腹腔鏡下仙骨膣固定術について

骨盤臓器脱と手術
 膣から骨盤臓器(膀胱/子宮/直腸)が脱出する病気を総称して骨盤臓器脱と言います。脱出による不快感以外に、排尿障害(尿失禁/排尿困難)や排便障害(便失禁/便秘)を伴うこともあります。治療法には、薬/骨盤底筋体操/ペッサリー/手術などがあります。手術は、膣から(経膣的手術)、またはお腹から(経腹的手術)行います。経膣的手術は、体への負担は軽いのですが、再発が多いという欠点が指摘されています。一方経腹的手術、特にその代表である仙骨膣固定術は最も再発が少ない方法ですが、これまでは下腹部を縦に大きく切開する必要がありました。

腹腔鏡下仙骨膣固定術
 近年、腹腔鏡手術というお腹に小さな穴を数カ所開けて行う技術が進歩してきたこともあり、腹腔鏡を使った仙骨膣固定術、すなわち腹腔鏡下仙骨膣固定術を行う施設が、欧米を中心に急速に増加しています。当科でも、20136月より腹腔鏡下仙骨膣固定術を開始しました。

メッシュ手術について 
 当科では、20135月まではメッシュという人工物を用いた経膣的骨盤底再建手術(TVM手術)も行っていました。この手術は、経膣的手術でありながら仙骨膣固定術同様、再発が非常に少ない方法でした。しかし欧米諸国では、メッシュ関連の合併症が多く発生したため、経膣的なメッシュ手術は行われなくなっています。日本では、当科も含めてそのような合併症は少ないのですが、日本でも、経膣的なメッシュ手術を実施する施設は減少しています。 そこで、TVM手術に代わる方法として、この腹腔鏡下仙骨膣固定術を行うことにしました。なお、メッシュを経腹的手術で用いることの安全性は、欧米でも認められています。



実際の手術方法
 臍に約1.5cmの穴を開けて、ポートと呼ばれる筒状の器具を差し込みます。他に4(通常5mmのポート3本と12mmのポート1)のポートを下図のような配置で差し込みます。お腹に炭酸ガスを注入して膨らませ、臍のポートから挿入する腹腔鏡というカメラ付きの器具で体内をテレビモニターに映し出します。他4本のポートから、細長い器具(鉗子と言います)を体内に挿入し、モニターを見ながら手術を行います。
下図にポートの配置を示します。


 子宮がある方の場合、子宮のごく一部(子宮頚部の一部のみ)を残して、子宮を摘除します。摘除した子宮は、細砕器を用いて細かくして体外に摘出します。念のため、摘出した子宮に病理検査を行い、子宮癌等の異常がないかを調べます。その結果は、2-3週間後に判明しますので、通常、退院後に外来で説明をします。子宮頚部を残すため、年1回の子宮癌検診が必要です。なお、子宮の全摘(子宮頚部も含めた子宮全体)を希望される場合は、仙骨膣固定術は行っておりません。他の方法(仙骨子宮靭帯固定、膣壁形成手術等)を選択しますが、脱の再発率は高くなります。
 膣に付着している膀胱と直腸を剥離していきます。膀胱側の膣を前膣壁、直腸側の膣を後膣壁と言います。剥離した前後の膣壁に、メッシュ(実際にお見せします)を縫合します。このメッシュの端を、仙骨にしっかり縫い付けて、膣が体外に脱出しないように固定します。
 手術時間は、2-3時間程度です。子宮亜全摘を併用する場合は3-4時間。さらに骨盤臓器脱の方に多い尿漏れ(腹圧性尿失禁)を治す手術も併用する場合は、3.5-4.5時間必要です。なお、メッシュをこのようにお腹の中で使用することは、欧米でも日本でも認められています。



正常な膣(下図)。


脱出がある膣(下図)。膀胱や直腸も、膣壁を介して体外に脱出しやすくなります。


メッシュを用いて膣を仙骨に固定します(下図)。




手術中に起こりうる事 

 膣や仙骨周囲の臓器(膀胱、尿管、直腸、小腸など)損傷が、ごく稀に発生します。生じた場合は腹腔鏡下に修復しますが、開腹して修復する場合もあります。腸に大きな損傷が起こった場合は、安全のため一時的に(2ヶ月程度)人工肛門を下腹部に造設します。尿路(膀胱や尿管)の損傷が生じた場合は、尿管や尿道にカテーテルを長期間(1-2ヶ月)留置することがあります。
 本手術に限ったことではありませんが、感染、大量出血、麻酔や出血の影響等で心臓、肺、脳に異常を来すことがあります。このような事が起こらないよう、常に細心の注意を払って手術を行っていますが、万一生じた場合は状況に応じて最善の対応をします。

手術後に起こりうる事 
 数%の方に脱が再発する可能性があります。軽度の再発で症状がない場合は、無処置で経過観察します。症状を伴う再発が起こった場合は、希望に応じて再手術(方法は状況によって異なります)を考慮します。
 数%の方に、膣壁に縫い付けたメッシュが、膣内に露出する事があります。通常、女性ホルモン剤で改善しますが、治り難い場合は、露出したメッシュを切除します。20-30%の方は、尿が漏れやすくなります(腹圧性尿失禁)。骨盤臓器脱の患者さんは、もともと腹圧性尿失禁が起こりやすい状態であっても、脱のために漏れにくくなっている事がよくあります。手術で脱が矯正されると、それまで隠れていた尿失禁が起こりやすくなります。手術前の診察で明らかに漏れる方は、手術中に再度漏れやすいかチェックした上で、尿失禁防止手術を行います(約30分)。手術中に尿失禁防止手術を行わなかった方で、術後に尿漏れで困る場合は、希望があれば後日(通常術後3ヶ月以降)尿失禁防止手術を行います。
 頻度は少ないのですが、便秘等の排便異常が起こる可能性があります。下剤等で対応しますが、症状が強い場合は当院の専門医(大腸肛門科)に診てもらいます。逆に、それまであった便秘が改善する事もよくあります。
 さらに稀ですが、膣と膀胱、または膣と直腸に瘻孔(穴があいてつながる)ができたりメッシュに感染することがあると報告されています。

入院期間と術後の注意など 
 入院期間は1週間程度です。退院後の外来通院は、術後2週間目/術後1か月目/術後3か月目/以降半年-1年毎を予定しています。術後少なくとも1ヶ月半までは、強い腹圧のかかる動作は避けてください。便秘気味の方は下剤(退院時に処方します)を使用してもらいます。1ヶ月程度は女性ホルモンを含む貼付剤を日に1枚使用してもらいます。術後3か月目までは、性行為と自転車は禁止です。入浴や普段の家事、車の運転程度は退院後すぐに開始しても構いません。

女性骨盤底再建センター

2007年8月6日から同センターは、診察室だけでなく中待ち合い室も含めて女性専用となりました。プライバシーを尊重した診療を行いますので、安心して受診頂けます。
診察は火曜日午後と金曜日午前に予約制で行います。
電話での受診相談/診察予約は、
平日午後3時から5時まで、電話0763−32ー3320(泌尿器科外来受付まで)で、泌尿器科外来看護師が対応します



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