくなった像を拝んだ跡まである 刺せば立つ家路で待てばバスが来る 賽振れば石となる河辺に食い入る 配布が始まってる駅でチョコレートを炙る 畑挟んだ家の一室まで干す包帯 双子宿す月 影を介して撫でる 打って砕く氷廊下を乱反射 牧師と密談して呻くという同類項 苦境にいて佇む模様の堰捻転 色ですら揺れている地平のワンピース うつしみに来た水辺に村が浮き彫り 管を通る水冷蔵庫の今下抜けた 昼に面した明かりの店室外機三つ 小石靡くもう小鳥でも構わない空 土ならす日を浴びて花など咲くな 高熱の死角に触れる鉄の釜 目を閉じてかかとの文字を読み上げる ちょうどこんな形だった厚紙謝意に焼き 菓子折り持って歩くには手が長すぎ炙る 枯れた木離れてもし婿がおればその分横たわる 下流の酢のコップ透明に通じる現世 光沢する婦人昼より明るい悲しみ 名の書かれた表紙に意図して燻るリス にゅっと街灯突き出し分離帯の剥製 壊れた車が来た本当は明日来る迎え 翁火花発し歩く極逆流分子 骨からバラバラ鉛筆の鍵括弧を剥ぐ 裾持ち上げうたた寝に足浸す橋 泰山の動画へ水を取りにやる 耳を塞ぎ見る川の向こう岸這う雌 双躯光らせ草原を駆ける馬 ズックに詰めてまだ余る帰り道を踏む 公園抜けて園児等見る二段底の干魃 棍棒のより重きふくらみを持ち吸う 牢で漉す砂糖の所在を感触に試す 四つん這いに霞吸い寄せ門となる 受粉の兆しに刃を研ぐそこかしこが暗闇 邪念は槍手に取るまで紫の草 これより先メガホン朽ちて百足棲む 角だけ漏斗から出て馬の肢体の痙攣 手記破き男の口にあてがう穴 螺旋の熱が紫 気球からも見る 未来の山に匙打ち振るう医師の出土 体に馴染もうとする液体で我が尾の透き通る川 鉄老いてなお跳ね返す日の無音 たかだか足二本互い違い田の真ん中の青 手話を通じて雨を見る知らない町にもいる 不眠のまま寺でやつれて縄薙ぐ民 棍棒振るう逆に釘刺され光見えるまで 藪薄く風船になるほど集う 三輪車に照らされ花を束ねていたゴム のちの世に現る大つむじへ遷都 空洞に発律した胸開く響き 絞め終えた腕青紫まだ蕾 円盤消ゆ数年後の同じ景色へ 生命に結ぶ糸縦穴に垂らす 白夜の森に吊られたくす玉鈍く映る バラ売って轢かれる多重交差点 未亡人の夫間近に嗤いに来る ガラス多く立つ光を通さんがため 鳴く缶ひとりでにへこみ港へ着く風 積んであったというビー玉迷いの数だけある 岩陰にせり上がる岩互いを射す ビニール片吹き出す溝のない町 手から容器にインク移す膝と土汚し 寝る少年の足吊る紐の長さも少年 河となる縄滲むまで続く雨 すこしやすむすなやむすなやますますむすめ 逆光の糸散る祭礼夕濁り 竜巻吐く自分が遠くにいる鏡 一睡も斜視に塗れて虎燻る 水打たれ倒れる薪 街の火がゆらゆら 反射面多彩に円をえがき地階の水 風に旗食蛾に耽る部下隠す 意中の目からビーム・矢印・分母より増え 鮮やかなトラック走査線で歪む 薪割りはひとの力支点をまさぐる二の腕 槍立てばお椀も立つ民家深いつから 先に閉めるドア実体のない来客 球状の塔を落ちるまで登る 火柱に似る馬 門は北に錆び 藁積んで少女も風も廃れゆく 薫製を無地の家に詰めたい眼差し 千の束凍てつくそれから朝食 テレビザーと鳴る髪流れ来て巣の鳥 土焼く茶会と皿ともに螺旋状に浮き 仙人まで映像ずれて連なる山 月曜の名残のサンダルまだ路上 水塞ぐ柱の元の木は国境 ほぐすとばらける花忽然と船現れ コウモリの暗さに水垂らし洞窟 留守の木植える日を避けて豊かな土壌の留守 降り出しにうずくまる背を滴る石 姫が繊細なこころを殴っておしまいにする ビル食う 草の巨人 林業はさぞかし 火の元に花咲き火の粉が列なす河 泡雪崩平野で拮抗する海女へ 叔父半身窓から反らし弦を張れと言う 幾重に星を重ね光彩の余剰に球飛ぶ 金輪際誰も通らぬ道路の電柱 想念おそらくは百貨店のモーター音 迫害の麩を転がすもし隣人なら 境界線で軋む枕芽吹きの憂き目に遭い 炸薬踏む足に前世迸る痣 野隠しに砕けた絵画散りばめる 夜をゆすぐ荷を震わせ白い布切れ 口笛鋭くハム裂く望郷とは無縁 煩雑それは死それは手ぐすね木桶に転ぶ 奇声を天に衝く鳥落ちては避雷者と散る 水草揺られ際で擦る喉元の像 切っ先またせり上がりずいと茶の沸騰 螺旋階段降り無音螺子が落ちるまで まじない交わす曲がり道射す日とがらす影 振り子の振り幅そっくりに積むごみの管 鴉の纏う銀朝焼けの一カ所に脱ぐ 家族ローソク持ちビルから材木突き落とす 有無の調べが聞こえる窓辺の連続写真 植木刺す刃物が周回軌道の一 樹層の倦み疲れた滴りに 裂かれた蚊帳 点と線で表す意志を門で閉じる 老婆海から目に爛々と青き祖父の名 社撃ち抜く時まみえる血が痛む祭司 布告なく近付く猿紙で叩く 果てしなく粉塵交差の鳥消える くまなく障子戸の存在を許す離れ 夜も舟も泥ならば沈みくる寝床 プリズムの殺意を知らずアリジゴクの招き手 岩陰から蟹のハサミ死ねばいいと揺れる ブラシ運ぶ手はうなだれ海突き破る 軋む階下に歯車あれ油で滲む指示 空飛ぶなどと口走る箱羽毛散らし 視界に花咲く咲き終わるまでの直立 四角い黒枠在りし日を中空に割く 車上の一人は猫背から白い炎を出した 幾重の枝と落ち不死鳥微動だにせず 足上げて見える営みへの道照らされ 生き血を啜る窓・窓越しに窓擦る狼煙 這う家族の幼稚な歌声に霧さす 丸太夜明けに兆候をかくす縦回転 自分の靴すら踏み外してまた靴に着く 遠くの塔から線を引かれていて動けず 寝くびり殺す屏風散り散りに化身の蝶 三度の飯を三角に並べて呼ぶ声 水張る桶に垂直に竹槍背後尖らせ ナッツ噛む海辺は巨大な透明な墓 迂回して絶える血筋の脆い煮沸 傘潰したトンネルに死後鉄パイプ詰めに 泡に寄せる身もあり投打を漱ぐ町 どうせわたくしが悪い看板の裏で十字切る 汽車・鉄塔かすむ風微塵になる身で乗り出す 鳴く山あてがう口ならば岩の味を絶叫 這うわたしの真上に建てたい大工の接近 弾き語り割れて町中の爪疼く 受話器垂れている急ぐように蛇口の滴り 湖底深く転送センターありまた細波 里を泳いでいた魚に川着せに帰る 痺れる下敷き数多く金縛りの目に 孤児の前で囀る猫咀嚼をやめず ナッツに角張った羽根あて回る人体 露と雷結ぶコーヒー冷たいまま 鳥には死が見えてるヨーグルトを混ぜる 集まる人々兜々から下磁石 聞こえる穿つ音星空に連結する 鴫死す幾たびかは女の群 戸がある不埒な佇まいに兎の介在 風に晒す砂の柩の航路に蛾 雑な渓谷横たわる眼の下から吐息 疾く運ばれ溶ける緑脳裏で阻む 火の姿で戻る故郷の大松明 爪先わずかに家庭科室に触れなき声 憚りなく寝屋に向ける泡の柔き丸み 疎ましさから影 石寄れば寄るなりの暮れ方 討ち取る・撃ち殺すにしても動悸に忍ぶ壁 バネの内側掴む片腕以外は思念 波憐れむ姿勢ごと刺す茨透けて 積む石雨風に晒され反る木 遠くの家々が矢印だとしたら青空 衣着せる木がもうない静止した街 起きてすぐ小さなコップの番茶に落ちる 大火柱水柱に揺らぐ虎輪をくぐる 門番の像はまやかし息が色 反対の島の天向く根に鷲絡む △