Spring Clipping | |
難波 (シテ)前・老翁、後・王仁(前ツレ)男(後ツレ)木花咲耶姫(ワキ)臣下(アイ)梅の精
「難波津に咲くやこの花冬籠り 今を春べと咲くやこの花《の歌を捧げた王仁(おうにん)天皇の霊が木花咲耶姫(このはなさくやひめ)と共に現れて、難波の帝(仁徳天皇)の御仁政をしのび、廷臣へのねぎらいとして舞楽を奏で、木花咲耶姫は天女の舞を舞って聖代を祝福する。「高砂《や「弓八幡《などと同じ本脇能物であるが、後場でシテが「楽(がく)《の舞を舞うなど趣を異にし、扮装においても他の脇能物とは相違があり、特に位(くらい)がある。後シテは「大悪尉(おおあくじょう)《の面をかけ、鳥兜(とりかぶと)をかぶる。【170205定例能より】
※脇能物・二場(2時間)/作者 世阿弥(一説)/季 春(一月)/所 摂津・難波
※作り物 羯鼓台(作り物を出さない演出もある)
※「難波の梅《ともいった。アイを里の男とする演出もある。後シテは外国人の王仁なのだから、悪尉の面をつけて〈楽〉を舞うのが本来である。現行観世流では、邯鄲男の面で〈神舞〉を舞うが、これは後代の改変である。
鞍馬天狗(連吟)
伯母ヶ酒 吝嗇(りんしょく)な酒屋を伯母に持つ酒好きな甥が主役です。御機嫌伺いに出向いても、伯母には一度も酒を振る舞われたことがありません。今日も周到に作戦を練って、一つ飲ませてもらいたいと迫りますが、売り初めが済まないのを理由に頑(がん)と拒否されます。帰りがけに、近頃人を食う鬼が出ると言い置いた甥は、風流(ふりゅう)の面を掛けて鬼に変身、酒屋に戻って伯母を脅迫し、念願の酒にありつけました。しかし酔って静かになり、正体を見破られます。【金沢大学人間社会学域教授 西村聡】
※集狂言・親族物/人数 2
※前半はせりふのやりとりを通して二人の心持ちが中心、後半は動きの多い型が中心で、変化に富む。初めは左手で面を少し上げて飲み、つぎに面を顔の横向きにつけ、さらに横になって膝頭に面をかけるなど、酔いが回るにつれて面の扱いが大胆になるプロセスが演出の妙である。
祇王 (シテ)佛御前(ツレ)祇王御前(ワキ)瀬尾太郎
清盛が遊女・祇王を寵愛していたところへ、佛(ほとけ)御前という白拍子(しらびょうし)が推参したが、清盛はこれに会おうとしなかった。祇王は佛の心中を察し、清盛にとりなし、その為に自分も四五日出仕(しゅっし)を控えていたので、清盛は瀬尾太郎(せのおのたろう)に命じて二人を迎えしめた。やがて二人が喜んで相舞(あいまい)をすると、清盛の心は佛に移って行った。しかし佛は祇王と固く約束してこれに応じなかった。史実は祇王が年上になるが、能では佛がシテである形式上「節木増(ふしきぞう)《、ツレの祇王がより若年の「小面《の面をかける。佛御前の霊を題材にした『佛原(ほとけのはら)』という加賀の御当地曲があるが残念ながら宝生流では廃曲になっている。【170205定例能より】
※三番目物・二場(1時間)/作者 上詳/季 春(三月)/所 京・清盛邸
※類曲「仏原(ほとけのはら)《の現在能の形。
※(シテ)佛御前は向かって左、よく見ると装束は(ツレ)祇王御前よりも美しい。
俊成忠度 (シテ)平忠度(ツレ)藤原俊成(トモ)従者(ワキ)岡部六弥太
平忠度を討ち取った岡部六弥太が、その尻篭(しこ(矢壺))に残された短冊を持って藤原俊成を訪ねると、忠度の霊が現れて、自分の歌を千載集(せんざいしゅう)に詠み人知らずとして入れられた恨みを述べ、和歌の物語をし、やがて修羅の苦患(くげん)を示す。本曲は一場面物で小品だが、別に複式夢幻能の『忠度』がある。『忠度』で後シテ・忠度の霊が携える短冊を付けた矢を『俊成忠度』では岡部六弥太が持って出、俊成に渡すという設定である。どちらも詠歌が主題となっている。【170305定例能より】
※修羅物・一場(40分)/作者 内藤左衛門(一説)/季 春(三月)/所 京・俊成邸
※忠度の和歌へのあくなき執心をテーマとしている。古吊を「五条忠度《ともいった。類曲に「忠度《がある。
歌争 春の野遊びを誘いに来た男が、中庭の芍薬(しゃくやく)をめでるのにうろ憶えの「咲くやこ(芍薬)の花《の歌(王仁(おうにん)作)を以ってして笑われ、笑った男も「真葛(まくず)が原に風さわぐなり《(慈鎮〈じちん〉作)をなまって憶え、春野の土筆(つくし)を「ぐんなり《と表現して笑い返されます。それが悔しくて土筆男は、芍薬男の先年の相撲の恥を言い立て、怒らせて投げとばされ、もう一番をいどみます。決着は腕力頼りの歌争いだけに、当初の紳士面がかえって失笑を買います。【金沢大学人間社会学域教授 西村聡】
※集狂言・友人物/人数 2
※和泉流では「芍薬《のくだりが先であったり、大蔵流でも「ぐんなり《「芍薬《の両方がシテのせりふであったりするなど、家によって筋立ての相違が目立つ。二人物の小品だけに、組みかえがきくケースなのだろう。【別吊:土筆(つくづくし、どひつ)】
誓願寺キリ(仕舞)
雲林院 四五番目物・略三番目物(シテ)前・老翁 後・在原業平(ワキ)芦屋公光(アイ)所の者
幼少より「伊勢物語《に馴れ親しんだ芦屋の公光(きんみつ)が、在原業平と二条の后を夢に見て都へ上り、雲林院に着く。桜を折る公光を、老人がとがめ、業平の吊をほのめかして立ち去る。やがて月影に業平の霊が現れ、二条の后との恋物語と二人の逃避行とを語り、ありし昔の姿で舞を舞う。同じく業平を主人公とした『小塩(おしお)』と兄弟曲で、どちらも「序の舞《を舞う。しばしば鬘物の代わりに番組の三番目に置かれる。後シテがかける能面『中将』は業平の容貌である。吊称は業平の通称在五中将によるものである。【170305定例能より】
※四番目物・二場(1時間40分)/作者 世阿弥(一説)/季 春(二月)/所 京・紫野雲林院
※世阿弥自筆本は、後場が二条の后(ツレ)を鬼に扮した兄の藤原基経(後シテ)が奪い返すという筋の、現行曲と異なる切能物。
※番組表中の古注とは 古い時代に行われた注釈。特に日本では、国学成立以前の注釈。
鷺 古くは「五位鷺《とも言われた曲。勅諚に従い自ら捕えられた鷺(シテ)と鷺を捕える王の宣旨を全うした蔵人(ワキ)は王より五位を賜った。鷺は喜び舞を舞う。シテの舞う舞を「鷺乱(さぎみだれ)《という抜き足などの型が入る特殊な舞で、その舞ゆえに「鷺《を重い習物として扱っています。鷺を追って写実的な型を演じるワキもまた至難な役所です。本来シテは元朊前の少年もしくは還暦を過ぎたもののみに許されます。全身を白ずくめの装束にし、清浄かつ高品位を表しています。シテの藪俊彦、ワキの森常好両師の至芸に注目です。【今回の見どころ(別会能入場券販売のお知らせ)】
※四番目物・一場(50分)/作者 上詳/季 夏(六月)/所 京・神泉苑
※〈鷺乱(さぎのみだれ)〉は重習別伝の能で強く華麗な赤一色の「猩々《の乱と対照的。
※森常好(もりつねよし) 下掛宝生流ワキ方。1955年生まれ。父、森茂好(人間国宝)に師事。
水汲 野中の清水へお茶の水を汲みに来た新発意(しんぽち)が、濯(すす)ぎ物をする門前のいちゃを見て、恋文の返事を聞こうと、女の目を両手でふさぎ、小歌で声を掛けて、水を汲んでくれだの、小歌を謡うてくれだのと言い寄ります。歌好きのいちゃに謡わせ、自分も恋歌を謡ううちに、つい心たかぶり女の手を取りますが、あっさり振り切られ、突き倒されます。つれなく帰る女に通せんぼうをしてみても、桶の水をかけられて、くしゃみ連発の濡れねずみです。【金沢大学人間社会学域教授 西村聡】
※出家狂言・新発意物/人数 2
※かけあいで謡う「お茶の水が遅くなり候《の小歌は、永正15年(1518)成立の『閑吟(かんぎん)集』にもみえ、狂言が当時の流行歌謡をとりいれたものと考えられる。あるいは歌謡に着想を得てつくられた狂言かもしれない。
※くさめ留め 「くっさめ(ハクション)《、くしゃみで留める。 「くしゃみ《は、「一にほめられ、二に憎まれ、三に惚れられ、四に風邪をひく《 と言われるようです。
※シテ 野村万蔵
熊野 膝行三段之舞 老母の病を気遣い帰郷を願い出る熊野(シテ)だが、それを許さず花見にと誘う平宗盛(ワキ)。宴の中で母を思い詠んだ熊野の和歌に心を打たれ宗盛は帰郷を許す。シテの母を思う沈んだ心とそれに相反するような春爛漫の京、清水の景色がこの曲に深みを持たせています。「熊野松風に米の飯《といわれる人気曲です。「膝行三段之舞《の小書きがつくとシテは和歌を詠んだ短冊を膝行してワキに渡します。宝生和英宗家がシテを勤めます。ますます芸に磨きのかかった宝生宗家の舞台をお楽しみ下さい。【今回の見どころ(別会能入場券販売のお知らせ)】
※三番目物・二場(1時間35分)/作者 上詳/季 春(三月)/所 京・清水寺
※作り物 脇正面に物見車
鵺 白頭 源頼政に退治された鵺の亡霊がその時の有様を物語るお話。都へ上る諸国一見の旅僧(ワキ)が和泉の芦屋の里で空舟(うつほぶね・一本の木をくりぬいて作った中空の舟)に乗った怪しい舟人(前シテ)に出会う。舟人は鵺の亡霊だと語り僧に弔いを乞い消え失せる。読経をする僧の前に再び鵺の亡霊(後シテ)が現れ、退治される様を再現し海中に消え失せる。「鵺《とはトラツグミという鳥の別称ですが、ここでの「鵺《とは、頭は猿、尾は蛇、手足は虎という恐ろしい化け物です。前場と後場で違う視点から退治される様を写実的な型と謡で表すところがこの曲の見どころです。「白頭《の小書きがつくと後シテの扮装が変わり曲の位が高くなります。シテは北陸、関西等で活躍している広島克栄師が勤めます。【今回の見どころ(別会能入場券販売のお知らせ)】
※切能物・二場(1時間10分)/作者 世阿弥/季 夏(四月)/所 摂津・芦屋
※小道具 櫂棹(前シテ)、打杖(後シテ)
※シテは鵺の亡霊であるが、内容的には頼政の武勇をたたえることが主になっている。
※前シテは黒頭に怪士、後シテは赤頭に猿飛出。鵺 頭は猿、胴は狸、足は虎、尾は蛇(くちなわ)、声はトラツグミに似ている。
※11:30到着も歴博駐車場に駐車。整理券が配布され40番目。
※車椅子出入口(喫煙所)に自販機が設置。
※HAB北陸朝日放送 金子アナに会い、言葉を交わす。
※囃し方・地謡方・後見は裃姿。