詩 Y |
なくてはならぬもの |
生きることが
せつなくなった夜は
なみだの潜む 島へ渡ろう
深い杜は どこにある
今も 星々は
黒い梢にあるのだろうか
夜光虫のきらめく 淀みをぬって
私は 想い出に たどりつく
トントンタン トントンタン
トンタントン トンタンタン
舟べりを叩く水音は 苦い記憶の数々
あやまちは亡霊となり 伏せた身体の
そこいらから 沸きたちのぼり
漆黒の闇のなかへ 消えて行く
やがて 私は
光を失い
前歯も欠けほころび とうに髪は抜け落ちて
ちぢれた両手は
はたして なにを掴むというのだろうか
たちつくす肢には 昔の面影もない
それでも
かすかに 聞こえてくる声は
トントンタン トントンタン
トンタントン トンタンタン
それでも
なくてはならぬものは
かつて たしかにあった
花々と星々 だけだというのだろうか