BEFORE

「身代金」のすっきりしない理由



まず第一は、メル・ギブソンの父親の常軌を逸した行動。ストーリー的には犯人に身代金を渡さず、賞金として犯人を脅すというのは面白い。ただ実際の親が愛している息子のことを思うなら、とうてい現実的な行動とは思えない。最後に偽の小切手を渡すのにしてもそこまでするかという気がした。
 次にゲイリー・シニーズが悪者だと思いづらいこと。「フォレストガンプ」ではだんだんといい人になっていき、「アポロ13」でも宇宙船員を導くいい役をしていた。予告ではてっきりいい刑事だと思ってしまったくらい。しかも子どもを仲間が殺そうとするのを何度も阻止し、さらに父親との電話で逆上してもまだ子どもを殺さなかった。しかも金のためとはいえ、最後には仲間を殺して子どもを助けてしまう。こいつは本当に悪者とは思えなかった。
 そして最後に二人が携帯電話で交わす地上の裕福な人と地下の貧乏人の話。実際メル・ギブソンが地上の人で、ゲイリー・シニーズが地下の人とするならば、自分はどっちかと考えた場合に、自分は決してメル・ギブソンのように裕福ではない。そこでゲイリー・シニーズの方につい感情移入してしまう。最後に無事に子どもを帰したのだから、400万ドルはただでくれてやってもいいのに・・・。もしかしたら「天国と地獄」が脚本家の頭に少しあったのかも?
 この三点から、最後にメル・ギブソンがゲイリー・シニーズを撃ったのが例え正当防衛とはいえ、すきっとしない結末になってしまった。
 この映画において、誘拐された父親と、誘拐した犯人の力関係が逆転している点が目新しいけれど、そのために非現実的で納得行かない結末になってしまった。